震災・特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』三浦直之(脚本家)×北野拓(プロデューサー)対談
3月6日。夜7時30分から、東日本大震災10年 特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』がNHK総合、NHKBS4Kにて放送される。
宮城県石巻市を舞台にした本作は、行方不明になった夫の高臣(高良健吾)の帰りを待つ真城蒼(綾瀬はるか)が、空き家をリノベーションして本屋をはじめようとするドラマだ。
物語は、本屋のリノベーションを通して知り合う移住者の建築士・葉山瑛希(池松壮亮)や、蒼の息子・六太(二宮慶太)たち中学生といった様々な立場、世代の人々の姿を通して、震災から10年を経た石巻市で生きる人々の姿を描いた優しい群像劇となっている。
脚本を担当するのは、2019年にNHKのよるドラ枠で放送された連続ドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』の脚本を手掛けた劇団ロロ主宰の三浦直之。
プロデューサーは、2018年に野木亜紀子脚本のドラマ『フェイクニュース』を手掛けた北野拓。
震災の時は20代だった2人が10年を経て手掛ける震災ドラマは、どのような経緯で企画がはじまり、どのような思いが込められているのか? お二人に語っていただいた。
震災・特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』三浦直之(脚本家)×北野拓(プロデューサー)対談
―― 元々この企画は、震災10年目ということからはじまったのですか?
北野拓(以下、北野) 今回のドラマは僕が震災当時、記者をしていて、被災地へ応援取材に行き、そこで感じた無力感が出発点です。フィクションの力でもう一度、あの震災と向き合うことができないかと考えました。企画段階からたくさんの方に取材をさせて頂き、震災の当事者と非当事者のラブストーリーのようなものを作りたいと思いました。それで三浦直之さんに話を持っていたという感じですね。
―― 三浦さんにオファーした理由について教えてください。
北野 三浦さんは宮城県出身でもありますし、過去の戯曲でも震災でいなくなった人とどう生きるかというテーマに向き合われている方であると感じたからです。さらには、恋愛というフレームを超えた男女の関係性を書き続けられている方で、それが僕には被災地で出会った方々と重なって見えました。
―― 企画が決まったのは、いつ頃ですか?
北野 2019年の12月頃ですね。こういうドラマを作りたいので、一緒にやりませんか? と、監督(演出・田中正)と共に三浦さんに会いに行きました。
―― 三浦さんはお話をいただいた時は、どのように思われましたか?
三浦直之(以下、三浦) 率直に言って凄く嬉しかったですね。僕は北野さんが言われたように宮城県出身で、劇団ロロで作る演劇も、全面に出ているわけではないのですが、ずっと震災が背景にありました。震災については個人的にずっと調べていたので、いずれ正面から描いてみたいと思っていたタイミングだったので、こういう話をいただいて凄く嬉しかったです。
―― 北野さんは、ある程度ストーリーの構想ができあがっている段階で三浦さんに話を持っていたのですか?
北野 大枠しか決まっていなかったですね。当事者と非当事者の物語というプロットと、震災でパートナーをなくした人がどう生きるのかというテーマだけが決まっていて、そこから三浦さんや監督と取材を積み上げて物語を作っていったという感じです。ただ、実話ベースではなく、あくまでフィクションの力で勝負するというのは三浦さんや監督とも初期の段階から共有していました。
―― 震災から10年目ということに、大きな意味はありますか?
北野 10年目だからこそ通った企画なのかなとは思います。ですが、逆説的な意味で10年ということを意識しています。
―― どういうことでしょうか?
北野 (10年目ということで)メディアが特集することの暴力性も含めた、勝手に区切りをつけようとすることに対するカウンターとして、「区切らない」ということを描こうと思いました。三浦さんがかなり初期の段階からこのことを提案してくださっていました。
三浦 そうですね。10年ということが何かの節目になることに対しては抗いたいなと思っていました。
―― 震災を巡る状況に対して、10年を経って何かが変わったという感覚はありますか?
三浦 福島県のいわき市で、ずっと高校生たちとワークショップで演劇を作っているのですが、接していて、日常の中では「震災の影」みたいなものをあまり感じないですが、ある瞬間にそういう一面を垣間見ることがあるんですよ。表面上は震災の影響が見えてこないけれど奥底には残っているけど、時間が立つほど語りづらくなるし、語らなくなっている。それは感じますね。
―― 親の世代と子供の世代では受け止め方もまた違いますよね。
三浦 震災の話は家族とできないという話は聞きますので、震災の記憶をどうやって共有していくのかというのは、難しい課題ですね。
―― 戦争体験に近くなっていますよね。歴史としてどう残していくかというのは難しい問題で、10年という時間の流れは、記憶の風化という問題が表面化してくる時期なのかもしれません。
三浦 「遠すぎない」ということも難しいんですよね。完全に歴史化するにはまだ距離が近い。とはいえ、少しずつ風化している部分もあるので、どうやったら物語に力で「記憶」を描けるのか? というのは常に考えていますね。
テーマから入り取材によって背景を固めていった。
―― お話は、どのようにして組み立てていったのですか?
北野 具体的なモチーフやキャラクターは取材していく中で決まっていったのですが、今回はオリジナルドラマですし、プロットを固めてから台本の執筆に入って頂きました。
―― 石巻の住民と移住者のラブストーリーということですか?
北野 そうですね。石巻市は移住者が多い街で、地元の方と付き合うことも多いと現地で伺ったので、地元の女性と移住者の男性の物語にしようと決めました。夫が行方不明という状況も「区切らない」というテーマから連想したものです。
―― 親の世代と中学生の世代を描くことも取材する中で決まっていたのですか?
北野 こちらも取材する中で決まったことですが、三浦さんが子供と母親の記憶の差みたいなものをやりたいと最初からおっしゃっていました。取材するとわかるのですが、被災状況も様々ですし、色々な立場の人がいると感じました。蒼のような人もいれば、震災前は県外にいたけど、戻ってきた人だったり、子供の場合は当事者でもその時の記憶があまりないとか。そういったいろんなグラデーションの人たちを描くために、記憶の違いや被災地への距離感を表現するために、蒼だけでなく、いろんな立場の人たちを登場させて、その誰も否定しないということを意識して、三浦さんは書いてくれたと思います。
三浦 取材すればする程、色々な人がいることがわかり、ある側面だけを切り取って書くことは難しいと感じまして。だから、なるべく震災に対してはいろんな距離感の人を描いて、そのどれも否定したくないと考えるようになりました。
―― 誰かを否定するような物語を書きたくないという気持ちがあったということですか?
三浦 それは震災に限らず、ずっと考えていることですね。あらゆることで非当事者が当事者に寄り添えるかということを考えているのですが、非当事者が語ること自体が暴力性を帯びてしまう。ただ、その中で、どういう風に言葉をかけるだろうというのは、ここ最近の感心で。ぼくは物語を書いているので、当事者、非当事者を超えるものを作れなかったら、物語を作る意味はないなと思っていて。
―― どのような本屋を作るかというやりとりに、それは現れていますね。
三浦 色々な立場の人たちがそれぞれの思いを持ちながらいっしょに居られるような空間を作る物語にしたいなぁと思った時に、いくつか案はあった中で最終的に本屋に決めました。本屋は用事がなくても来られる場所で、本を買わなくても来ることができるんですよね。それがある人たちにとっては震災直後、大事な場所になったという話を読んで、いろんな人が集まる場所としての本屋を作る話にしようと思いました。
―― 取材する中で決まっていったことは多かったのでしょうか?
三浦 石巻市に実際に、リノベーションをして震災後に作られた本屋がありまして、そこがアットホームな場所だったことが大きかったですね。
北野 実話ベースの物語ではないからこそ、背景は取材して実在する出来事を盛り込みたいというのがありました。各エピソードについては創作という部分は少なくて、実際にあった色々なモチーフを持ち寄って、ファンタジーになりすぎないように心がけました。本屋は今回、物語の持つ力を描こうと思ったので、テーマと重ねています。
三浦 凄く丁寧に取材させていただいたという思いはありますね。自分ひとりで演劇作品を作っていると、ここまで取材に時間をかけることができないので。
―― 取材期間は2019年12月からですから、ほぼ一年くらいですか?
北野 三浦さんが合流したのは、そのくらいの時期ですね。その前から僕は取材を重ねていました。合流してからも、宮城県石巻市を中心に何回も取材に行きました。震災後に本屋をリノベーションした人や、葉山瑛希(池松壮亮)の設定に近い移住してきた建築家の方や、なくなった人の夢を見て、その度に夢日記を付けている方など、たくさんの方々にお話を聞かせて頂きました。
三浦 夢というモチーフも北野さんからいただきまして、夢日記を書かれている方の本を読ませていただいて、そこから出発しています。当事者、非当事者が共存することと同じように、現実の世界と夢の世界が共存する世界で、行方不明になった旦那さんと、奥さんと、新たに移住してきた人、この3人が不思議な連帯を作る物語になればいいなと思いました。
―― 夢と現実、死者と生者が共存しているかのような感覚は、石巻市の人たちの中に存在する感覚だと思われましたか?
三浦 全員がそうだとは言えないですけれど、その感覚はあると思いました。被災地で幽霊の目撃談があるという話はよく聞きますし、行方不明になった方がいる方のお話を伺っても、どこかでその(行方不明になった方の)存在を感じているというか。生活をしている中で感じる瞬間があるという話は、本当にみなさんから聞きましたね。
北野 多くの方を取材させて頂いたのですが、(亡くなった方や行方不明になった方の)夢を見たという話を何度も伺ったんです。亡くなった人、行方不明の人も共に生きているという感覚が強いのかもしれないと思いました。ですので、「夢はどうですか?」という話は早い段階で提案しました。
―― 取材から撮影に入るのが2020年からだと思うのですが、コロナウィルスの問題はどのように感じましたか?
三浦 一回めちゃめちゃ悩みました。コロナのことを作品に取り入れるか?という話も出たのですが、フォーカスがぼやけることと、最終的に2021年の3月の情勢が、書いている時には全くわからなかったので、今回はコロナのことは完全に切って書きました。
―― 劇作家の方は色々と悩まれることも多かったと思うのですが。
三浦 僕は舞台仕事がメインで、この一年間で本当に公演の延期や中止が相次いだのですが、人と人が会うっていうことについて、すごく考えさせられましたね。やっぱり、演劇は稽古場もそうだし、作品も観客と舞台上の人間が実際に出会うということが要になっているので、人と人が出会う。人と人が触れ合うということについて、とても考えた一年でした。
―― キャスティングはどのような経緯で決まったのですか?
北野 お恥ずかしい話ですが、企画段階では誰も決まってなくて…。
―― テレビドラマでは珍しいですよね。
北野 物語がある程度固まってからオファーさせていただきました。綾瀬さんに主演をお願いした一番の理由は、彼女が2013年の大河ドラマ『八重の桜』以降、「綾瀬はるかのふくしまに恋して」などの番組を通して、福島を中心とした被災地と向き合い続けられている方だったことが大きいです。色々なことを背負ってきている方ですので、彼女が最後に少しでも笑うということで、東北の方々にも見て頂けるのではないかと考えました。実現は難しいと思っていたので、受けて頂けた時は嬉しかったです。次に池松壮亮さんの出演も決まりました。池松さんが演じた役に関しては、人付き合いの苦手なかなり変わった性格の人物なので、この役を成立させられる人は池松さんしかいないと思いまして。
―― 意外ですね。てっきり、池松さんありきで作られた役だと思っていました。土村芳さんもイメージ通りだったので、あて書きだったのかとてっきり思っていました。
北野 今までに演じられてきた役の延長線上にある配役でして。今回は信頼する俳優部の皆さんのお力をお借りして、東北の方に届けようと思いました。何より、三浦さんの書かれた物語が皆さんの心に届いたので受けてくださったのだと思います。
―― 中学生の2人も印象的でした。
北野 蒼の息子・六太を演じたのは二宮慶多さんで、長久充監督の映画『WE WRE LITTLE ZONBIES』の主演や、是枝裕和監督の映画『そして、父になる』に子役として出演していた男の子です。女の子の役は佐藤ひなたさんと言って、テレビドラマでは初めてくらいの方です。両者ともにオーディションで選んだのですが、2人とも空気感が良かったですね。
―― 仲が良い感じが面白かったですね。思春期の中高生ぐらいの子で、ああいう仲がいい感じを自然に出せる感覚って僕の世代にはないのですが、下の世代になるほど、ああいう雰囲気が自然に出せるようになっていると感じるんですよ。三浦さんの作品を観ると、そういう空気感を凄く感じるんですよ。僕の世代にはない「優しい感じ」といいますか(笑)
三浦 それは凄く嬉しいですね。男女に限らず、恋愛なのか友情なのか気にせず、いっしょにいる姿を描きたいなぁと思っていたので、あの2人もそういうふうに見ていただけると凄く嬉しいです。
―― あの2人のやりとりも含めて、不思議な手触りの作品ですよね。震災を題材にしたドラマってどこか過剰になってしまって作り手も受けても構えてしまうものですが、この作品は負荷がなくて、じんわりと伝わってくるものがあるというか。それでいて、凄く大事なことを描いていると思います。
三浦 過剰にドラマチックな物語にはせずに、日常を丁寧に描きたいと思って書きました。物語として対立が必要だというのはわかるのですが「対立のための対立」を描くと、石巻市の人のリアリティとはズレてしまい物語のための搾取になってしまう。その狭間で今回は揺れていたと思います。
テレビドラマだからできること。
―― 三浦さんの本業は劇作家ですが、テレビドラマの脚本は今後も書き続ける予定ですか?
三浦 小さい頃からテレビっ子でテレビドラマを観て育ったんですよ。母親がSMAPのことが好きだったので、SMAPのメンバーが出演しているドラマのシナリオ集が家に置いてありました。小学生の頃に野沢尚さんや北川悦吏子さんのシナリオ集を読んで、いつかこういうのを書いてみたいと思っていたので、テレビドラマの脚本をかかせていただけたのは凄く嬉しいですね。
今回のように、NHKを通して取材をさせていただきドラマの脚本を書くという体験は、演劇だけやっていると中々できないことなので、今後もやって行きたいですね。
―― お二人で今後、連ドラをやる予定とかありますか?
北野 企画が通れば、是非やりたいです。三浦さんの印象は、年齢が近いということもありますけど、ジェンダーやポリティカル・コレクトネスのことに対して、凄く配慮して書いてくださいます。恋愛というフレームを超えた男女の関係性を描きたいという部分も僕の価値観と合っているので、またご一緒できるように頑張りたいと思います。
三浦 もう一人、シナリオアシスタントで映像の仕事の時に入ってくれる稲泉広平さんという方がいるのですが、彼も同世代ですが、似た感覚を共有しているのでやりやすかったと思います。それでもずっとチェックしていくのですが…。
―― 書きながらチェックしていく感じだったんですか? このシーンはどうだろうと。
三浦 考えて検証するということが多かったです。
―― 普段の書き方もそうなんですか?
三浦 今回は震災というセンシティブな題材を扱っているからよりチェックが細かくなったと思います。やはり、当事者じゃないというのは大きかったですね。
―― 宮城県出身でも当事者意識は薄いものですか?
三浦 震災のときは東京に住んでいて、家族も周りの人も無事だったので、震災の当事者という感覚はあまりないですね。
―― お二人が震災に遭われたときは何年ですか?
三浦 23歳ですね。
北野 24歳ですね。
―― 10代20代の多感な時に被災された方が20代後半から30代初頭になって、震災の体験を反映した作品をそろそろ書き始めている気配を感じるんですよね。三浦さんはその世代では比較的早い段階で震災について書き始めた作家だと思っていたのですが、震災体験が作風に影響を与えていると思う部分はありますか?
三浦 震災の後、一か月後ぐらいに小学三年生の頃まで住んでいた女川に車で向かったんですよね。海まで車で向かったのですが、自分が住んでいたアパートのあたりを境にして津波が引いていったことがわかるんです。海までの道は被害が少なくてアパートの前にある小学校とかは残っている。小学校を見るとここで何をしたかは思い出せるのですが、アパートから先を見ると、何があったのか、どんな建物があったのか、そこで自分が何をしていたのかは思い出せなくて。その時に自分の記憶は自分の内側ではなくて外側にあるんだなと思って、そこから記憶に対する感覚が変わりましたね。
―― 記憶は土地と紐付いているという感じですか?
三浦 場というものが、凄く大事なんだと思うようになりました。今回の作品でも、かつては在って今は無くなってしまったものや、かつては無くて今は在るものをなるべく描きたいと思って書いています。
―― 10年ってそういう長さだと思うんですよね。それぞれが抱えこんできた感情が熟成されて形になってくるというか。
北野 震災で受けた人生観の変化は僕らの世代は少なからずあると思うんですよね。
―― ドラマの企画を出すぐらいですので、北野さんも色々と思うところはありましたか?
北野 10年前に凄く荒らしてしまったなという、罪悪感じゃないですけど、後悔があります。だから何か力になると言うとおこがましいですが、今回の企画の出発点としては地元の方に見てもらえるものを作りたいというのは大きかったですね。
―― 罪悪感というのは、取材対象として接してしまったという感じですか?
北野 ニュースを出していかないといけないため、配慮をしようとは思っていても、配慮が足らずに聞いて出すということをしてしまった気がして、これは被災された方にとって、何の役に立つんだろうかと当時感じたので。今回は腰を据えて、何かできないかなと思いました。そもそも物語の役割には喪失や悲しみをどう受容するかみたいなところがあると思いますし。
―― 北野さんはジャーナスティックなアプローチの方だと思っていたんですけど、今回は物語の方を意識されたんですね。それとも三浦さんとの役割分担みたいな感じだったんですか?
三浦 そうですね。色々な背景については北野さんが資料を集めてこられて。
北野 構成は三浦さんとそのシナリオアシスタント稲泉さんの三人で考えていくという感じでしたね。その上で三浦さんが台詞を考えていく。終盤はずっと会議室にこもって、毎日のように打合せをして。
―― 三人で作るってどんな感じだったんですか?
三浦 僕がまず原稿をあげて、その問題点を解決するためのアイデア出しを繰り返したという感じですね。
―― 第三者が間に入る方が、三浦さんとしては書きやすいのですか?
三浦 脚本家一人体制って、この先どんどん減っていくんじゃないかと思うんですよ。やっぱり、今の多様性に対応できないと思っていて、複数の見解が生まれてそれを物語にしていくという方が、僕はやりやすいですね。
―― それは意外ですね。凄く作家性の強い方だと思っていたので。
三浦 舞台で脚本、演出を全部一人でやっているというのがあるからこそ、映像の仕事は複数でやる方がいいと思っているのかもしれないですね。全部一人でやりたいみたいな作家としての欲望も解体したい。
―― これから、どういう作品を作っていきたいと思いますか?
三浦 僕自身が30代で、どうやってこれから歳を取っていくのかというのは、日々考えていて、そういう30代がおじさんになることの希望というのを、書いてみたいなぁというのは思っていますね。
―― 作品を観て、下の世代に対する責任みたいなことをすごく意識されている方だと思いました。
三浦 仕事柄、高校生とワークショップする機会が多いから、自分より下の世代が楽しく生きられる世界になってほしいなぁというのはあります。僕のいる演劇の界隈でも映像の世界でもハラスメントの事件が増えているので、そのことにどう応答すればいいのかということも考えていますね。作品としましては、自分が好きだった若者の青春群像劇を書いてみたいです。
北野 今の時代は価値観が急速に変化しているので、僕も微力ながら、少しでも世の中の価値観がアップデートされるようなドラマを作り続けたいと思っています。
優しい気持ちになれるドラマ
―― 最後にこれからドラマを観る方に向けたメッセージをお願いします。
北野 震災を扱ったドラマなので、あの時に引き戻されたり、フラッシュバックされる方もいると思いますので、よかったら観てくださいとしか言えないです。震災当時や津波の映像等も一切使用していません。
―― そのあたりは、悩まれましたか?
三浦 どこまで描くかっていうことは考えたのですが、震災当時のことを深く描くというのは、この作品でやることではないと思いましたね。
北野 三浦さんはもちろん、綾瀬さんや池松さんをはじめとした俳優部、音楽を担当してくださった菅野よう子さん、主題歌を書き下ろしてくださったRADWIMPSさん、すべての方々の想いが集まり、優しさの溢れるドラマに仕上がったと思っています。震災ドラマに抵抗のある人にも見ていただけたら嬉しいです。
三浦 震災10年ドラマではあるのですが、普遍的なことを書いたので、たくさんの人に届けばいいなぁと思います。過去にとどまるでもなく、過去を捨てて未来に向かうのでもなく、過去も未来も同じように大切にしたいと思いながら書きました。
―― ありがとうございました。
東日本大震災10年 特集ドラマ『あなたのそばで明日が笑う』
NHK総合、NHKBS4Kにて
3月6日(土)夜7時30分から放送。
【作】三浦直之 (宮城県出身)
【音楽】菅野よう子(宮城県出身)
【主題歌】RADWIMPS「かくれんぼ」
【出演】綾瀬はるか 池松壮亮 土村芳 二宮慶多 / 阿川佐和子 高良健吾 ほか
【制作統括】磯智明
【プロデューサー】北野拓
【演出】田中正
番組ホームページ https://www.nhk.jp/p/ts/83GQQ74W8J/