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あれから7年。マスターズ最終日にゴルフ界の「歴史」は動くだろうか?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
マスターズ3日目に1イーグル、5バーディーの見事なゴルフで2位へ浮上したマキロイ(写真:ロイター/アフロ)

「僕はこのチャンスをずっと待っていた」

マスターズ3日目を終え、首位のパトリック・リードから3打差の単独2位で最終日最終組を迎えることになったローリー・マキロイ(北アイルランド)は、開口一番、そう言った。

ずっと待っていた――いつから待っていたかと言えば、7年前に遡る。2011年マスターズで2位に4打差の単独首位で最終日に挑んだマキロイは自身の優勝を確信していたが、後半でガラガラと崩れ落ち、「80」の大叩きで大敗した。

「あの日は、メジャーで優勝するための準備が僕にはまだできていなかったことを痛感させられた日だった。でも今の僕はメジャーで勝つ準備ができている。あれからいろんなことを学んだからね」

あれから7年。今年のマスターズ3日目に1イーグル、5バーディー、ノーボギーの見事なゴルフを披露し、7アンダー、65をマークして2位へ浮上。会見に臨んだマキロイは「I am ready to win.(勝つための準備はできている)」と自信ありげに言い切った。

すでに全米オープン(2011)、全英オープン(2014)、全米プロ(2012、2014)を制し、メジャー大会で合計4勝を挙げているマキロイ。明日、マスターズを制すれば、メジャー4大会すべてを制覇するキャリア(生涯)グランドスラム達成となる。

これまでキャリア・グランドスラムを達成したのは、ジーン・サラザン、ゲーリー・プレーヤー、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラス、タイガー・ウッズの5人だけ(注・マスターズ創設以降の近代ゴルフ史において)。マキロイがそこに加われば、史上6人目のグランドスラマー誕生となり、ゴルフ界の歴史が大きく1つ動くことになる。

【今でも心に残っている大崩れの経験】

それにしても、2011年マスターズ最終日のマキロイの崩れ方は衝撃的だった。

折り返し直後の10番。マキロイのティショットが大きく左へ曲がり、民家の庭に飛び込んでしまった場面は、多くのゴルフファンの脳裏に焼き付いていることだろう。

10番でトリプルボギー、11番でボギー、12番でダブルボギー、そして15番でもボギーを喫し、最終ラウンドは「80」を喫して15位に甘んじた惨憺たる結果になった。

「心に深い傷を負い、立ち直るまでには時間がかかった」

とはいえ、マキロイはそれからわずか2か月後の6月に全米オープンを圧勝してメジャー初優勝を遂げると、翌年は全米プロ、2014年には全英オープンと全米プロを続けざまに制し、今では米ツアー通算14勝の実力者と見なされている。

「それでもなお、あの2011年の大崩れは今でも僕の心に残っている。でも、あの経験が僕をもっと強い選手へと成長させてくれた」

【運さえも、向いている?】

「あのときは未熟だった」と謙虚に振り返り、それを口にできるまで成長したマキロイ。

あれから7年。心技体のすべてを向上させつつ、「ずっと待っていた」チャンスをついに掴んだ。雪辱とマスターズ初制覇とグランドスラム達成をすべていっぺんに達成するための準備は今、ついに整った。

「勝つためには運も必要」と言われるが、その運さえ、マキロイに向いているように感じられてならない。

昨年は1勝も挙げられなかったマキロイが、それ以前に最後に勝ったのは2016年の米ツアー最終戦、ツアー選手権だった。最終日の夕暮れにマキロイがウイニングパットを沈めたちょうどそのころ、ゴルフ界のキング、アーノルド・パーマーが静かに息を引き取った。

それはまるでパーマーがマキロイに「ゴルフ界を頼むぞ」と牽引役のバトンを渡したかのように私には感じられた。

そして今年3月、今は亡きパーマーのお膝元のベイヒルで開催されたアーノルド・パーマー招待でマキロイが復活優勝。それはパーマーが天国へ旅立った日に挙げた2016年のツアー選手権以来、ほぼ1年半ぶりの優勝だった。

勝利を挙げられなかった2017年に結婚した妻エリカの誕生日は、「偶然にもパーマーと同じなんだ」とマキロイが明かしたときは、本当に驚かされた。

そんなふうにパーマーと不思議な縁で結ばれているかに見えるマキロイは、パーマー招待で挙げた復活優勝の感触を抱いて今年のマスターズに臨めたことが「とても大きい」と言う。

マスターズ初日の朝のオナラリー・スターターの儀式にパーマーの姿が無くなって今年は2度目のマスターズ。そこで今、マキロイが優勝ににじり寄っていることにも、不思議な巡り合わせを感じずにはいられない。

明日の最終日。果たして勝利を掴み取るのは誰か。

「7年前の経験を活かしたい」と言うマキロイは、今度こそ、マスターズ初優勝を挙げることができるのか。

マキロイがグリーンジャケットを羽織ることは、イコール、彼によるキャリア・グランドスラムが達成されること。

果たして、明日のサンデーアフタヌーンに、ゴルフ界の歴史は動くだろうか――。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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