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本当は恐ろしいスーパー売り手市場 新卒求人倍率1.71倍の今、起こっていること、これから起こること

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
(提供:イメージマート)

リクルートワークス研究所が「第40回 ワークス大卒求人倍率調査(2024年卒)」を発表した。2024年卒の大卒者の求人倍率は1.71倍だ。1.6倍を超え、明確に売り手市場に転じたと言っていい。大学の就職指導の現場でも、大学には昨年を大きく超える求人票が届いているし、内定報告ラッシュが続いている。

もっとも、求人が少なく若者が路頭に迷う社会も問題だが、売り手市場もまた問題である。なぜか?現場で起きている問題、今後起きる問題について触れることにしよう。

まず、求人倍率の回復について、前出のリクルートワークス研究所のデータをもとに紹介したい。リーマンショック後の大卒求人倍率は2011年卒から2014年卒にかけて1.2倍台で推移したが、2015年卒で1.61倍となり、その後は1.7倍台の年度が3年続き、2019年卒には1.88倍、2020年卒には1.83倍と2年連続で1.8倍を超えた。新型コロナウイルスショックが直撃した2021年卒は1.53倍、2022年卒は1.50倍、2023年卒は1.58倍だった。

振り返ってみると、来年春卒の1.71倍は前年よりも0.13ポイント上昇しているし、コロナ前の状況と比較しても、売り手市場に転じていることがわかる。改めて、新型コロナウイルスショックにより求人倍率が悪化したことは間違いないのだが、リーマン・ショック後ほどは悪化しなかったことは明らかである。当時、就職氷河期再来とメディアは騒ぎ、その件について私は警鐘を乱打していたのだが、実際、そうはならなかったという事実を確認しておきたい。

詳細は元データを確認して頂きたいのだが、あらゆる企業規模で求人が回復しているのだが、特に300人未満の企業において顕著である。求人数は前年比で44,300人増え、求人倍率も6.19倍となった。

このレポートとは別の話になるが、新型コロナウイルスショックで採用活動のストップや、縮小を行っていたエアライン、旅行代理店、ホテルなどの採用活動が復活していることもポイントだ。ホテルに関してはすでに23年卒でも回復の動きがあった。

2023年卒でもすでに売り手市場の空気感だったが、2024年卒は特に顕著である。就職活動の時期の形骸化がさらに進み、早期からの内定出しが進んだ。オンラインと対面をハイブリッドに組み合わせ就職活動が進んでいく。結果として、内定長者が多数生まれている。

一方、売り手市場は必ずしも、就活生をハッピーにしない。どういうことか?採用活動が雑になり、不幸な連鎖が起こるのだ。

このたび、政府から経済団体に対して、採用活動に対する要請が行われた。採用活動の時期だけでなく、オワハラについて明記されたのが大きな変化である。一方で、大学の現場で学生の相談に向き合っていると、オワハラは多発している。他社の辞退の強要、内定承諾書の早期からの提出要請、さらには内定先でのアルバイトによる囲い込みなどが行われている。コロナあけモードということもあり、懇親会による囲い込みなども復活するだろう。

採用活動においても、選考が雑になりがちである。内定辞退率が50〜70%という企業もザラにある。少しでも内定者を増やそうと、選考プロセスの簡略化などが行われるのだが、内定の納得感がなく、学生はますます逃げる。ワンステップ採用なる、説明会と選考がセットになり、1日で内定が出る企業などが登場したりもする。

オンラインの説明会、選考が新型コロナウイルスショックにより広がった。便利なようで、これも学生、企業双方が実態を理解しにくくミスマッチを誘発する可能性が指摘されている。

結果として、売り手市場とはミスマッチ祭となってしまう可能性がある。しかも、就職した後に求人が悪化し、転職がしにくくなるリスクだってある。

くれぐれも言うが、求人回復自体は嬉しいニュースではある。ただ、これにより起きている採用活動の問題は直視しなくてはならないし、これが生み出す悲劇も認識しなくてはならない。

浮かれてはいけない。大学は学生をいかに守るか、中長期で企業とどのように関係性を構築するか、どのような業界・企業に若者を送り出すか、そもそも卒業後の進路や、その選択法をどうするか。いまこそ立ち止まって考えること、議論することが必要だ。売り手市場もまたこわいのだ。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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