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北朝鮮電撃訪問以外にない――北の脅威から人類を守るために

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
香港に出没したトランプ氏と金正恩氏そっくりさん(写真:ロイター/アフロ)

 習近平を褒め殺しにしていたトランプも遂に激しい失望を露わにした。軍事先制攻撃の選択はあるが、ピンポイント外科手術以外は犠牲が大きすぎる。制裁などで北は退かない。となればこの段階で食い止める道は一つしかない。

◆褒め殺しをやめたトランプ

 今年4月6日と7日の米中首脳会談以来、トランプ大統領は習近平国家主席を「尊敬する」「彼ならば、きっとやってくれる」と褒めに褒めて、北朝鮮問題の解決を習近平に預けた。

 中国もそれなりに努力して、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」を通して北朝鮮を非難。米軍が38度線を越えたら中国は黙っていないが、ピンポイントの「外科手術」なら、米軍の軍事行動を黙認するというところまで行った。

 この「ピンポイント的外科手術」とは「核・ミサイル施設のみの破壊」を指しているのだが、暗に「金正恩の斬首作戦」を示唆していると解釈を広げることもできる。しかも、失敗は許されない。先に手を出したからには、絶対に「100%」成功しなければならないのだ。

 それ以外の状況で北朝鮮を軍事攻撃した時には、必ず第三次世界大戦に発展する。

 中国はもちろん、それを望んでいない。

◆中国は北朝鮮の核・ミサイル開発を望んでいない

 中国はどのようなことがあっても、北朝鮮が核・ミサイルを保有する軍事大国になって欲しくはない。いつ北京にミサイルの照準を絞るか、分かったものではないからだ。

 もう一つには、もし北朝鮮が核保有国になれば、必ず韓国もそれを望み、その結果、日本が核保有国になろうとするのは明らかだからだ。それだけは避けたいと思っている。

 また北が強くなって南(韓国)をも統一した場合、すぐ隣の吉林省延辺朝鮮族自治州にいる中国籍朝鮮族が「民族としての望郷の念に駆られて」、統一された朝鮮半島に戻ることは不可避で、となれば中国にいる数多くの少数民族の独立を刺激する。それは中国共産党による一党支配体制を崩壊させるので、その意味でも北朝鮮が軍事大国になってしまうことは避けたいのである。

◆中国は制裁のコマしか持っていない

 中国が持っているのは「断油」「中朝国境封鎖」「中朝軍事同盟破棄」という3つのカードだ。しかし、これは「制裁」のカードでしかない。制裁を強化すれば、北はその国へとミサイルの照準を当てるだろう。中朝戦争が始まる。

 いかなる戦争であれ、大規模戦争が中国大陸上で始まれば、中国の一党支配体制は崩壊する。社会不安ほど習近平にとって怖いものはない。ましていわんや、今は5年に一度の党大会が待っている。来年3月に開催される全人代で、習近平は二期目の国家主席に就任するので、それまではいかなる事件も起きてほしくない。だから、戦争になることだけは絶対に避けようとするだろう。

 したがって、3枚のカードは持っていても、カードを切れないのである。

◆金正恩の悲願――最大の敵は朝鮮戦争の交戦国であるアメリカ

 いま金正恩が核・ミサイルで脅しているのはアメリカである。

 なぜなら朝鮮戦争の時の交戦国はアメリカをトップとした連合国で、韓国はその中の一国に過ぎない。休戦協定で署名をした相手は、連合国を代表するアメリカだった。

 そのアメリカに振り向かせたい。

 こちらを振り向いて、北朝鮮の存在を認めろというのが願望だ。

 具体的には休戦協定の最終目的である「平和協定」を結べと主張してきた。

 しかし、そう言いながら核・ミサイル開発をやめなかったので、「やめるまで、会わない」とアメリカは主張。しかし「やめるまで」という「国連の制裁」は、効力がなかったことを、歴史は証明している。

 これ以上、制裁を強化しても、その間に北は核・ミサイル技術の進歩を加速度的に遂げていくだけだ。

◆休戦協定に違反したアメリカが最終責任を

 これまで何度も考察してきたように、1953年7月27日に結ばれた休戦協定には、休戦協定署名後の3ヵ月以内に、すべての他国の軍隊は朝鮮半島から引き揚げることとなっている。中国は1958年までにすべて引き揚げた。しかしアメリカはこんにちに至るまで引き揚げていない。

 日本人は感覚がマヒしてしまって、在韓米軍がいるのは、まるで「自然の理」であるかのごとく錯覚しているが、これは明らかな休戦協定違反なのである。

 この事実に目を向けることは、まるで北朝鮮や中国の味方をしているような無言の圧力があり、「そんな事実はなかったもの」としなければならないような日本の世論の見えない圧力があるが、事実に目を向ける以外に、われわれ日本人を北の脅威から守る道はない。

◆トランプは北朝鮮を電撃訪問すべし!

 トランプが、習近平の褒め殺しをやめて「今後は容赦しない」と言ったところで、せいぜい北朝鮮と取引している中国企業や個人を制裁する程度で、こんなことでは北朝鮮はビクともしない。なにせ世界160ヶ国以上と国交を結んでいるし、統計に出て来ない「フロント企業」という闇企業で取引しているからだ。中朝貿易などは、「正当な統計」に出ているだけで、そんなものは闇取引の数値と比べれば、ほんの誤差範囲でしかない。

 かといって、アメリカには戦争に踏み切る勇気はないだろう。あまりに犠牲が大きいからだ。

 となれば、いまアメリカにできる唯一の方法は「トランプと金正恩が会うこと」だけである。

 かつてキッシンジャー(元米国務長官)が忍者外交で毛沢東や周恩来と会ったように、世界をアッと言わせる「米朝首脳会談」をするしかないのである。どうせ、トランプはキッシンジャーのアドバイスで政権を動かしている。ならば、忍者外交もキッシンジャーの真似をして、決断すればいい。

 これらの全ては拙著『習近平vs.トランプ  世界を制するのは誰か』に書いてある。こういう結論しか出て来ない根拠を徹底的に分析した。

◆安倍首相もぜひ、北朝鮮電撃訪問を!

 安倍首相にも提案したい。

 トランプだけでなく、安倍首相にもぜひ、北朝鮮を電撃訪問することをお勧めしたい。

 そうすれば、北の脅威は軽減するだけでなく、拉致問題解決の糸口も模索できる。日本国民の支持率も急増するだろう。

 田中角栄がニクソンと競走したように、安倍首相はトランプ大統領と競争すればいい。それを先に成し遂げた人間が、ノーベル平和賞を受賞するだろう。

 金正恩と会うことは、北の核・ミサイルを認めることになると警戒しているが、会わなくても、いや、会わない方が、北はもっと核・ミサイル技術をレベルアップしていく。その結果待っているのは、人類の滅亡だ。

 北の脅威に怯えながら生きていかなければならない日本国民を救うには、これしかない。

 その論理的根拠を、安倍総理は是非とも『習近平vs.トランプ  世界を制覇するのは誰か』を熟読して理解していただきたい。この本で全て詳述した。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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