「地球沸騰」でもニコニコと笑顔、日本のメディアの異常―小学校教師が立ち上がり多くの共感 #温暖化
「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が到来している」―国連のアントニオ・グテーレス事務総長がそう危機感を露わにしたのは、今年7月。同月27日、世界気象機関(WMO)は、世界の平均気温が観測史上最高の月になる見込みだと発表。日本においても、この夏(6~8月)の日本の平均気温が観測史上最も高かったと気象庁が今月1日に発表した。明らかに状況が異なってきている中、変わらないのが日本のメディア、特にテレビでの天気の解説だ。呆れたことに、アナウンサーらが「いや、暑いですねぇ~」とヘラヘラと笑うだけで、頑ななまでに「温暖化」ということに触れようとしないし、まして、温暖化を防ぐための具体策について、テレビ報道の中で語られることは、極めて少なかった。そうした報道のあり方について危機感と苛立ちを抱えていたのは、筆者だけではなかったらしい。一人の小学校教師が始めた、報道のあり方を問う署名が、今、多くの人々の共感を得て、広がりつつある。
〇メディアに違和感、立ち上がった小学校教員
神奈川県在住の小学校教員、小林悠さんは賛同者らと共に、今月21日、記者会見を行い、日本のメディアにおける猛暑や水害の報道への違和感を表明、これらの異常気象に関する報道のあり方に対する提案を1万7530筆の署名と共に、各テレビ局などに提出するとした。
小林さんは、日本のメディアに向け、「この暑さや水害は気象災害です。気候変動の原因と解決策を報道してください!」との署名を、今年7月29日、署名サイト「change.org」で開始した。小林さんは、異常な高温が続く中、朝の天気予報でアナウンサー等がただニコニコと「暑いですね」と言うだけで、「気候変動(=温暖化)」という言葉が全く出てこないことに、強い違和感を感じ、署名集めを始めたのだという。
日課として海外ニュースを視聴している小林さんは、日本と海外の報道の差を感じると語る。「海外のニュースを見ていると、干ばつ、山火事、豪雨等の報道の際、必ずといってもいいほど『気候変動』と関連づけられています」「例えば、シンガポールCNAでは、以下のようにに報道されていました」(小林さん)
「ワールド・ウェザー・アトリビューションによりますと、温室効果ガスの増加による温暖化の影響に加え、気候変動の影響で、今回の熱波は、ヨーロッパでは2.5度、北アメリカで2度、中国で1度高くなっており、中国に関しては、気候変動がなかった場合に比べて、50倍起こりやすくなってきています。気候変動は、熱波の強さだけでなく、起こる頻度にも影響します…パリ協定の目標を達成できなければ、さらに頻繁に熱波が襲うのは避けられない状況に、今世紀中になるだろうと、研究者らは予測しています」(引用:2023年7月26日 NHKワールドニュース音声吹替版)
〇専門家達も賛同コメント
こうした海外メディアと日本のメディアとの報道の内容の差を感じた小林さんは、署名集めを開始。ICPP(気候変動に関する多国間パネル)の報告書の作成にも関わる国内トップレベルの気候学者・江守正多さんも賛同し、コメントを寄せた。
また、気象予報士の井田寛子さんも自戒もこめたコメントを寄せた。
〇温暖化対策も報じてほしい
さらに小林さんらは、会見の中で異常気象等についての報道のあり方について提案をし、テレビ局等の各メディアに求めていくという。温暖化に関する事実は勿論のこと、温暖化対策についても報じるべきだと踏み込んでいる。
・温室効果ガスの増加による地球温暖化が、熱波や豪雨等の威力や頻度に影響を与えること
・一ヵ所の猛暑、水害、山火事の事象を断片的に報道するのではなく、日本・世界中の気象災害を横断的に報道して「気候変動」という事実を知らしめること
・地球の平均気温は産業革命以降1.2度上昇しており、パリ協定の「1.5度目標」を達成 できなけば、さらに気候変動の影響は大きくなると予測されていること
・再生可能エネルギー、非ガソリン車、設備の省エネ・効率化、生態系破壊の抑制等、今すでにある排出削減手段・技術を最大限活用することで、気候危機を最小限に抑えることができること
・化石燃料から脱却しなければこの暑さはいつまでも深刻化するため熱中症対策として提案されるエアコンなどの使用は自然エネルギーへ変換していかなければならないことへの言及
〇報道関係者の意識変革が必要
小林さんは、「暑さや大雨への警戒だけでなく、今人類が直面している『気候変動』という事実を市民に知らしめなければ、日本人は今地球で何が起きているか知らないまま茹でガエル状態になってしまいます」と強調する。
「IPCC統合報告書によると、気候変動の解決策はすでに沢山そろっています。あとは、『やるか、やらないか』です。現状認識を見誤れば、今すぐ必要な温暖化対策も手遅れになるでしょう」(同)。
筆者としても小林さんらの提案に大いに賛同する。WMOやIPCCなどの国際的の科学的知見からも、地球温暖化のレベルが明らかに変わってきていることは疑う余地はない。世界の状況が大きく変化しているのだから、日本のメディアの報道のあり方もまた、変化しなくてはならない。温暖化の進行を止められなければ、それこそ、人類の存亡にも関わる。報道関係者も、何を伝えるのかのポリシーや、プライオリティーを更新していくべきなのだ。
(了)