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【悪性黒色腫】「術前免疫療法」が再発リスクを大幅に低減!最新の治療法とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)は、早期発見・早期治療が非常に重要とされています。しかし、ステージ3と診断された場合、手術後の再発リスクが高いことが課題でした。そんな中、術前に免疫療法を行うことで、再発リスクを大幅に下げられることが最新の研究で明らかになりました。

【免疫チェックポイント阻害剤の術前投与で再発リスク激減】

オランダがん研究所とオーストラリアのメラノーマ研究所による最新の臨床試験では、ステージ3の悪性黒色腫患者423人を対象に、「術前に免疫療法を行う群」と「手術後に免疫療法を行う群」に分けて、再発リスクを比較しました。

術前投与群では、ニボルマブとイピリムマブという2種類の免疫チェックポイント阻害剤を2クール投与後に手術を行いました。一方、手術後投与群は従来通り、手術後にニボルマブを12クール投与。その結果、術後1年時点での無イベント生存率(再発や死亡などイベントが起こらなかった割合)は、術前投与群で83.7%だったのに対し、手術後投与群では57.2%と、両群で大きな差がみられたのです。

免疫チェックポイント阻害剤は、免疫を抑制するタンパク質「PD-1」や「CTLA-4」の働きを阻害し、がん細胞に対する免疫応答を活性化させる薬剤です。腫瘍が体内にあるうちに免疫を活性化させることで、より効果的にがん細胞を攻撃できると考えられています。

【BRAF遺伝子変異の有無にかかわらず効果あり】

興味深いことに、この臨床試験では、BRAF遺伝子変異の有無によって術前投与の効果に差はみられませんでした。BRAF遺伝子は、悪性黒色腫の約半数でみられる変異で、変異があると再発リスクが高まると言われています。

今回、BRAF変異がある群での術後1年無イベント生存率は、術前投与群で83.5%、手術後投与群で52.2%でした。一方、BRAF野生型(変異なし)の群では、術前投与群が83.9%、手術後投与群が62.4%。BRAF変異の有無にかかわらず、術前投与群で良好な結果が得られたわけです。これは、より多くの患者さんに適用できる可能性を示唆する重要な発見と言えるでしょう。

【日本でも高まる「ネオアジュバント療法」への期待】

今回の研究で術前投与に用いられた方法は「ネオアジュバント療法」と呼ばれ、日本でも乳がんや食道がんなどで実施されています。手術でがんを取り除く前に抗がん剤治療などを行うことで、がんを小さくしたり、転移・再発リスクを下げたりすることを目的としています。

悪性黒色腫においても、欧米では術前の免疫療法に関する臨床試験が進んでいます。今回の研究結果をふまえ、日本でも悪性黒色腫に対するネオアジュバント免疫療法の導入が加速するかもしれません。

ただし、今回の試験では術前投与群の29.7%で、グレード3以上の治療関連有害事象がみられました。安全面への配慮も欠かせません。

日本人でのデータ蓄積など、課題はまだ残されていますが、悪性黒色腫の新たな治療選択肢として大いに期待されます。

以上、最新の研究で明らかになった「ステージ3悪性黒色腫に対する術前免疫療法」について解説しました。皮膚がんは早期発見・早期治療がカギを握ります。「免疫チェックポイント阻害剤」や「ネオアジュバント療法」など、新たな治療法の登場で、より多くの患者さんが恩恵を受けられるようになることを願っています。

<参考文献>

Neoadjuvant Nivolumab and Ipilimumab in Resectable Stage III Melanoma(NEJMoa2402604)

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2402604

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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