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コロナ第二波には50歳以上の外出禁止令か 2度目の都市封鎖回避に英政府が検討

木村正人在英国際ジャーナリスト
自粛生活ももう限界、英南部ボーンマスのビーチに繰り出した市民(7月31日)(写真:ロイター/アフロ)

相次ぐ地域封鎖

[ロンドン発]新型コロナウイルスの第二波への懸念が膨らむ中、ボリス・ジョンソン英首相は2度目の都市封鎖(ロックダウン)を回避するため、50歳以上に限定した外出禁止令やロンドンから他の地域への旅行制限を検討していると英日曜紙サンデー・タイムズが報じました。

しかし「年齢差別で間違った考え。まず若者に社会的距離を守らせよ」と批判されています。

イギリスの感染者は約30万4700人、死者は約4万6200人。第一波はいったん収束したものの、1日当たりの新規感染者数は7月31日に880人に達しました。感染が拡大している英イングランド北部のマンチェスター全域、イーストランカシャー、ウェストヨークシャーの一部では7月31日に約450万人を対象に戸別訪問禁止令が発動されました。

サッカーの岡崎慎司選手が2015~19年に所属したレスター・シティFCの本拠地レスターでは6月、食品加工工場でクラスター(集団感染)が発生。感染拡大を防ぐため、同月29日にイギリスでは初めて地域封鎖が実施されました。一部地域ですでに解除されていますが、戸別訪問禁止令が同じように適用されます。

クリス・ホウィッティ・イングランド主席医務官は7月31日「ジョンソン政権は都市封鎖の解除を限界にまで押し進めた。すぐに止めるべきだ。これ以上、人の移動を自由にすると確実に第二波の発生を引き起こす」と、クリスマスまでに正常化を目指していたジョンソン首相に警告を発しました。

これを受け、ジョンソン首相はカジノやボウリング場、スポーツイベントの再開を先延ばししました。

感染防止と経済はトレードオフ

新型コロナウイルスに対するワクチンや治療法が見つかるまで、「感染拡大の防止」と「経済」は完全にトレードオフ(何かを得ると、別の何かを失う関係)にあるため、どれだけ慎重に経済活動を再開させても経済活動が活発になってくると感染拡大は避けられません。

英国家統計局(ONS)によると、新型コロナウイルスによるイギリス経済の落ち込みは2016年を100にした指数をみると下のグラフのようになっています。どん底だった4月から少し回復したものの、5月時点で2月に比べ24.5%も縮小してしまいました。これでは新型コロナウイルスを生き延びても、経済的な死が待ち受けています。

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欧州連合(EU)との離脱交渉に大きな進展が見られないまま、今年末に移行期間の期限が切れてしまいます。このため、EU域内と緊密なサプライチェーンを築き上げてきたイギリスの自動車産業などの製造業は致命的な打撃を受け、国際金融都市ロンドンも深刻な影響を免れないでしょう。

EU離脱が決定する前には年間200万台を目指していたイギリスの自動車生産台数はこの6月には101万7971台にまで落ち込んでしまいました。日産自動車は「EUとの新たな貿易協定を結ばないまま離脱することになると、イギリスのサンダーランド工場は維持できない」と何度も警告を発しています。

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「冷房と暖房の両方をかける」

日本が観光・外食支援の「Go To」なら、イギリスも外食支援の「Eat Out」キャンペーンを展開。来年1月まで飲食店やホテルで日本の消費税に相当する付加価値税(VAT)を20%から5%に引き下げ、8月の月・火・水曜日、レストランで最大50%のディスカウント(1人当たり最大10ポンド)を実施します。

東京都の小池百合子知事の「冷房(感染防止対策)と暖房(緊急経済対策)の両方をかける」という皮肉ではありませんが、世界中がコロナ対策のため冷房と暖房をかけているのが実態です。しかし国の予算にも限りがあります。ブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルや国際通貨基金(IMF)によると先進国のコロナ財政出動状況は次の通りです。

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高齢者や肥満者、基礎疾患のあるハイリスクグループを守るために全国一律の都市封鎖をもう一度打てる体力は先進国にはないのが厳しい現実です。コロナと生きるのに「ゼロリスク」はあり得ません。リスクをコントロールしていくことが求められています。

ジョンソン政権はハイリスクグループ限定の外出禁止令、クラスターが発生しやすい特定業種の営業停止、感染が広がり始めている地域の封鎖を組み合わせて、2度目の都市封鎖を何とか回避しようとしています。

その中で、リスクがほとんどない50歳未満のグループには普段通りの生活を送ってもらって経済を再開させ、50歳以上のリスクグループは外出禁止令で「バブル(隔離空間)」の中に閉じ込める対策を検討しているのかもしれません。

新型コロナ年齢とは

英地方自治体医療アドバイザー協会(Alama)は実年齢とは異なる「新型コロナウイルス年齢」を示しています。

例えば、健康な40歳の白人女性の「新型コロナウイルス年齢」は40歳-5歳=35歳、

45歳の白人男性でボディマス指数(BMI)が36なら、45歳+5歳+3歳=53歳、

50歳のアジア系女性で2型糖尿病の基礎疾患があれば、50歳-5歳+4歳+8歳=57歳といった具合です。

【新型コロナウイルス年齢】

リスク要因    新型コロナウイルス年齢の増減

女性       マイナス5歳

アジア系     プラス4歳

黒人       プラス5歳

BMI30~34.9   プラス3歳

BMI35~39.9   プラス5歳

BMI40以上    プラス9歳

慢性呼吸器疾患  プラス6歳

1型糖尿病    プラス7~12歳

2型糖尿病    プラス4~8歳

肝臓疾患     プラス6歳

臓器移植     プラス12歳

筆者の場合、実年齢58歳のアジア系男性で基礎疾患なしなので「コロナ年齢」は62歳。「バブル」の中に再び閉じ込められてしまうかもしれません。コロナ対策が十分でなければ、この冬、イギリスでは合理的な最悪シナリオに基づくと12万人が新たに犠牲になると予測されています。

リスクをゼロに近づけるため都市封鎖をいつまでも続けるわけにもいかず、経済をフルに再開することもできません。ワクチンや治療法が見つかるまで、私たちは気の遠くなるような「だまし運転」を続けないといけないようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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