今回の相場変動の背景のひとつが日銀を巡る固定観念か
日銀の内田副総裁は5日、 函館市金融経済懇談会における挨拶のなかに下記のような発言があった。
「2年以上にわたって物価が2%を上回っており、今年度の見通しでも上回ると予想されます」
2月8日の奈良県金融経済懇談会における挨拶では下記のような発言となっていた。
「基調的な物価上昇率は、25年度にかけて、2%に向けて徐々に高まっていくと考えています」
金融政策決定会合における主な意見(7月30、31日開催)でも下記のような意見が出ていた。
「消費者物価の基調的な上昇率は徐々に高まっていくと予想され、見通し期間後半には物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移すると考えられる」
「2%を超える物価上昇が3年目となるなか、物価安定の目標の厳密な意味での実現とは別に、家計を中心に「目標」実現が従来よりも意識されてきていることを認識する必要がある」
日銀の物価目標は「基調的な物価上昇率」ではなく、消費者物価指数(除く生鮮)であり、これは2%に届いていないどころか、2年以上にわたって物価が2%を上回っている。
それにも関わらず日銀が動いたのは今年3月のマイナス金利解除と7月の0.25%への利上げであった。
少なくとも日銀の物価目標は数字上、2022年4月に消費者物価指数(除く生鮮)が前年同月2.1%と目標の2%を超えてから、直近発表された2024年6月まで2%台を維持している。
それにも関わらず日銀は異次元緩和からの修正を今年3月までしてこなかった。
これから市場参加者は日銀は緩和しかみていない、利上げはできないとの認識を強く持ってしまった可能性は高い。
実際、7月の利上げについても市場関係者の間でも利上げあり予想が3割に止まっていた。このため、7月31日の利上げは利上げはできないとの認識を強く持った参加者にとってはサプライズとなってしまった可能性はある。
0.25%程度の政策金利が景気を悪化させる事は考えづらい。さらに円安にブレーキを掛けることで物価上昇の抑制にも繋がる。効果としては当然プラス面が多い。
しかし動くわけない、とみていた向きのポジションが存在していた。いわゆる円キャリートレードと呼ばれる取引を行っていたヘッジファンドのポジションなどである。
米国市場では7月10日あたりからインフレトレードの解消の動きが強まり、ハイテク株関連株が下落してきた。FRBによる9月の利下げ観測の強まりもあって米債は買い戻され、それによって円安調整も入っていた。
これによって各チャートも崩れてきたことで、テクニカルな売りも出やすい状況となっていた。そのタイミングで、ないとみていた日銀の利上げがあったこともあり、ヘッジファンドなどのポジション解消の売買が一気に出たのが5日の東京市場であったとみられる。
利上げによる景気への影響ではなく、円キャリートレードのポジションを持っていた市場参加者にとっては想定外のことが起きてしまったこともあり、チャート上もストップロスが掛かる状況下、ポジションを閉じる必要に迫られたものと考えられる。