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日韓関係悪化で拡がる反感 政治家と報道は感情対立をクールダウンさせよ

石丸次郎アジアプレス大阪事務所代表
東京秋葉原で行われた排外主義扇動デモに抗議する人。(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

90歳になる私の母が、「最近の韓国、嫌やねえ」と言い始めて、大いに戸惑っている。愚息が朝鮮半島に関する報道の仕事をしていることで韓国に親近感を持ち、私が韓国の友人を家に呼ぶと楽しそうに迎え、韓国伝統のお面を気に入って家の壁面のあちこちに飾っている、そんな韓国ひいきの人だったのに…。母はインターネットをしないので、テレビの影響だろう。

「今、韓国に行っても大丈夫?」仕事で頻繁にソウルを訪れるので、毎日のようにそう聞かれるようになった。逆に韓国の知人からは、「日本はたいそうな嫌韓ムードだそうだけど行っても大丈夫?」と尋ねられる。

大阪に長期滞在している韓国の友人は、楽しみにしていた娘の来阪がキャンセルになった。「日本になんか行かない」と娘が言うのでがっかりしている。日韓の外交、通商の対立は、市民の中に不安と反感を生む事態に至っている。

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■大使館への攻撃事件は危険信号

最近、とても気になる事件が立て続けに起こった。8月末、東京の韓国大使館に銃弾のようなものが入った封筒が送りつけられた。同封された脅迫文には「我々はライフルを持っていて、あらゆる角度から狙撃する」「韓国人は出て行け」などと書かれていたという。また9月1日には、韓国大使館の前に設置されたポストを壊したとして右翼団体幹部の男が現行犯逮捕されている。どちらも実に幼稚で卑怯な犯罪行為だ。

そんなものは、ごく一部の偏執的で非常識な人間の犯行だ、と多くの人は考えるかもしれない。だが、今、このような極端な行動が現れていることの根っこに反韓感情の拡がりがあるのは間違いないだろう。

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韓国政府関係者に問い合わせてみた。

「大使館や領事館にかかってくる匿名の抗議電話が8月に入ってからかなり増えました。ニュースを見て腹が立ったと言う方が多い。酔っぱらって電話してくる人もいます」とのことだった。

韓国でも事件が発生している。7月19日には、ソウルの日本大使館に突っ込もうとした乗用車が炎上する事件があった。乗っていた70代の男は、周囲に「親戚が強制徴用の被害者だった」などと話していたという。

8月23日には、観光でソウルを訪れた日本人女性が、声をかけてきた男性を無視したところ、髪の毛を掴まれ転ばされる事件があった。被害者の友人が撮影した動画が日韓で瞬く間に拡散し、日本では反感が拡がった(容疑者は日韓対立とは関係ないと供述とのこと)。この件に関しては、民放テレビで、中部大学の武田邦彦特任教授が「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行しなければならない」と、報復を呼びかけるような発言をして強い批判を浴びた。

■政治家とメディアが率先して「火消し」役を

ネット全盛の今の時代、両国の政治指導者たちの発言は、すぐに海を越えて報道される。それに対して対抗的な発言が飛び出し、また報じられる。それを見聞きした市民の中に、反感と対抗意識がむくむくと沸き起こる、そんな悪循環が始まっている。

韓国大使館にテロをちらつかせて脅迫した事件は「危険信号」だと認識したい。軽く見ていると、次の犯罪を誘発、エスカレートしかねない。万一、人に実害が出るような事件が発生したら、次は双方に報復感情が頭をもたげるかもしれない。そうなったら鎮静化させるのは大変だ。

大使館への攻撃のような卑劣な犯罪は、見過ごしてはならない。日本にいる韓国人、在日コリアンはどんよりした不安の中で暮らしている。それを少しでも和らげなくてはならない。「葛藤があっても、脅迫行為やテロは絶対に許さない」というメッセージを、安倍晋三首相や菅義偉官房長官が率先して発してほしい。それは韓国社会にもすぐ伝わるはずだ。逆もまたしかり。韓国の政治家にもお願いしたいことだ。

メディアには、しつこいくらいに繰り返しアナウンスしてほしい。熱を帯びた不安と反感の空気をクールダウンさせる行動が、今、両国の政治家とメディアに必要だと思う。

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※毎日新聞大阪版に9月10日寄稿した記事を加筆修正しました。

アジアプレス大阪事務所代表

1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。

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