10周年イベント開催! 下北沢『本屋B&B』がコロナ禍で気づいた大切なこと
博報堂クリエイティブディレクターの嶋浩一郎さんとブックコーディネータの内沼晋太郎さんの二人がタッグを組み、2012年東京・下北沢でスタートした『本屋B&B』。ことし10周年を記念して7月23日(土)、24日(日)に10周年記念イベントが開催される。
それぞれが複数の著書を持ち、本を愛する二人に10周年を迎えた心境とイベントについて話を聞くことができた。
嶋さん「オープン時、10年後については想像してなかったですよね」
内沼さん「当時は『10年やってる本屋さんってやっぱすごいな』っていう風に思ってましたね」
『本屋B&B』がオープンした2012年は東日本大震災の翌年。その頃の書店を取り巻く状況はどのようなものだったのだろう。
内沼さん「嶋さんと僕、それぞれ本屋が好きでいろいろ全国を見ていたということもあって、2011年に雑誌『BRUTUS』の『本屋好き』っていう特集号を二人でお手伝いさせてもらったんですね。ちょうど取材していた時が震災の直後ぐらいで、それぞれの書店がその中でも営業されていたんですね」
内沼さん「テレビでは連日、震災や原発の話題ばかりだけど、本屋にはあらゆる情報があって、自分の気分で選べるんですよね。取材していくうちに、街の人たちの日常に本屋が求められている、街の中に『本屋が必要だな』と感じていました」
なぜ、二人で一緒に『本屋B&B』を始めることになったのかを聴いてみた。
嶋さん「『BRUTUS』の取材をした当時から本屋はなくなりはじめていたし、出版コンテンツ=オワコン論もではじめた、そういう環境の中で街の本屋が生き残ることができるのか?サステイナブルな経営できるのか?っていうことに挑戦したいなと思って。自分だけで全部できるわけはないから。内沼くんを巻き込もうと思って(笑)」
内沼さん「嶋さんが『本屋をやろう』って言ってくれたので『やります』と。2011年の年末ぐらいですかね」
嶋さん「代々木上原の飲み屋で飲んでいる時ですね。それなりに酔わせてから、話しました」
内沼さん「(笑)」
街の変遷とともに、馴染んでいく本屋でいたい
『本屋B&B』は、古着屋、カレー店、レコード店などが数多く点在する若者の街・下北沢にある。2020年には『本屋B&B』がある「ボーナストラック」をはじめ、2021年「reload(リロード)」、2022年3月には「ミカン下北」といった商業施設が次々にオープン。これまで以上にたくさんの人が訪れる街となり『本屋B&B』がオープンした10年前とは大きく様変わりしている。
嶋さん「下北沢の街も相当変わりましたね、再開発があって」
内沼さん「そうですね」
嶋さん「街が変わってしまったことを惜しむ人もいるけど、新しくなったのを歓迎する人もいるからね。街の変遷とともに、馴染んでいたらいいなぁとは思います」
本屋は植木と同じで日々の手入れが必要
内沼さん「オープン当初は、出店エリアはいろいろ悩みました。最初は浅草とか面白いんじゃないか、とか」
嶋さん「本屋を自分達でやってみてわかったことは、本屋は植木と同じでずっと手をかけて面倒をみなきゃいけないってこと。当たり前なんだけど。10年前にオープンした頃に置いていた本の数は7〜8000冊だったんですけれど、1日100冊も売れたら本棚の中がすごい変化してるわけです。日々その手入れをしに行くためには、毎日毎日通えるところじゃないとダメだなと最終的には気づくんですよね。もともと自分達が近くに住んでいた下北沢でやれたことはよかったですね」
『本屋B&B』の特徴として、10年前のオープン当初から「ビールが飲めて」「毎日イベント」を開催している。
嶋さん「オープンして最初の数年間とか、朝から晩までやらなきゃいけないことがあったり、毎日イベントやるとか、ビール仕入れて提供したり、英会話講座をやったり。いまでこそ、そういうことをやっている本屋さんもすごい増えているけど当時はそういうことをやっている本屋がなくて。日々本の売り上げの数字を見に来ることだけじゃなくて、とにかく毎日通えないとダメだなと」
嶋さん「僕はこの辺りで生まれ育ったんですが、下北沢に1975年からあるジャズバー『レディジェーン』の大木雄高さんという、下北沢の主みたいな人がいるんですね。僕が20代の若い頃から酒の飲み方を教えてくれた大木さんが『じゃぁ下北沢の歴史を語ってやろうか』とトークショーに来てくれたり。そういう風に下北沢のコミュニティの中で『本屋B&B』をやれたのはよかったなと」
内沼さん「イベントはオープンの初日から毎日やってます。コロナ以降は100%毎日というわけではやれてないですけれど。それまではもうずっとリアルで毎日やっていました。イベントが何も入らない日は自分が店頭に出て一人でしゃべったりとか(笑)。『人生相談会をやります』とかって言って、その告知見た人が何人か来て人生相談公開でやったりとか」
嶋さん「本屋でパンを食べるだけの会とかね(笑)」
内沼さん「オープンした当初は『本屋でイベントを毎日やるなんて無理だよ』とかいろいろ言われましたけど、ライブハウスだって野球場だって演芸場だって毎日何かしらやってる場所っていうのがあって。そういうふうに『毎日やるんだ』って決めてやり始めれば、やる側も日常になる。たまにやるから大変なんだと思ってますね」
本を心から愛する二人が始めた『本屋B&B』。本棚にはどんな本が並べられているのだろう。
内沼さん「特にジャンルを限定したりはしていません。街の本屋としてそれぞれの人が興味が持ちそうものをちゃんと置いていくということではあるんですけど、基本的には世の中で売れている本というよりは、『自分たちが売りたい』と思った本を選んでいます。流通上、自分たちが注文したものしか入ってこない形になっているので、おのずと売りたいと思える本を並べることになっていて」
嶋さん「ここ、大事なところなんですが、特殊な本屋をつくりたいわけじゃないんですね。エッジのある、とんがった本屋とかアートだけに特化した本屋とかをやりたいわけじゃなくて、街の本屋をつくりたいんです。近所に住んでいるおじちゃんおばちゃん、子育てしている人とかいろんな人に来てほしいんですね」
オープン当初から、街の本屋になりたかった
2012年のスタート時点から『街の本屋さんになりたかった』という二人。そう思うようになった原体験について教えていただいた。
嶋さん「かつて代々木上原に住んでいた頃、駅前に『幸福書房』というとてつもない本屋があって、そこに行くたびに発見があって。見た目は普通の街の本屋なんですが、10分くらい時間があると思って立ち寄ってみると、常に知的好奇心を興奮させられる。買うつもりのなかった本をついつい買ってします。そういう本屋さんをできないかなと。それが僕らのやるべきことだと思ったんです」
本屋を自走させるためにイベントを開催
『本屋B&B』はオープン当初から毎日イベントを開催。毎日夕刻になると店内には椅子が並べられ、作家や著者などのゲストを招きトークイベントが開催されている(※コロナ禍の現在はオンラインのみで開催することも)。
嶋さん「幸いなことに、本屋は本でいろんな世界とつながっているから、いろんなイベントが開けるということで、ガーデニングのイベントから宇宙論のイベントまでいろんなことができます。いま、多様性ということが言われていて、それについて頭の中ではわかってはいますが、実際に365日間毎日イベントをやってみて『世の中は本当に多様なんだな』ということを体感できましたね」
書店を自走させるための企業努力としてリアルイベントを毎日行っていた『本屋B&B』。コロナ禍はどのような影響を受け、どう対応したのだろう。
内沼さん「2012年に最初のお店を下北沢にオープンしたのですが、いずれ取り壊される予定の物件でした。2017年にそこから徒歩1分くらいの、同じ下北沢内で移転したんですが、そこも2020年の3月には出なきゃいけないということが分かっていました。つまり、これまでは常に仮の場所というか、とにかく取り壊されるまでの間というような感じで営業していたんですね。そこからいまの場所に移転して、ようやくそういう契約のない物件を、ちゃんと本屋ができそうな家賃で借りることができて、腰を落ち着けてやろうというタイミング、移転と同時に新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出されたんですね」
2020年2月に、イベント主催者に対するメッセージが出されてからすぐ、トークイベントをオンラインに切り替えたのだそう。
内沼さん「いまでこそオンラインでのトークイベントとか普通ですけど、最初はたまたま持っていたウェブカメラを使って、本当にちっちゃいカメラとマイクで何とか配信するっていうところから、だんだんこうスタッフと一緒に手探りで配信の技術を学んでいって。配信するわれわれも、出演者の方々も、徐々にトークを配信をするってことにも慣れていって、何とか形が作れてきたという感じですね」
緊急事態宣言下、必要に迫られ急遽スタートしたオンラインイベント。2年以上続けたことで何か気づきはあったのだろうか。
内沼さん「もちろん僕らは街の中の本屋に著者が来る、その場を作りたくてやっていて。なのでオンラインでやることにある種の憤りみたいな、『本当はこんなことをやりたいんじゃない』みたい気持ちも正直持ちながら、迷いの中でやってきたわけですけど。でも、イベントをオンラインで配信するようになってすぐに言われたのは、『こういうイベントって東京だけのものだと思っていたけど、地方からも見られるようになってすごく嬉しいです』みたいな声をいただいたり、小さいお子さんを子育てしている方とかから『この時間全然家から出られなくて聞けなかったんだけど、家事をしながら聞けたりできて嬉しいです』とか、そういう声をいただくようになりました。それは結構発見が大きくて、心の支えになりましたね」
嶋さん「今年の4月くらいかな。みなさんが外に出歩かれるようになって、店にお客が戻って来た時に、『本当に嬉しそうに本を見ているお客さんが多いな』と思いましたね。外に出て物を探すとか、知らなかったことと出合うとか。もともと本屋が提供している価値をまた楽しんでもらえるようになってきた気がしました」
10周年は初となるオールナイト営業を開催
ことし10周年を迎える『本屋B&B』は7月23日(土)、24日(日)に記念イベントを開催。中でも注目はB&Bに所縁があるゲストを招いて12時間続けて行われるノンストップトークイベントだ。
内沼さん「やっぱり10年たったとはいえ、これからもちゃんと新しいチャレンジをしていきたいなというところで、『オールナイトの営業をしよう』と決めまして。7月23日(土)は通常の営業の時間が終わった後、翌日の朝までずっとお店を開けるっていうことと、その間ぶっ通しでトークイベントをやります」
さまざまなゲストを招いたトークイベントは、オンラインでも配信するとのこと。ちなみに、嶋さんも内沼さんもオールナイトで現地にいるそうだ。
内沼さん「当日はずっといます。もうずっと。途中ちょっと仮眠を取ったりはするかもしれないですけど、基本徹夜でいます」
嶋さん「当日はビール飲みますよ(笑)。来場いただいたみなさんと一緒に『ビールのおいしさを増幅させる音楽』を開発している人たちの話を聞いたり、一緒にビールを飲みたいです。B&B=『BOOKS』&『BEER』ですからね」
内沼さん「瓶ビールも普段から店で出しているのは3、4種類なんですけど、その日は10周年なのでクラフトビールを10種類用意して販売もさせてもらいます」
嶋さん「コロナ禍で下北沢の街が大きく変わりました。我々『本屋B&B』は街の書店を目指しているので、ぜひイベントと一緒に下北沢の街の散策していただけたら何か発見があるんじゃないかと思います」
「日々の生活の中で、『知らない物語』や『知らない情報』に出合う感覚が味わえる場所があるのは、すごく幸せなことだと思う」と嶋さん。
そんな場所を街中に作ることを目指し、本を愛する二人が始めた“街の本屋さん”の10周年記念イベント、リアルでもオンラインでも、好きなスタイルで訪れてみては。
『本屋B&B』
住所:東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F
「おかげさまで10周年! 『本屋B&B』から愛と感謝のオールナイトパーティー」
日時:2022年7月23日(土)12時〜7月24日(日)AM6時
■「出版社によるブース出店」
時間:2022年7月23日(土)12時〜16時
出店出版社:亜紀書房/アルテスパブリッシング/タバブックス/百万年書房
■「【ビールのおいしさを増幅させる音楽】体験会&開発トーク」
時間:2022年7月23日(土)16時〜18時
「ビールのおいしさを増幅させる音楽」をビールと一緒に視聴いただく体験会、東京大学の鳴海准教授を招いたトークセッション
■ 「12時ぶっ通しリレー放談」
時間:2022年7月23日(土)18時〜7月24日(日)AM6時
『本屋B&B』に所縁のある方々をゲストに招き【10年後の未来に贈る本】を共通テーマに12時間ノンストップでリレートーク(オンライン配信あり)
決定出演者:
小倉ヒラク/小石原はるか/佐久間裕美子/管啓次郎/菅付雅信/スージー鈴木/鈴木涼美/武田砂鉄/常見陽平/手塚マキ/中川淳一郎/西田善太/柳瀬博一 …and more(50音順/敬称略)
※「12時間ぶっ通しリレー放談」についての詳細
https://bookandbeer.com/event/20220723_10th/