20人のサイエンティストが宇宙の生命に寄せる愛『エイリアン 科学者たちが語る地球外生命』
「液体の水が存在する惑星」が太陽系の外に見つかった。2019年9月11日、ロンドン大学の研究者は地球から110光年離れたしし座の地球型惑星K2-18bで水蒸気の存在を確認した、と発表した。K2-18bは赤色矮星K2-18を周回する系外惑星で、質量は地球の8倍程度。液体の水が存在でき、生命を育む可能性がある“ハビタブルゾーン”に存在することがわかっている。
ネイチャー・アストロノミーに掲載された論文では、研究チームは、2016年、2017年のハッブル宇宙望遠鏡の観測データを元に、K2-18bが恒星の前を通った際の光を分析した。惑星が恒星の前を通過すると、恒星の光の一部は惑星の大気を通過して地球に届くことになる。大気はフィルターのように光の波長の一部を吸収する。これを分析することで、大気の成分を推定することができる。
K2-18bの大気は水素とヘリウムを含んでいることがわかった。また、窒素とメタンを含んでいる可能性もあると研究者は考えているが、これはまだ未確定で、さらなる観測を要する。今後はNASAが中心となって進めるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡やESAが計画しているARIEL宇宙望遠鏡などによって、さらに系外惑星の環境がわかってくる。
「宇宙人」は宇宙に興味を持つきっかけとなりうる、研究の世界と一般とをつなぐトピックだ。とはいえ、今日のアカデミックな世界での宇宙の生命の探査は、系外惑星の観測や小惑星探査機はやぶさ2、NASAの小惑星探査機OSIRIS-REx、ESAの彗星探査機ROSETTAなど。水や炭素といった生命の進化につながる物質、生命を育める温度や放射線環境を地道に観測して、文字通り天文学規模から生命発見の可能性へと絞り込んでいく作業だ。K2-18bの発表論文タイトルは『Water vapour in the atmosphere of the habitable-zone eight-Earth-mass planet K2-18 b(地球の8倍の質量を持つハビタブル・ゾーン惑星K2-18b大気中の水蒸気)』。ここから、映画に登場する魅惑的なエイリアンまでを見通すことはかなり難しい。
現実の生命探査と、人が想像上の宇宙人をどう捉え文化の中でイメージを育んできたのか、両方を通観できる書籍が『エイリアン 科学者たちが語る地球外生命』(ジム・アル=カリーリ編、斉藤隆央訳、紀伊國屋書店)だ。
物理学者のアル=カリーリ教授が編者となった全19章の本書には、宇宙物理学者、天文学者、宇宙生物学者、分子遺伝学者らが登場。生命の進化につながる宇宙の環境をひとつひとつ突き詰めていく。ハビタブル・ゾーンと系外惑星、土星の衛星タイタンやエンケラドゥス、木星の衛星エウロパなど、太陽系内で液体(水以外にもメタンの可能性もある)を持つ天体の環境と生命について、解説してくれる。NASAはなぜ、メタンの雨が降るタイタンでドローンを飛ばそうというのか、はやぶさ2が持ち帰る小惑星リュウグウのサンプルから何がわかるのか、宇宙探査の現在が網羅的にわかる。またエイリアンの知性と意識について、心身問題に関心が集まるタコからの考察を試みた魅惑的な章もある。
そして、タイトルでもあるエイリアン/宇宙人という文化の中の存在についても詳説されている。20世紀の陰謀論の中に根付いた空飛ぶ円盤目撃談。A・E・ヴァン・ヴォークトの『宇宙船ビーグル号の冒険』に登場するケアルから、ハル・クレメントのハードSF『重力への挑戦』に登場するメスクリン人はありうるのか。映画に登場する宇宙人の造形とパンスペルミア説に切り込んだ第15章をSF映画ファンに推したい。ただし、映画『プロメテウス』(2012年)について酷評されている点には注意されたい。
あえて本書に望む点を挙げるとすれば、創作物における宇宙人が何の表象であるのか(たとえば侵略者であるのか、あるいはマイノリティなのか)といった視点はもう少しほしかったところだ。とはいえ、本書によって科学と文化の両方から宇宙の生命について知ることができる。ページ番号の上に現れる、小さな可愛らしいエイリアンのパラパラまんがの存在からも、本書の執筆者が愛を持ってその両方を描写していることがうかがえる。