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「消費税増税」消費者一番の大ショックはいつ起きた?

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ 税率改定後「8」が末尾に付く価格表示がよく目に留まるように……

景気ウォッチャー調査の判断DI動向から

税率が上がる、つまり商品購入時の対価が上昇することで、消費性向は減退する。時間の経過と共に新しい状況に慣れ、あるいはその減退が定着し、いずれにせよ消費性向は平穏化することになる。2014年4月に実施された消費税率の引上げにおいても、その消費性向の減退による景気の足踏み、後退が懸念されている。それでは実際、その減退はどの程度のものなのだろうか。

人の心理を数字として表すのは困難ではあるが、各種意識調査でその鱗片を知ることはできる。次に示すのは内閣府が毎月調査発表している景気ウォッチャー調査(地域の景気に関連の深い動きを観察できる立場にある人々を対象にした調査)の、調査時点における2~3か月先の景気の予想判断を示すもの(先行き判断DI)。50を基準値として、100に近くなるほど「景気回復」、0に近づくほど「景気悪化」と判断する人が多い。例えば全員が「(3か月後は)回復する」と答えれば100になる。

↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移
↑ 景気の先行き判断DI(全体)推移

日本人の特性として景況感では概して悪い方に見る習性があり(これはニールセンなどによる国際的な調査でも裏付けられている。一例「世界の消費者マインドは上昇を続ける、が……景況感指数、日本は主要国中最低を維持」)、50を超えるのはよほど景気の先行きが良い時か、あるいはリバウンドが生じた時位しかない。直近、今回の消費税改定関連で見ると、2014年3月の消費税率改定直前に34.7と大きく下がっている。これは当然「来月から増税だ、きっと消費も落ち込んで景気も冷えるぞ」と考える人が多かったことを意味する。

そして翌月、直近最新値となる4月では、早くも50.3と大きなリバウンドを見せている。これは多くの人が「3か月も経てば景気は今より良くなる」と考える人が急に増えたことを意味する。税率改定による景況感の悪化は、短期間で済みそうだという感想を「景気動向を身近に観測できる人達が」抱いていることになる。

それより前、2012年10月にも少々大きな下落が生じている。これは後述するように、消費税率改定が正式発表された月でもある。消費者動向を観察できる小売業者などの目線でも、税率改定決定で「3か月後位には(税率改定前にも関わらず、消費者のマインドが冷えて)景気が悪化しそうだ」と多くの人が判断したことになる。

消費動向調査で消費者自身の心境を探ると!?

「景気ウォッチャー」は消費者動向をよく知ることができる人達による消費者の観察結果。回答者自身も消費者に他ならないが、消費者動向としては間接的なものとする見方もできる。そこで直接消費者に尋ねた、類似の調査が同じ内閣府の「消費動向調査」である。

これは「消費者の暮らし向きに関する考え方の変化などをとらえるため、今後の暮らし向きの見通しなどについての消費者の意識や各種サービスなどへの支出予定、主要耐久消費財等の保有状況を一般消費者に尋ねた」もので、基本的に毎月実施している。また年一のペースで耐久消費財の保有や買い替え状況なども訪ねている。消費者の消費性向を推し量るに、よりダイレクトな数字を得ることが出来る。

次に示すのはその「消費動向調査」で取得された、消費者態度指数(季節調整済み)。今後半年間において景気動向が「良くなる(1点)」、「やや良くなる(0.75点)」、「変わらない(0.5点)」、「やや悪くなる(0.25点)」、「悪くなる(0.0点)」で回答してもらい、結果を加重平均化して指数にする(厳密には複数の項目、例えば暮らし向きや収入の増え方などについて応えてもらい、それをまとめたもの)。一応50が標準値となるはずなのだか、日本人の特性として景況感については概してネガティブにとらえてしまうのは、「景気ウォッチャー調査」の結果と変わらない。

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↑ 消費者態度指数の推移
↑ 消費者態度指数の推移

2012年の衆議院総選挙で政権が交代したことを受け、景気回復感が沸騰する形で消費性向も大きく上昇する(ちなみに2009年8月時の政権交代の際にはこのような現象は起きていない。むしろ上昇過程にあった消費性向にストップがかかっている)。その後やや高い値を維持しながらも、消費に直接関係する消費税率改定の話題がリアルさを増すにつれて上下を示すようになり、2013年10月には大きく下落を示す。これは同月1日に、2014年4月からの消費税率改定が正式に発表されたことを受けて、大きく気落ちしてしまったことによるもの。

興味深いのは、この発表時の下げ率。前月比でマイナス4.00ポイントと、直近3年では最大の下げ幅を示している(これより以前になると、例えば2011年の震災直後におけるマイナス5.3ポイントがある)。そしてそれ以降はリバウンドのあと、数字そのものは漸減してはいるものの、下げ幅は一定値で留まり、2014年2月以降はむしろ下げ幅を縮小する動きすら見せている。

一見すると「増税という出来事による消費性向の減退なら、税率改定直後が一番ショックを受けるのでは?」と思いがち。しかし今データを見る限り、増税が決定した瞬間が一番大きく気落ちし、それ以降は落ち込み続けてはいるものの、その減少幅は一定、そしてその下げ幅も実際に税率が改定される前後に向けて縮小しているほど。

方向性はまったく逆だが、例えば遠足のような行事では、その行事の準備をしたり、心待ちにするまでが心境的に大きなたかぶりがあり、行事自身はそれほど気が高揚するものでもない、いわゆる「遠足効果」と似たような感を覚えることができる。あるいは大学進学の際の、合格発表時が一番興奮するというところか。これがまだ2010年のたばこの大幅値上げのような大規模な上昇ぶりなら話は違ってくるが(実状が大きくのしかかるので、実働後も大きな心境悪化が予想される)、今件改定ではそこまでではないということなのだろう。

回復は夏前後?

「消費動向調査」では景況感の下落にストップがかかりそうな動きを示したのが分かる程度で(細部を精査すると耐久消費財の買い替え時判断では、すでに前月比でプラスに転じている)、先行きを見通すことはまだ困難な動きの中にある。一方「景気ウォッチャー調査」では、先行き判断DIが現状判断DIの数か月先を行くことが経験則として知られており、そしてその先行き判断DIが4月に入って大きく戻しを見せているのも確認できる。

↑ 2014年3月から4月における先行きDIの増加値
↑ 2014年3月から4月における先行きDIの増加値

こちらでも耐久消費財を商材として取り扱うことが多い百貨店、家電量販店、乗用車・自動車備品販売店の戻しっぷりが著しく、「消費動向調査」の動きの裏付けにもなる。次月以降の動きでさらなる精度を高める必要があるが、景況感を左右しうる新たな事象が発生しない限り、今夏前後には消費税率改定による消費マインドの低下は、ほぼ回復を示しそうである。そしてこの推定は、景気ウォッチャー調査の回答者による具体的コメントにおいても、この数か月の間頻繁に目に留まるものに他ならない。

先日発表された夏の電力状況(「ギリギリ数字目標無しの節電要請…2014年夏季の節電要請内容正式発表」)で、景気の足が引っ張られないことを願いたいところだ。

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グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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