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「敷居が低い窓口を」コロナ相談にみる市民と行政、協働の可能性

飯島裕子ノンフィクションライター
5月30日東京・国立市で開かれたコロナ困りごと相談会(写真すべて筆者撮影)

女性からの相談相次ぐ

コロナウイルスの影響による失業、雇い止めは深刻さを増している。

5月29日、30日の2日間、東京・国立市では市民団体らによる「コロナ困りごと相談会」が開かれた。弁護士による相談のほか、労働相談、女性相談とブースが分けられ、直接相談に応じたほか、電話、メールでの相談も受け付けた。また地元の商工会議所の呼びかけにより、食糧が集められ、必要な人にパンやレトルト食品などを配布。失業や生活困窮などに加え、DVや家族関係トラブルなど、幅広い相談が寄せられた。

「リーマンショックの時は、派遣切りや雇い止めなどの相談が大半で男性が中心だったのですが、今回は家を飛び出してきたという10代の女性やDVに苦しむ主婦の人なども多く、年代も相談内容も多岐に渡っています」と話すのは、相談会の窓口をつとめる押田五郎さん。

「コロナ困りごと相談会」としたこともあり、どこに相談すればいいかわからない子育ての悩みやメンタルの不調による悩みにも応じることができたという。

押田五郎さん
押田五郎さん

また最近、雇い止めのやり方が巧妙になっていると押田さんは感じている。

「『こんな状況でいつお店を再開できるかわからないから、つなぎの仕事を探してみては』とアドバイスするようなことを言いつつ、勝手に退職手続きを進められていたり……。雇用契約があいまいでフタを開けたら業務請負扱いとなっており、何一つ保障が受けられないなど、制度からこぼれ落ちる人が多く出てきています」

異例の協力体制

相談会は徹底した感染予防のため、屋外に机を出して行われたが、会場等は後援の国立市が提供した。また相談が行われている時間帯には役所を開け、各部署の担当職員が待機した。相談会の会場は国立市役所の隣だったので、必要があればすぐその場で支援に繋げられるようにしたのだ。

「通常、生活保護を申請する場合、相談者の方とあらためて待ち合わせをし、役所の空いている時間に出向かなければなりません。今回のように土曜日に開けてもらえたことにより、ワンストップで次に繋げられたことは大きな意味があると感じます」(押田さん)。

行政が市民団体による相談会の後援となるケースはあまり聞いたことがない。現在、全国各地で市民らが中心となった相談会が実施されている。感染リスクがある中、困っている人たちのため、無償で活動を続ける人たちには本当に頭が下がる。一方、国の政策や行政サービスが不十分だったり、迅速でないため、”待ったなし”の状態に追い込まれた人々を見かねた市民たちがやらざるを得ない側面があることも否定できないだろう。

また当事者が支援を求めて行政の窓口へ出向いたものの、冷たい対応をされたり、門前払いされるケースも少なくない。コロナ禍においても生活保護の申請に行った人が窓口で追い返される水際作戦を受けたケースが複数の自治体であったと聞いている。

入り口では検温、アルコール消毒が行われるなど、徹底した感染対策が行われていた。
入り口では検温、アルコール消毒が行われるなど、徹底した感染対策が行われていた。

国立市役所市長室の吉田徳史さんは次のように話す。

「以前、役所に相談に行ったことがあるけれど、行政の制度やサービスでは解決できなかった方や市役所に相談に行きにくいと感じる方もいらっしゃいます。今回のように『困りごと相談会』という敷居が低い形で市民の方に開催していただくことで、役所に来ることに抵抗がある人を受け止めていただけるのは非常にありがたいことです」

主催団体が開催を決めた後、迅速にフォロー体制を作れたのは、コロナ禍以前から、今回女性相談を担当した「女性の居場所jikka」などの市民団体と連携を強めてきたことが大きかったという。

現在、特別定額給付金の支給が始まっているが、役所には、「家を出ていても受け取れるのか?」といった問い合わせが4月下旬から相次いでいる。聞けば未成年で、「家族から暴力があり家を出ている」「親から生活費をもらえず困窮している」など、深刻な状況が浮き彫りになってきた。そこから相談に繋げ、生活保護の受給を開始したケースもあったという。

「特に若い人には役所に相談するという発想がなく、給付金のことで問い合わせをして初めて相談できる場所だと知ったのかもしれません。アウトリーチ含め、さまざまな場所で気軽に相談できる窓口を広げていくことが大切だと痛感しています」(吉田さん)

希望者に配布された食糧
希望者に配布された食糧

困りごと相談会として、法律家、DV問題、生活保護に取り組んできた市民団体、商工会議所、労働組合、行政などが一堂に会することで専門性を活かし、相談に迅速に対応できるメリットは大きい。多岐にわたる相談が寄せられるコロナ禍だからこそ、「ここからは行政、ここからは民間」と線引きするのではなく、強みを活かし、補完し合う関係を築こうとする国立市での取り組みは参考になるに違いない。

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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