下ネタ満載参考書でセンター試験は乗り切れるのか
ねとらぼ風に言えば「驚愕!参考書なのに下ネタばっかり」?
知人から、「これってどうよ」という物件が持ち込まれました。
のんびり記事を書いていたら、ハフィントンポストとTBSに先を越されましたが。
という参考書。
著者は駿台予備学校の霜栄氏。
版元は関連会社の駿台文庫。
一見すると、普通の参考書ですが、中身は下ネタ満載。
うん、これは、人によっては、
「これってどうよ」
どころか、怒り心頭となる物件です。
※以下、下ネタばっかりになりますので、読者は注意すること
一見真面目な参考書なんですが…
同書は、センター試験の漢字・語句問題のための参考書です。
「センター実践形式・新常用漢字対応約2000語」
「センター小説語句を実戦形式で360題収録」
などと表紙にあります。
「はじめに」では、漢字・語句の意味を学ぶ意義をこう記しています。
「センター試験の国語は、思考の手段である日本語を鍛える最後のチャンスとなります。漢字と語彙の力をしっかりと付けて、それを今後の、一生の生活や仕事で生きる力としていってください」
ふむ。では、同書に出てくる問題文を見ていきましょう。
受験間近の受験生は、問題文を解くと、日本語力が上がる、かもしれません。
※以下、囲み部分は注記がなければ同書からの引用です
問題文をどうぞ
彼女のなだらかなキョウリョウをうっとりと眺めた
→丘陵
うぉぉ、いいナガめ!
→眺(め)
彼女の体のユルやかなラインが僕をほっとさせる
→緩(やか)
胸のデカさに俺はキョソを失った
→挙措
私のリョウイキを侵して
→領域
君のエキスをチュウシュツして飲み干したい
→抽出
左手を軽くソえてね
→添(え)
彼女がリズミカルにシめ付けてきた
→締(め)
ゆっくり奥までソウニュウしてください
→挿入
フランス書院、マドンナメイトのエロ小説にあらず
女性読者がかなり引いたのは確実ですが、先を続けます。
同書には、一応、真面目な問題文もそれなりにあります。
ただ、下ネタに走っている問題文だけを抽出していくと、なんか、フランス書院やマドンナメイトなどのエロ小説の文例集みたいになってしまいました。
これで、ムカッとするか、にやけるかはさておき。
これ、本当にセンター実践形式、かあ?
どう考えても、著者が下ネタに走っているとしか思えません。
だって、
彼女の人生に俺という存在をコクインしたい
→刻印
ですよ?
分かりやすい例文を、との善意の発想かもしれませんが、いや、どう考えてもセンター試験には出なさそうな…。
河合塾本と比較してみた
試しに、別の出版社の同様の参考書を買ってみました。
『入試漢字マスター一八〇〇プラス』(川野一幸・立川芳雄・晴山亨、河合出版)です。
著者は3人とも河合塾講師、版元は河合塾の関連会社です。
以下、上段の「河合塾」は同書、下段の「霜」は『生きるセンター漢字・小説語句』にそれぞれ出題されている例文です。
抽出
河合塾:無作為にチュウシュツされた例に目を通す
霜:君のエキスをチュウシュツして飲み干したい
眺め
河合塾:老人は毎日海をナガめて過ごした
霜:うぉぉ、いいナガめ!
なんか、明らかに差がありすぎます。
無作為抽出なんて、論文や社会調査などをちょっとひっくり返せば出てくるキーワードですし、センター試験の評論問題に出てもおかしくはありません。
それが霜本では
「君のエキスを飲み干したい」。
出るかなあ?センター試験で。
ジェンダーという発想もあまりない?
下ネタが多いだけでなく、ジェンダーという発想があまり見られないのも同書の特徴。
夫婦間の家事ブンタンなんて幻想だ
→分担
一定スイジュン以上の女の子しかここには入れないんだ
→水準
男の収入をドガイシできる女なんているのか?
→度外視
押し倒しもせず手をこまねているとかバカ?
センター試験に出ない発想
こうした文章が「一生の生活や仕事で生きる力」になるか、というとちょっと微妙なところ。
センター試験は2000年代から、ジェンダーフリーに寄り過ぎ、との批判が出るほど、ジェンダーの発想を盛り込むようになっています。
こうした発想を知らないまま、センター試験に臨もうとしても、得点できるか、と言えばちょっとしんどいのではないでしょうか。
もちろん、センター試験の得点の是非とは無関係に、
「夫婦間の家事ブンタンなんて幻想だ」
と、突っ張るのは個人の自由です。
しかし、そうした思想は中高年層はまだしもこれからの日本を支える高校生・大学生が持ち続けるのは無理があるのではないでしょうか。
駿台に責任あり?
この件で、参考書を刊行した駿台予備学校にも非難する声が出ています。
ただ、私は駿台予備学校をそれほど非難する気にはなれません。
予備校は、大学と同様、多種多様な発想を持つ講師が存在します。
よく、極端な意見を持つ大学教員がいると、
「××大は、▲▲に染まっている」
などのネットの書き込みがあります。
実際には、真逆の意見を持つ教員だっているわけで、それと同じ、と私は考えます。
大学や予備校は企業のような営利団体の側面を持つ一方、企業のような組織構造になっていません。教員・講師については独立自営業主に近く、それを束ねているのが大学であり、予備校です。
それを、極端な意見を持っている回のような物議を醸す参考書・書籍を刊行したから、と言って、それを教員・講師でなく、大学・予備校にで連帯責任を負わせようとするのは何か違うのではないでしょうか。
責任というよりも、脇が甘かった?
とはいえ、駿台予備学校がまるっきり責任がないか、と言えばそうではありません。
責任というよりは営業上の問題かもしれません。
こうした下ネタに走る参考書を系列の出版社から刊行していれば、今回のように炎上しかねないことは明らかでした。
講義でも、下ネタに走れば、男子受講者には受けても、女子からはひんしゅくを買うだけです。
そういえば、私が代々木ゼミナールに通っていたとき、
「下々の諸君」
と上から目線で話す、下ネタに走る、
「×××したら、それは母親だった」
※とても公開できません、どうしても知りたい方は石渡の講演、イベントなどの終了後に個人的に聞いてください
という例文を大真面目に説明する、などの講師がいました。
私は時間が合わず受講できなかったのですが、彼の書いた参考書は優れていて(なぜか下ネタはゼロ)、壊滅的だった英語の成績が引きあがった、と覚えています。
ただ、この講師、あまりにも下ネタがひどく、結局、今は予備校講師から足を洗った、と聞いています。
そこそこ有名な方だったので、おそらく、駿台予備学校関係者もご存じのはず。
そうした事例を学ばなかったのは、ちょっと残念です。
たとえば、この参考書が、最初から「下ネタ満載」ということを断っていて、しかも駿台系列の出版社でなく、別の出版社で出していれば、またちょっと話は違ったかもしれません。
あくまでも、日本には言論の自由があるわけで。
しかし、普通の表紙で男女問わず使える、というテイストにしておいて、中身は下ネタ満載、ということであれば、セクハラ、と非難されても無理ないところ。
今後はどうなる?
この参考書、今のところ、書店に流通しているようですが、このペースで行くと、絶版かなあ。
見た目は普通というところが余計に下ネタを押し出しているところもあります。
いっそ、『下ネタで覚える漢字・語句』くらい、開き直って刊行する、というのも手、かもしれません。
霜栄氏はプロフィールを読むと、東大入試問題研究会を担当するなど、優秀な方のようです。
例文も、下ネタだけでなく、
身の丈に合うと思う恋なんて、本当の恋ではない
など、なんかいいことも書いています。
お会いしたことはないのですが、この参考書を通して読んだ限りでは、それほど悪い人には思えません。
ただ、ちょっとジェンダー意識が低くて、脇の甘い部分があったかな、と。
これから、あれこれ非難されることとは思いますが、才ある方、とお見受けしました。
それに、
オレ大丈夫、シュゴ神にシヴァ付いてっから
→守護
とのことですから、大丈夫ですよね。
これにめげず、頑張ってください。
1月14日2時追記
記事公開後、しばらくしてから、同書の絶版・回収が発表されました。
高校教員への配布や、一部高校では生徒の参考書としても採用された模様。
まあ、パッと見は普通の参考書ですからねえ…。
同じ、下ネタ採用の参考書としては『古文単語ゴロゴ』などがあります。
こちらも
「初Hで死ぬ」(はつ=死ぬ)
など微妙な表現多数。
ただ、表紙からも明らかなように、完全な色物路線で行っています。
色物路線が明らか、ということは高校での参考書採用、という話はそうそうないでしょう。
あったとしても、色物路線を承知のうえでの話です。
が、今回の『生きるセンター 漢字・小説語句』はそうではありませんでした。
そのため、不快に感じる女子高生が出てくるのは無理ないところ。
繰り返しますが、ちょっと脇が甘かったということに尽きるかな、と考えます。