新型コロナで力士死亡 一命を取り留めた”大太り”英首相が「肥満」に宣戦布告
28歳の力士死亡の衝撃
[ロンドン発]日本相撲協会の三段目力士、勝武士(28)=本名末武清孝さん、山梨県出身、高田川部屋=が新型コロナウイルス性肺炎による多臓器不全で亡くなられました。新型コロナ感染による死者は角界では初めて。20代の死亡に衝撃が走りました。
4月4日ごろから38度台の発熱があり、同月10日にPCR検査で陽性が確認されました。力士の職業病と言われる糖尿病を患っていたと言われています。
2月11日までに集められた中国の症例に基づく持病ごとの致死率は下のグラフの通りです。糖尿病患者が新型コロナウイルスに感染した場合、致死率は7.3%です。
NHS(国民医療サービス)イングランドによると、3月31日から5月31日までに新型コロナウイルスに感染して亡くなった患者2万2332人のうち5873人(26%)が糖尿病を患っていました。
肥満を放置し続けると糖尿病になってしまう人が少なくありません。厚生労働省の2017年調査では糖尿病患者数は328万9000人。糖尿病患者の95%以上が遺伝的な要因に運動不足や食べ過ぎなど生活習慣が加わって発症する「2型」です。
糖尿病に限らず「肥満は万病のもと」と言われます。
肥満は糖尿病、高血圧症、循環器疾患の原因になると指摘されます。いずれも新型コロナウイルスに感染すると死亡するリスクが高いため、肥満対策に取り組もうという声がイギリスで起きています。
ボディマス指数が36を超えていた英首相
肥満に対し宣戦布告したのはボリス・ジョンソン英首相(55)です。ジョンソン首相は新型コロナウイルスに感染して一時、集中治療室(ICU)に運び込まれ、生死の境をさまよいました。
英紙デーリー・メールによると、パートナーのキャリー・シモンズさん(32)と交際を始めてからダイエットを勧められたものの、入院前のジョンソン首相の体重は111.13キログラム。身長175.26センチメートル。
ボディマス指数は体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った指数です。
低体重(18.5以下)
標準(18.5~24.9)
過体重(25.0~29.9)
肥満(30~34.9)
高度肥満(35以上)
ジョンソン首相のボディマス指数は36.17で「高度肥満」に該当します。一命を取り留めてからジョンソン首相は随分、痩せました。
ジョンソン首相は同僚と新型コロナウイルスに感染した場合、肥満の危険性について議論している時、「あなたは痩せているので大丈夫だよ」と話したと英紙タイムズ紙は報じています。
「ボリス・バイク」の成功体験
ジョンソン首相は新型コロナウイルスをきっかけに、国民の肥満対策として自転車通勤させるアイデアに取り憑かれているそうです。ジョンソン首相はロンドン市長時代に公共自転車のレンタルスキームである「ボリス・バイク」を750カ所(1万1500台)に普及させました。
これなら温室効果ガスの排出量も減らすことができ、地球温暖化対策を進めることができます。
イギリスでは2018年4月から子供の肥満対策として過剰な甘味飲料に「砂糖税(肥満税)」をかけています。喫煙者を減らして健康を増進する「たばこ税」と同じ考え方で、砂糖税をかけることで甘味飲料の消費を減らし、肥満対策を進める狙いがあります。
100ミリリットルに8グラム以上の砂糖が含まれていれば1リットル当たり24ペンス(約31円)を課税。5~8グラムなら18ペンス(約24円)が課せられます。 ジョンソン首相は市場への介入を嫌って砂糖税の見直しを宣言していました。
ジョンソン首相は規制を嫌って欧州連合(EU)からの強硬離脱を主張したことからも分かるように、もともと市場主義者でした。しかし皮肉にもEU離脱を機に国内の貧富の格差を是正するため鉄道の国有化や地域振興策など介入主義に大きく舵を切りました。
肥満対策に本格的に取り組むつもりなら砂糖税に対する懐疑主義を改める必要がありそうです。
新型コロナは「肥満大敵」
・グラスゴー大学のチームは42万8225人のデータを分析した結果、ボディマス指数が増加するにつれ重症化リスクが高まることを発見。肥満だと病院での治療が必要になるリスクが2倍以上にハネ上がりました。イギリスの大人の3人に1人は肥満に分類されます。
・イングランド・ウェールズ、北アイルランドで英国民医療サービス(NHS)の集中治療を受けた新型コロナウイルスの患者を調査した報告書によると、患者の平均年齢は58.6歳。男性71.3%、女性28.7%。
ボディマス指数25~30未満は全体の34.9%、30~40未満31%、40以上7.5%と、ICUに運び込まれる患者はジョンソン首相のように太った中年以上の男性が多いのが特徴でした。
・英オックスフォード大学のチームは2月1日から4月25日までNHS(英国民医療サービス)の約1743万人の健康記録を分析、新型コロナウイルス感染が原因で死亡していたのは5683人。コロナ死の主な要因とみなされるのは次の通りです。
・80歳以上のコロナ死亡率は50~60歳の12.64倍(ハザード比)
・男性のコロナ死亡率は女性の1.99倍
・ボディマス指数が40以上のコロナ死亡率は標準の2.27倍
・黒人のコロナ死亡率は白人の1.71倍
・米ニューヨーク大学のチームがニューヨーク市のコロナ患者4103人を調べたところ、同じように年齢と肥満が大きなリスクになっていました。
ボディマス指数30未満 1(オッズ比)
ボディマス指数30~40 4.26
ボディマス指数40超 6.2
・2015年に発表された論文によると、ボディマス指数が30以上(肥満)だとワクチンの効き目が十分ではなかったそうです。こうした相関関係は肥満の病院職員がB型肝炎ワクチンを摂取した1985年に最初に観察されています。
2009年の新型インフルエンザ・パンデミックでも肥満集団で発症と合併症リスクが高かったそうです。ボディマス指数が40以上の感染者はICUに運び込まれる割合は肥満でない感染者の2倍でした。肥満によってT細胞応答が損なわれる可能性が示唆されました。
「肥満はサイトカインストームを悪化させる」
大きな被害を出している欧米諸国と日本を比較してみました。
日本肥満症予防協会の松澤佑次理事長は筆者の取材に次のように解説しています。「肥満でも男性の重症化リスクが最も高いことから、男性に多い内臓脂肪の蓄積が大きな要因になっていることが考えられる」
「肥大して蓄積した内臓脂肪細胞から、TNFαやIL-6などの炎症性のアディポサイトカインが大量産生されるとともに、アディポネクチンのような抗炎症性アディポサイトカインの産生減少がもたらされて、脂肪組織の慢性炎症が起こっており、免疫系の暴走であるサイトカインストームが起きやすくなる」
「自然免疫は50歳前後から低下し始め、70歳から急激に下がる。獲得免疫も年齢とともに衰える。免疫システムはサイトカインを過剰生産することによってこの赤字を補おうとする。これが炎症の原因となる。新型コロナウイルスでは肥満によるアディポサイトカイン産生調節の破綻がサイトカインストームを悪化させ、病態に影響しているのではないかと考えている」
(おわり)