ホロコースト国際記念日 アウシュビッツで追悼イベント「SNSでの匿名の否定論や偽情報の拡散を懸念」
「次世代はアウシュビッツで起きたことを語り継いでいくべき」
第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。1945年1月27日は旧ソ連軍によってアウシュビッツ絶滅収容所が解放された日であり、国際ホロコースト記念日に制定されている。毎年ホロコーストの犠牲者を追悼してアウシュビッツ絶滅収容所では1月27日の国際ホロコースト記念日にイベントが開催されている。ポーランド時間で夕方の18時から始まり、とても寒いがホロコーストの生存者や家族らの多くが出席していた。コロナ禍ではオンラインのみの開催だったが、現在では対面で実施しており、YouTubeで全世界に配信している。ホロコースト生存者もかなり高齢化が進んでおり、アウシュビッツ絶滅収容所で15歳で時に解放されたポーランド出身で現在はイスラエルに在住のハリナ・ビレンバウム氏は94歳になるがアウシュビッツ絶滅収容所の犠牲者を追悼して世界に向けてスピーチを行って、自身が収容されていた27番バラックのことやワルシャワゲットーからいくつもの収容所を転々とさせられていた経験を伝えていた。
SNSにはホロコースト否定とフェイクが拡散
ポーランド上院議長のマルゴルザタ・キダヴァ・ブロニスキ氏は現在でも反ユダヤ主義と民族憎悪が世界中で蔓延しており、ホロコーストなんてなかったとホロコーストを否定する人が多いことを危惧して「インターネットやSNSでは多くのホロコーストに関する情報が飛び交っていますが、次世代の若者たちは、ここアウシュビッツ絶滅収容所で起こったことを語り継いでいくべきです。現在ではインターネットやSNSなどの新しい技術が発展したことによって、匿名でホロコーストに関する多くの誤情報やフェイクニュースが拡散されています。またSNSなどではここで起こった歴史を否定することも簡単にできます。そしてウソの情報を多くの人に拡散されてしまいます。アウシュビッツ絶滅収容所で起きた悲惨な歴史の記憶を後世に伝えていきながら、反ユダヤ主義やホロコースト否定の偏見やステレオタイプを克服していき、全ての人が尊敬されるべき社会を構築していかないといけません」と語っていた。
現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。いわゆる「記憶のデジタル化」である。今年の追悼式にイスラエルから来ていた94歳のハリナ・ビレンバウム氏も記憶が鮮明で体力が持つうちに、アウシュビッツ絶滅収容所まで来てホロコースト時代の経験や記憶を語っていた。だがホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義である。
SNSであっという間に拡散される刺激的で過激な情報
SNSやインターネットにはホロコースト否定論、反ユダヤ主義の投稿が非常に目立っている。アウシュビッツ絶滅収容所博物館でもX(ツイッター)、インスタグラム、Facebook、YouTubeなどのSNSで多くの情報を発信している。他にもアウシュビッツ絶滅収容所博物館ではオンラインやバーチャルでの展示に注力している。仮想現実(VR)技術で紹介したり、オンラインで展示をしてホロコースト教育の教材を提供したり、パノラマで展示をしたりしている。最近ではポッドキャストでの配信にも注力しており、世界中のどこにいてもアウシュビッツ絶滅収容所のオンライン見学ができる。アウシュビッツ絶滅収容所博物館が提供しているオンラインでのツールやSNSでは、多くのデジタル化されたホロコーストの記憶や経験を積極的に発信して、ホロコーストの歴史を世界中のどこにいてもオンラインで学ぶことができる。
だが、アウシュビッツ絶滅収容所博物館が発信するデジタル化されたホロコースト時代の写真や生存者の証言、ホロコースト時代の映像や収容所のバーチャルツアーといった歴史に即した正しい情報やデジタル化された貴重なコンテンツよりも、ホロコースト否定論や反ユダヤ主義の投稿の方が内容が刺激的で過激なものが多いため、事実確認もしないで面白がったり、煽られたりして「いいね」を押下したりリポストしたりするなど、SNSではあっという間に多くの人に拡散されている。
▼世界中にライブ配信されたアウシュビッツ絶滅収容所で開催された国際ホロコースト記念日のイベント