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日本の行革手法の海外輸出の試み ~行政事業レビュー、インドネシアで試行的実施~

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与
グオサリ村で試行的に行った行政事業レビューの模様(5月20日筆者撮影)

政府が2010年から実施している行政事業レビュー。公開の場で、外部の視点、統一様式のシートを活用して議論し評価を行う仕組みで、毎年度実施することを閣議決定している。

行政事業レビューの原型は「事業仕分け」だ。私が所属する構想日本が仕組みを開発し、2002年から地方自治体を対象に実施。2008年には自民党が初めて国の事業仕分けを行い、翌2009年には政府としての実施に至った。

地方においても、多くの自治体で同様の手法を取り入れた事業評価を行っており(構想日本としても毎年度10以上の自治体で協力している)、この手法は、国でも自治体でも定着してきたといえる。

ODAによる行政事業レビュー導入支援(なぜインドネシアなのか?)

この行政事業レビューが、海を渡ってインドネシアで行われることになった。構想日本が、ODA(政府開発援助)の担い手となり、2020年からインドネシアでの行政事業レビュー導入支援を行っているのだ。

なぜインドネシアなのか?

きっかけ作りから実現にに至るまでのキーマンは通訳者の北田多喜さん。もともと構想日本が行う事業仕分けに関心を持ち、通訳としてのフィールドであるインドネシアにこの手法を展開できないかと考えていた。

そのような中で、インドネシア側から北田さんに日本での研修に関しての相談があり、事業仕分けを紹介し、2011年にはJICAのプログラムによって中央政府の官僚や国会職員に対しての事業仕分けに関する研修を日本で行うことになった。

それ以降、毎年度のように研修を行い、2012年には、構想日本がインドネシアに行き、DPD(地方代表議会)の議員や研究者約200名を対象に事業仕分けに関する講演及びデモンストレーションを行った。

北田さんは、その後も頻繁にインドネシアのステークホルダーに、この手法の必要性を説いて回られた。

現在は、このプロジェクトのプロジェクトマネージャーを務めていただき、インドネシアの議会や行政職員、NGOスタッフなどへの研修講師も行っている。

このような動きと、2019年に河野太郎外務大臣の下に設置された「ODAに関する有識者懇談会」(筆者が座長)において、「JICAだけでなくNGOがこれ以上にODAの担い手になることがさらなる国際貢献につながる」との議論がまとめられたことなどが呼応する形で、今回の実施に至った。

プロジェクトの特徴・成果

このプロジェクトは1年単位で3年計画としている。第1期の目標は、行政事業レビューの考え方をインドネシア中央政府や地方政府に伝え、テキストブックを作ること。第2期(現在実施中)は試行的に行政事業レビューを実践することを目標に置いた。

また、日本のNGO(構想日本)とインドネシアのNGO(TIFA財団)がパートナーシップを組んで進めるスキームとしている(これも先述の通訳者のネットワークを活用)。

行政主導ではなく両国のNGOが主導して行政に働きかけていくこの仕組みは、大きな特徴であり、このプロジェクトに限らず、民から官を動かしていく発想は、社会を変えていくためにはとても重要だ。

2019年8月に始まったこのプロジェクトは、コロナ禍の影響で、これまでの渡航回数は、2020年3月といま(インドネシアから執筆中)の2回のみ。しかし、初回の渡航中に、政府のバペナス(国家企画開発庁)を訪問し、大変関心を持ってもらった。

その後は、TIFA財団や中央政府、地方政府の職員、国会職員などと繰り返しオンライン会議を重ねて、レビューの意義やねらいの共有を図った(これまでの50回を超えるオンライン会議を実施)。

その結果、インドネシアのバペナス、大統領府、内務省、行政改革省などによって構成されるOGI(オープンガバメント・インドネシア)が作成する行動計画に「行政事業レビュー」の文言が記載されることになった。

これは第1期の大きな成果であろう。

2020年3月のTIFA財団とのミーティング。この渡航が大きな成果につながった

無作為に選ばれて住民による判定も実施

そして、現在の第2期。地方での試行実施を目標として、通訳者やTIFA財団が様々な自治体にアプローチし、ジョグジャカルタ州の2つの村での試行実施が決まった(5月20日にGuwosari村、21日にSriharjo村で行うことになった)。

民主化されて30年に満たないインドネシアで、外部性と公開性を確保し一定の評価を行うこの手法を実施するだけでも大きなことだが、2村はさらに、構想日本が現在、地方自治体で進めている「住民判定人方式」(無作為に選ばれた住民が評価を行う方式)を採用することになった。

行政が行っていることをいかに住民にさらけ出せるか、また、住民が行政や地域のことを自分のこととして捉えられるようにしたいというインドネシア側の問題意識があったためだ。

現在私は、この2つの村の行政事業レビュー試行実施の視察のためインドネシアに滞在している。

具体的な議論の内容は改めて寄稿するが、質疑や住民のコメントは本質的なものが多く、やりとりは日本のそれとほとんど変わらないと感じた。

ODAの新しいあり方への挑戦

これまでは、施設や道路などハードの整備が多くあったODAの中で、行政改革を目指すアドボカシー型の支援は多くない。

予算事業における課題や市民への透明性の拡大など、行政が抱える課題は国を超えた共通点が多い。世界的にも早いスピードで進む少子高齢化など課題先進国と言われる日本の取組みは、他国の参考になるであろう。

まずは現在行っている行政事業レビュー試行実施が無事に終わり、そこから改善点等を整理することが重要だが、第3期は、両村での本格実施に加えて、州や県など村以外の行政機関での実施や、国レベルでのレビュー実施の働きかけなどを行っていく予定だ。

日本とインドネシアにおける「行政改革交流」を民レベルから政府レベルでも行うための橋渡しを今後は担っていきたい。それは、ODAの新しいあり方にもつながるだろう。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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