ドラマ評論家・成馬零一のドラマ短評 『ナンバMG5』は新しいドラマ枠のブランドイメージを作れたのか?
『ナンバMG5』が今夜、最終回を迎える。
水曜夜10時に放送されている本作は、フジテレビが新しく設立したドラマ枠だ。
日本テレビ系の水曜ドラマ枠と時間帯が重なるため「どのようなドラマを打ち出すのか?」と気になっていたのだが、小沢としおのヤンキー漫画『ナンバMG5』(秋田書店)とその続編である『ナンバデッドエンド』(同)をドラマ化すると知った時は、おもしろい原作選びだと思った。
今クールに放送されていた『悪女(わる)~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?』のように、水曜ドラマは働く女性を主人公にした会社が舞台のドラマを続けて放送することで、女性向けドラマ枠として定着している。
対して、『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』を放送していた火曜ドラマ(TBS系火曜夜10時枠)は同じ女性を主人公にしたドラマでも、恋愛と結婚に焦点を当てており、いかに視聴者をキュンキュンさせるかに力を入れている。
どちらのドラマ枠も、かつての月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)が放送していたトレンディドラマの系譜にあるドラマ枠だが、放送されている作品のカラーは微妙に異なり、どこに力を入れるかの違いが、そのまま枠のブランドイメージとなって現れている。
水曜ドラマと火曜ドラマを筆頭に、ブランドイメージが明確なドラマ枠が結果的に定着している。
そのため、新しいドラマ枠を作る際には、単純に面白いドラマを作るだけでなく、放送枠のブランドイメージを確立するような作品を作らねばならないのだが、
この難題を『ナンバMG5』は、無事果たせたのではないかと思う。
箱庭の世界を覗き込む楽しさ
本作は、家族全員がヤンキーの難破家の次男で中学まではヤンキーだった剛(間宮祥太朗)が、普通の高校生として学校に通い、美術部で楽しい青春を過ごそうとする姿を描いた青春ドラマだ。
友達がトラブルに巻き込まれると白い特攻服と「殺」と書かれたマスクを身にまとってヤンキーと戦う姿は正体を隠して戦うヒーローモノのようで、ヤンキーと普通の高校生の二重生活を送る中で起きる悲喜こもごもが時にコミカルに時にシリアスに描かれる。
チーフ演出は『踊る大捜査線』(フジテレビ系、以下『踊る』)シリーズの本広克行が担当しているのだが、『踊る』にあった作り込んだ映像とバラエティ番組調のギャグは本作にも健在で、それが個性となっている。
個人的には本広監督とフジテレビが得意とするバラエティ番組的な「笑い」は苦手で、本作でもあまりノレなかったのだが、ケンカのシーンで見せるアクション等の映像に関しては文句なしに素晴らしかったと思う。
連続ドラマとしての面白さも健在で、剛を取り囲む人間関係が少しずつ広がっていく姿が楽しかった。これはドラマシリーズの時の『踊る』にもあった箱庭的な面白さで、各登場人物がそこで生きていると感じさせる手触りがあった。
丁寧に作り込まれた箱庭の世界とそこで生きる人々が話数を重ねるごとに実在感を増していく様子を眺める楽しさこそが、テレビドラマの魅力だと筆者は思うのだが、アクションを軸に男の子の視点から箱庭の世界の楽しさを描くことが『ナンバMG5』の目指したことだとしたら、その試みは成功だったと言えるだろう。
次の水曜フジのドラマは陸上自衛隊を舞台にした『テッパチ!』。
主演は町田啓太で、アクションを軸にした男の群像劇になるようだ。
『ナンバMG5』で確立した路線を突き詰めて、水曜フジのブランドイメージを作り上げてほしい。