4マスはすべてマイナス、ネット広告はプラス2.7%(経済産業省広告売上動向2023年8月分)
4マスはすべてマイナスに
経済産業省が先日発表した「特定サービス産業動態統計調査」の結果によれば、2023年8月分の日本全体の広告業全体における売上高は前年同月比でプラス2.7%となり、増加傾向にあることが分かった。主要業務種類5部門(4マスとも呼ばれる4大従来型メディアである新聞・雑誌・テレビ・ラジオと、新形態の広告媒体となるインターネット広告)では新聞、雑誌、テレビ、ラジオがマイナスを、インターネット広告がプラスを示した。下げた部門では新聞が一番下げ幅は大きく、マイナス9.9%。
今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものではない。また前回月分からの動きが確認しやすいよう、2023年7月分のデータも併せてグラフに反映している。
しばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、今回月ではすべてがマイナスを示した。2015年以降5マスは概して軟調が続いており、特に紙媒体の新聞と雑誌は下げ基調が止まらず、2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が29回、雑誌は45回。
一方、インターネット広告はプラス5.5%と前回月から継続する形でプラスを示した。新型コロナウイルス流行による経済活動萎縮の影響はインターネット広告への出稿にも生じていたものの、回復の動きも他部門と比べて早いものがある。
4マスとインターネット「以外」の一般広告(従来型広告)の動向は次の通り。
全部門で最大の上げ幅を示した海外広告だが、金額は約48億円。売上高合計へはさほど影響を与えなかったようだ。
インターネット広告は新聞の約9.62倍
部門別の具体的売上高は次の通り(億円単位における小数点以下は四捨五入しての表記となる)。
現時点では2014年1月を最後に、毎月の新聞の広告費の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、金額面で主要業務種類5部門の上位順位はインターネット広告・テレビ・新聞の順となっている。
今回月では両者の金額差は約1038億円。約9.62倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約147億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今回月も前回月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち、紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。
次のグラフは主要5部門、そして売上高合計(主要5部門以外の広告も含むことに注意)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査でインターネット広告の金額が調査されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。
雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額が漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては想定しがたいので、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されているようだ。
昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいもののインターネット広告が確実に上昇基調(プラス領域)の中にあり、他の媒体とのかい離が生じていたこと、テレビがプラスマイナスゼロ付近でもみ合いをしていたことが分かる。ラジオも似たような動きだったが、2017年初頭あたりから失速したようだ。
2015年に入ってから4マスの軟調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる。2014年同月からの反動でもなく、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できない。とりわけ新型コロナウイルスの流行による影響を大きく受けているように見える。
他方、インターネット広告も2017年以降伸び率がやや頭打ち、むしろ低下を示している。特に2019年10月以降は低迷感が否めなかった。消費税率引き上げ、そして新型コロナウイルスの流行によるものだろう。そして前年同月比でみる限りでは、新型コロナウイルス流行による広告費の減少ぶりは、リーマンショックのそれに等しい、むしろ下落期間が短い分だけ急降下な動きであることが確認できる。雑誌に限ればリーマンショック以上の下げ幅。そしてインターネット広告もともに大きく落ちていただけに、全体としてもより大きな下落といえる。
2020年夏ぐらいからの持ち直しで早期にプラス圏に転じ、さらに新型コロナウイルス流行前の水準に戻り、その上勢いよく成長しているようにすら見えるインターネット広告が救いではある。4マスも大きな上昇を見せていたが、これは前年同月の大幅減からの反動でしかないため、失速してしまっている。中でも昨今では再び雑誌が大きな下落を示している。
インターネット広告においては、2022年春あたりから成長が鈍化、さらには横ばいにと転じたようにも見られる。やはりロシアによるウクライナへの侵略戦争をきっかけにした物価高の影響だろうか。まだかろうじてプラス圏を維持している月が多いように見えるのが幸いではあるのだが。
何はともあれ新型コロナウイルスの流行、そして景気の足を引っ張っているもう一つの要素であるロシアによるウクライナへの侵略戦争が片付かないとお手上げ状態なのが実情には違いない。
上記は今記事のダイジェストニュース動画(筆者作成)。併せてご視聴いただければ幸いである。
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