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メディアと選手で意識格差!? 全米野球記者協会とは違い選手選出のMVP候補に登場したあの選手

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
選手選出のMVP最終候補に選ばれたJD・マルティネス選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLB選手会は現地6日、選手が選ぶ『年間最優秀選手賞』の最終3候補選手を発表した。

 同賞はMLB全選手の投票によって選出される『プレイヤーズ・チョイス・アワード』の1部門で、1998年からこの賞が誕生し、毎年両リーグからたった1人の選手が選ばれている。つまり選手が選ぶMVPといえるものだ。今年はムーキー・ベッツ選手、クリスチャン・イエリチ選手、JD・マルティネス選手の3選手が最終候補に選ばれている。

 ここで気になってしまうのが、マルティネス選手が選ばれていることだ。MLBで最も権威ある賞といえば、全米野球記者協会(BBWAA)が選ぶMVP、サイヤング賞、新人賞になるわけだが、5日に発表されたBBWAAが選ぶ両リーグのMVP最終候補3選手に、ベッツ選手とイエリチ選手は名を連ねているものの、マルティネス選手は入っていないのだ。

 今シーズンからレッドソックスに移籍したマルティネス選手の活躍は目を見張るものがあった。チーム打率(.268)、得点(876)などチーム打撃部門のほとんどで両リーグ1位になったMLB最強打線を牽引する主軸打者の1人として、打率.330(ア・リーグ2位)、43本塁打(同2位)、130打点(同1位)と素晴らしい個人成績を残している。

 またポストシーズンに入っても3本塁打、14打点を残す活躍をみせ、チームの5年ぶりワールドシリーズ制覇にも貢献している。まさに最終候補に残るに相応しい活躍といっていいものだ。しかしBBWAAが発表したア・リーグMVPの最終3候補に選ばれたのは、ベッツ選手以外、ホゼ・ラミレス選手、マイク・トラウト選手の2人だった。

 改めて打撃3部門を比較すると、ラミレス選手は打率.270(同24位)、39本塁打(同4位タイ)、105打点(同4位)で、トラウト選手は打率.312(同4位)、39本塁打(同4位タイ)、79打点(同24位タイ)──と、明らかにマルティネス選手の方が上回っている。どう見てもメディアと選手の間で、選手評価に関して明らかに差が生じていないだろうか。

 ここで考えなければならないのが、メディアの中で拡大しているデータ重視のセイバーメトリクスをフル活用して選手を評価するという現在の潮流だ。すでに本欄でもたびたび登場している「WAR(Wins Above Replacement)」などが、打撃3部門以上に重要視されるようになっているのだ。

 改めてWARについて説明すると、当該選手が代替選手と比較してどれだけチームの勝利をもたらしているかを数値化したもので、個人成績以上にチームへの貢献度を把握できるといわれている。ちなみにWARでア・リーグのベスト5を見ると、1位ベッツ選手(10.9)、2位トラウト選手(10.2)、3位マット・チャップマン選手(8.2)、4位ラミレス選手&フランシスコ・リンドア選手(7.9)──の順になっており、マルティネス選手は6.4で9位に留まっている。

 選手たちがこうした細かいデータまでチェックするとは考えにくいし、やはりグラウンドで残した個人成績で判断を下していると思われ、そうなれば必然的にメディアとの間で意識が違ってきてしまうものだ。それが今回のマルティネス選手の評価に現れてしまったわけだ。

 もう現在のMLB球界でセイバーメトリクスを無視することはできないし、今後もデータが重要視されていく傾向を変えることはできないだろう。だがその一方で選手目線から、打率を残す、本塁打を打つ、打点を稼ぐ──という難しさも改めて認識されてもいいのではないだろうか。

 個人成績では推し量れない選手たちの功績を見出すためのデータ利用は歓迎したいが、素晴らしい個人成績を残した選手がデータによって十分に評価されなくなるのは少し違うような気がしてならない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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