6.5%は「条件にこだわらないが仕事が無い」…完全失業者の「仕事につけない理由」
・完全失業者における仕事につけない理由のトップは「希望する種類・内容の仕事が無い」。2017年では51万人が該当。
・若年層の完全失業者は技術・技能不足で失業している場合が多い。また「希望する種類・内容の仕事が無い」も多い。
・2017年の前年からの完全失業者の仕事につけない理由の変化としては、65歳以上で「自分の技術や技能が求人要件に満たない」が大きく増えているのが目立つ。
最多理由は「希望する種類・内容の仕事が無い」
仕事ができる状態にあり、仕事をしたくて探しているが見つからずに無職状態にある「完全失業者」の人で、どのような仕事を探しているかに関する論議がある。高望みをしているから職につけないのだと非難する声がある一方、中長期にわたり生活を支え時間を費やす仕事であるからこそ、自分の望みは極力充足させるべきであるとの声も多い。そこで完全失業者における、仕事につけない理由に関して、総務省統計局が2018年2月に発表した、2017年分となる労働力調査(詳細集計)の速報結果を基に、確認をする。
まず「完全失業率」という言葉について。これは「完全失業者÷労働力人口×100(%)」で算出される値だが、この「完全失業者」とは単なる失業者では無く、「仕事についていない」「仕事があればすぐにつくことができる」「仕事を探す活動をしていた」のすべてに当てはまる人のみが勘定される。例えば失職しているが怪我のためにすぐには働けない人、怪我も無くすぐに働けるが退職直後なのでしばらく休みたいから仕事は探していない人などは、この「完全失業者」には該当しない。
2017年における完全失業者数は190万人(前年比マイナス18万人)との結果が出ている。そのうちある程度の理由(=なぜ仕事につけないのか)が明確化しているものについて、まとめた結果が次のグラフ。もっとも多い理由は「希望する種類・内容の仕事が無い」とするもので、人数では51万人が該当している。
2017年分のグラフ上の人数の合計が完全失業者数の190万人に達しないのは、「その他の理由」があるため(公開データは整数値までの表記なので、端数処理の問題もある)。
前回年2016年から直近年2017年の動きを確認すると、グラフ上に表した主要項目においてはすべての項目で減少。つまり「完全失業者内においては」状況は改善されている。特に最低限の求人があれば充足される「条件にこだわらないが仕事が無い」の値は金融危機以前の値すら下回る状態が続いている。それなりに条件が限定される「希望する種類・内容の仕事が無い」でも金融危機ぼっ発以前の水準(2007年、79万人)を下回る状態が続いている。「リーマンショック」による労働市場悪化の影響はほぼ無くなり、雇用市場の改善が進んでいることがうかがえる。
年齢階層で異なる失業者の声
これを年齢階層別の割合で見ると、年齢階層別の失業事情を把握できる。
・若年層ほど技術・技能不足が多い。
・家族を抱えている人が多いこともあり、中堅層は(35-44歳は特に)「勤務時間・休日」などの条件がクリアできず、仕事が見つからない。
・どの年齢階層も「条件にこだわらないが仕事が無い」割合は数%ほど存在し、年齢階層別の傾向は見出し難い。
・若年層ほど「希望する種類・内容の仕事が無い」が多い(A)。
・高齢層ほど「求人の年齢と自分の年齢が合わない」が多い(B)。
・65歳以上では「賃金・給料」に関する問題の回答が無い。
・2016年から2017年の変移の特徴としては、
1)「求人の年齢と自分の年齢が合わない」がほとんどの年齢階層で減っている。
2)「勤務時間・休日」の条件で若年層の値が増えている。
3)「自分の技術や技能が求人要件に満たない」が65歳以上で大きく増えている。
(A)と(B)の2項目は2009年以降継続中の傾向として確認できる。まず(A)だが、「仕事における需要と供給のミスマッチ」が影響していると見て間違い無い。さらに「技術・技能」が不足しているからこそ、希望職種・内容が限定されてしまうパターンも少なからず存在すると考えると(例えば自動車免許が無ければタクシーのドライバーは不可能)、単純な「ミスマッチ」以外に「経験・技能不足による選択肢の少なさ」が就職活動の上で足を引っ張っている場合も想定される。就職活動において経験や技能は求職者の選択肢を増やす、重要な武器に違いが無いことが改めて分かる。
(B)は「年齢のミスマッチ」が問題。本人はやる気(、さらには技術や経験)を有するものの、越えられない壁と表現できる「年齢」が立ちはだかり、職につくことができない状態。「一般職における再就職は30代まで」との話もあるが、40代が含まれる「45~54歳」の層から「求人の年齢と自分の年齢が合わない」比率が急激に高まるのも合点がいく(ただし厚生労働省では事業主に対して、労働者の募集及び採用について年齢制限の原則禁止を義務付けている)。
2017年における前年比で「勤務時間・休日」の条件で若年層の値が増えているのは、この層での就業上の心境的な余裕が出てきたとも解釈できる。また65歳以上における「自分の技術や技能が求人要件に満たない」の大幅な増加は、技術などの本人の実情と比べて仕事をやる気が大きく上回る人が増えてきたのだろう。
2017年においては失業者数・失業率そのものは前年から改善している。一方、失業理由は相変わらず年齢階層によって大きな違いを見せているが、個々の年齢階層における問題点の明確化ができれば、その「問題点」の解決方法を模索し、手を打つことで、各年齢階層の雇用問題がさらに改善できる可能性は高い。無論数か月単位の話では無く、数年レベルの施策が求められる。特に「労使間の条件のミスマッチ」は情報の集約と容易な検索ができる環境の整備、「経験・技能不足」はそれらを習得させることで(本来これは学生時代にある程度成していなければならないのだが)、小さからぬ進展が期待できる。
他方、労働市場そのものが大きくならないことには、限られた受け皿の中でやりくりするのにも限界がある。そのためにも景気の回復と新たな雇用市場(=産業)の創生もまた、完全失業者を減らす施策として高い優先順位で求められよう。
■関連記事:
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。
(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。