諸外国の軍事費・対GDP動向をさぐる(2021年公開版)
各国の軍事勢力・軍装備の状況を比較するのにもっともよく使われるのは、軍事支出の額面。だが各国の経済力や人口など多様な要素により、単純な額面比較だけでは不十分とする意見も多い。そこで使われる指標の一つが、軍事費の対GDP比。要は経済力に対し軍事関連支出をどの程度行っているかを示した値。今回は国際的な軍事研究機関のストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute、SIPRI)が発表した各種公開データを基に、主要国の軍事費対GDP比の動向を確認していく。
直近分の公開値となる2020年分においては、世界最大の軍事支出を行った国はアメリカ合衆国、次いで中国、インドの順となる。無論これはSIPRIが把握できる範囲での公開値による値であり、また国内調達分においてはそれぞれの国の相場で調達維持できることもあり、単純に軍事力への注力動向を完全網羅したことにはならない。あくまでも指標の一つに過ぎない。
そこで各国の軍事費に関して、それぞれの国の該当年のGDPに対する比率を算出し、その動向を示したのが次以降のグラフ。GDPとは国内総生産(Gross Domestic Product)の略。以前はGNP(Gross National Product、国民総生産)が指標としてよく使われていたが、GDPは国内のみの産出付加価値総額であるのに対し、GNPは海外に住む自国民の生産分も含めた付加価値の総額を意味する点が異なる。
サウジアラビアは8.45%。つまり同国では1年間に生み出した付加価値の1割近くの金額を軍事費としていることになる。アメリカ合衆国は3.74%、ロシアは4.26%、韓国は2.85%、日本は1.00%。
この対GDP比について過去からの推移を見たのが次のグラフ。
ある国の軍事費の絶対額が上昇しても同時にその国が経済発展を遂げていれば、今件値は横ばい、さらには減少すら示す。つまり今値は軍事力そのものの拡大縮小よりも、その国の軍事への注力度合いを見る指標ととらえた方がよい。上位国ではサウジアラビアが群を抜いて高い状況は以前から変わらない。アメリカ合衆国はいわゆる「9.11」以降、それまで減少傾向にあった値を上乗せする方針へ転じ、それはリーマンショック後まで続いた。その後はオバマ政権に変わったあたりから再び減少へと転じていた。しかしトランプ政権となってからは軍事政策の大きな転換が行われており、横ばい、さらには増加の動きがみられる。
おおよその国で今値は減少傾向にあるが、先進諸国が純粋に軍事費削減の結果として減少しているのに対し、中国やインドはGDPを底上げしており、むしろ軍事費の額面は増強されている。中国がほぼ横ばいなのは、同国の経済成長と同スピードで軍備拡張が行われていると解釈してよいだろう。
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