Yahoo!ニュース

エルトン・ジョンが新星リナ・サワヤマのシングルで共演 性的マイノリティーに捧げた『選ばれし家族』

木村正人在英国際ジャーナリスト
エルトン・ジョンとリナ・サワヤマ(右)

[ロンドン発]ロンドンを拠点に活躍するシンガーソングライター、リナ・サワヤマ(30)が「LGBTQ+」の友人たちに捧げた作品『チョウズン・ファミリー(Chosen Family、筆者仮訳:選ばれし家族)』にエルトン・ジョンが共演したバージョンが日本時間の15日にリリースされた。

LGBTQ+とはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛)、トランスジェンダー、その他の性的マイノリティー。4歳の時に日本からイギリスに移住し、英ケンブリッジ大学時代にひどいいじめを受けたリナはLGBTQ+の友人に救われた経験を持つ。

エルトン・ジョンは2005年に映画監督デービッド・ファーニッシュ氏と同性婚をし、2人の子供と暮らしている。LGBTQ+に対して保守的な態度を維持するキリスト教カトリックの総本山バチカン(ローマ教皇庁)をツイッターでこう皮肉ったこともある。

「同性愛者の結婚は“罪”だという理由でバチカンは祝福を拒否している。しかしデービッドとの結婚に幸せを見出したことを祝福する私の伝記映画『ロケットマン』に何百万ドルも投資して平然と利益を得ることができるのはなぜなのでしょうか? #hypocrisy(偽善)」

リナは昨年、英国籍でないことを理由にイギリスとアイルランドの最も優れたアルバムに贈られるマーキュリー賞の最終候補に選ばれなかった。リナは「これまでイギリスで行ってきた音楽活動をみても、私には最終候補の対象になる資格があると感じています」と声を上げ、大きな波紋をイギリス社会に広げた。

リナの指摘を受け、英レコード産業協会(BPI)は今年、マーキュリー賞やブリットアワードの国籍条項を変更。リナはブリットアワード・ライジングスターアワードの最終候補3人に残った。惜しくも受賞は逃したものの、エルトン・ジョンとの共演で注目を集めるリナを直撃インタビューした。

エルトン・ジョンとリナ・サワヤマ
エルトン・ジョンとリナ・サワヤマ

――エルトン・ジョンがあなたと一緒に『チョウズン・ファミリー』を歌う理由を教えて下さい

リナ「彼は『ロケットアワー』と呼ばれるアップルミュージックのラジオ番組を持っています。アルバム『サワヤマ』が出る前から、私のシングル『コム・デ・ギャルソン』や『バッド・フレンド』をフィーチャーしていました。彼は自分のチームを通じて私と話したいと言ってきたのです」

「彼はフェイスタイム(アップルのビデオ通話)で連絡を取ってきました。彼のラジオ番組ロケットアワーの一部ということでした。それがきっかけとなり、その後も私たちは連絡を取り合い、すぐに意気投合しました。彼は私の『チョウズン・ファミリー』という曲が気に入ったと何度も言ってくれました」

「彼自身も、『チョウズン・ファミリー』のテーマに当てはまっている一人で、この楽曲にシンパシーを感じてくれていました。この曲でのコラボレーションを持ちかけたところ、彼は応じてくれました。彼は素晴らしく協力的な人です。私は彼のことを、家族のように感じています」

――エルトン・ジョンが自分で『チョウズン・ファミリー』を選んだのですか

「彼は自分のステージのために私の曲を聴いていたそうです。彼は常に新しい音楽を聴いて、新しいアーティストを見つけています。アーティストの作品や才能を信じると、エルトン・ジョンは力を貸してくれるのです。それが彼なんです」

――その時、どんな風に感じましたか

「間違いなく非現実的な出来事でした。幸いなことに、私は大スターの前でもあまり物怖じしません。彼に会ったり、おしゃべりしたりすることは怖くありませんでしたが、本当に興奮しました」

「彼はイギリスで、そして世界中でも最高のアーティストの1人です。私は彼の歌を聴いて育ちました。だから彼とチャットするだけでも素晴らしかった。信じられない出来事で、現実離れしていると感じました」

――『チョウズン・ファミリー』はあなた自身にとってどんな意味があったのですか

「『チョウズン・ファミリー』は私にとって、とても重要です。生まれ育った家族であれ、養子縁組であれ、家族に受け入れられていない人にとって大事な時があります。生まれ育った家族があなたを受け入れないとき、それが性的指向や信念、性の同一性、それとも別の理由があったとしても、きっと手を差し伸べてくれる友人がいると思います」

「彼らとは、家族になることができます。あなたは自分で家族を選ぶのです。助けてくれるネットワークを失ったとき、あなたは自分で自分の家族を選ばなければなりません。人生の中でそうした経験をした友人が私には何人かいます」

「自分で選んだ家族と暮らすことで、もとの家族との関係を修復し、会話を交わせるようになった人もいれば、選んだ家族に頼って日常生活を送っている人もいます。ですから私にとって本当に重要なのです。『チョウズン・ファミリー』はアルバムの中で最も重要な曲なのかもしれません」

――普段はどのようにして曲を作られていますか。あなたの作品はいつもユニークな方法で境界を超えているように感じられます

「過去の経験をもとにしていました。セラピーはアイデアを得るのに非常に役立ちました。それは、他の人との関わりや苦しさを話すことや、レコーディングセッションやライティングセッションで自分の人生について語ることを助けてくれました。本当に重要なことです。本や他の人との会話、ファンとの交流、多くのことからも刺激を受けています」

リナ・サワヤマ
リナ・サワヤマ写真:Shutterstock/アフロ

――今年はBPIの国籍条項が変更され、若手の登竜門であるライジングスターアワードの最終候補に残りましたね

「車で家に帰る途中にレコードレーベルのボスから“今すぐズームできる?”とテキストメッセージが送られてきました。私たちはいつもテキストでやり取りしていますが、ズームをすることはありません。私は“いま車の中です”と答えました。彼はレーベルの他の5人とフェイスタイムで連絡してきて、ライジングスターアワードの最終候補の3人に残ったと教えてくれたのです」

「私は信じられませんでした。涙があふれ、とても幸せでした。それはイギリスの音楽業界の何百人、報道機関やラジオすべてに支持されたことを意味します。ノミネートは業界からの承認だと思いました。素晴らしいことです」

――あなたが声を上げたことでBPIの国籍条項が変更されたことはどんな影響を持つのでしょう

「まだ分かりません。過去にもこの問題について訴えたいと感じた人はたくさんいたはずです。国籍条項のためにマーキュリー賞の機会を逃した人は私だけではありません」

「幸いなことに私にはプラットフォームがあり、ファンがいました。だからこそこの問題を訴えることができました。しかしそうでない人は、ルールを変えたり、変更を考えたりする方法を持っていなかったかもしれません」

――社会的な影響についてはどう考えますか

「建設的な影響を持つことを望んでいます。昨年、白人警官による黒人男性暴行死事件に端を発した『ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)』が大きなムーブメントになりました。現在、欧米ではたくさんの人種問題が起きています。アジア系の人々への嫌悪が新型コロナウイルス・パンデミックで強まっているのは非常に深刻な問題です」

「私にできることは小さなことですが、舞台裏やソーシャルメディアでそうした問題への取り組みを支援しています。そうした取り組みが、私のようなルーツを持つアーティストが生み出す、多様な文化のもとに創られた音楽を聴くことに対して、ポジティブな影響を与えられることを願っています」

――イギリスに来て以来、良い経験も悪い経験もあると思います。例えばケンブリッジ大学での生活は困難を伴ったそうですね

「大学でいじめられ、本当に大変でした。寮を移らなければならなかったのです。寮の女の子たちはとても意地悪で、私のメンタルヘルスと学業に影響を与えました。それで移動を余儀なくされたのです」

「友人に連絡すると、別の友人を紹介してくれました。私たちは一緒にゲイナイトに行き、私たちの問題について語り合いました。ドレスアップしてクレイジーな夜を過ごしました。私はその夜のことをとても恋しく思います。ケンブリッジは緊張を強いられる場所であり、エリートの集まりです」

「逆にここロンドンにはさまざまなバックグラウンドを持つ人たちがいます。労働者階級の人もいれば、ロンドン出身でない人もいます。ロンドンにいると家でくつろいでいるような感じがするのです」

「ケンブリッジにはアジア系の留学生がたくさんいます。しかし私のようにイギリスで育ったアジア系の学生はそれほど多くありません。私はいつも留学生と一緒で、そこにはたくさんのステレオタイプがありました」

「自分が抱える問題について誰かと話すことができるのは本当に重要なことです。大学が無料のカウンセリングを提供してくれたのは幸運でした。おかげでうつ病や不安神経症について専門家の助けを得ることができました。専門家の助けは役に立ちます。友達のコミュニティーを持つことは大切で、誰かに手を差し伸べることは重要です」

――イギリスのテリーザ・メイ前首相に続いて、日本の菅義偉首相も孤独問題に取り組んでいます。孤独について話すことはどれほど重要なのでしょう

「本当に重要です。私たちはたくさんのものにアクセスできます。世界中の誰もがインターネットにアクセスできます。しかし、そうした環境があなたをより孤立させていると感じさせてしまいます」

「孤独は、うつ病、不安、社会不安、家から出るのを恐れることを一括にする言葉です。私には恐怖症があります。それをただ孤独として済ませないことが重要です。それが何であるか、それが引き起こす実際のメンタルヘルスの問題について議論することが重要だと思います」

「どうして人と話さないの? 友達を作らないの? というのは簡単だと思います。しかしそれだけではありません。特にコロナウイルスと孤独の流行の後、脆弱だと感じる人々に適切なメンタルヘルスケアがある国が増えることを願っています」

――あなたは「次世代のレディー・ガガ」とか、「デジタル世代の革命家」と呼ばれていますね。何と呼ばれたいですか

「ただのリナで結構です。レディー・ガガと比較されることはとても光栄です。彼女は私のアイドルです。うれしいです。しかし、私は自分の音楽を聴いて、ただ楽しんでもらいたいのです」

――カラオケに行くと、石川さゆりさんの『天城越え』を熱唱するというのは本当ですか

「母がいつもそれを歌っています。母が好きな歌です。私の家族はカラオケで育ちました。私の家族はカラオケが大好きなんです。私はサザンオールスターズ、宇多田ヒカル、山口百恵、石川さゆりを聞いて育ちました。それらの曲は素晴らしくて、私は大好きです」

――日本の演歌はどうですか

「非常にパワフルです。歌うのは本当に難しいと思います。熟練した歌い方だと思います。そしてとてもドラマチックで、本当に素敵だと思います」

――あなたの夢は何ですか

「夢? ただの希望ですが、イギリスで最初のロックダウン(都市封鎖)が行われてから1年が過ぎました。この1年で3回のロックダウンがありました。普通の生活に戻ることを願っています。これはアーティストとしての私の夢です。1年も家を出ていないとインスピレーションを得るのは難しいです」

「私がやりたいのは、人々を幸せにする音楽のショーとツアーです。この1年、それができませんでした。世界が落ち着けば、私たちは皆、野外イベントやお祭り、映画館、いろんなことを楽しむことができるようになるはずです。それが今の私の夢です」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事