医療従事者へ接種開始 ファイザー社の新型コロナワクチンQ&A
2月14日にファイザー社の新型コロナワクチンが承認され、2月17日からは医療従事者への接種が始まりました。
このワクチンの有効性、副反応、対象者、注意点などについてまとめました。
Q. 承認されたファイザーのワクチンはどんなワクチン?
A. mRNAワクチンという新しい技術を用いたワクチンです
今回日本で承認されたファイザー社/ビオンテック社が開発したワクチン(BNT162b2)はm(メッセンジャー)RNAワクチンという新しい技術を用いたワクチンです。
このワクチンでは、mRNAというタンパク質を生成するために使用する情報細胞を運ぶ設計図が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白、つまりウイルス表面のトゲトゲした突起の部分を作る指示を伝える役割を果たしています。
ワクチンが接種されると、mRNAは注射部位近くのマクロファージに取り込まれ、スパイク蛋白を作るように指示します。
その後、スパイク蛋白はマクロファージの表面に現れると、このスパイク蛋白に対する抗体が作られたりT細胞を介した免疫が誘導されることで、新型コロナウイルスに対する免疫を持つことができます。
生きたウイルスはワクチンの中には入っておらず、また遺伝情報を体内に接種すると言っても、それによって人間の遺伝子の情報に変化が加わることもありません。
Q. 海外ではどれくらいの人に新型コロナワクチンが接種されている?
A. 世界70カ国で1億5000万回の接種が行われています。
すでに海外ではファイザー社、モデルナ社の新型コロナワクチン接種が始まっており、すでに1億5000万回のワクチンが接種されています。
日本ではまだこれからですので「日本も早く接種しないと!」と焦る気持ちも分かりますが、一方で海外での接種の状況を見ながら効果と副反応をある程度見極めてから自身が接種するかどうかを決めることができます。
Q. 新型コロナワクチンの効果は?
A. 新型コロナを発症するリスクが20分の1になります。
発症予防効果95%という「ぱねえ効果」を示しています。
このファイザー社のmRNAワクチンはランダム化比較試験という最も強い科学的根拠となる臨床研究によって、プラセボ群と比較して発症予防効果95%という非常に高い効果が示されています。
プラセボというのは偽薬のことで、この臨床研究では生理食塩水が注射されています。
ちなみにワクチンによる発症予防効果95%とは「95%の人には有効で、5%の人には効かない」または「接種した人の95%は新型コロナに発症しないが、5%の人は発症する」という意味ではありません。
「ワクチンを接種しなかった人の発症率よりも接種した人の発症率のほうが95%少なかった」という意味であり、言い換えると「発症リスクが、20分の1になる」とも言えます。
この95%という数字は他のワクチンと比べても非常に高いものであり、例えば、最も効果が高いワクチンの一つである麻疹ワクチンの予防効果と同程度です。
Q. 接種後、どれくらいで効果が出る?
A. 初回の接種から約2週間で効果が出てくるようです。
前述のランダム化比較試験では、1回目の接種から12日くらいまでは新型コロナの発症者の数に変わりはありませんが、それ以降からワクチン接種群では発症する人が少なくなっています。
すでに接種対象者のうち70%の人が新型コロナワクチンの接種を開始しているイスラエルからは、ワクチン接種後0〜12日後と接種後13〜24日との新型コロナ発症リスクを比較した研究では、接種後13〜24日の方が発症リスクが51.4%減少したとのことです。
これらの結果からは、1回目の接種から約2週間で効果が出始めると考えられます。
しかし、十分な効果を得るためには2回の接種が必要です。
Q. どれくらいの間隔を空けて何回接種する?
A. 21日間(3週間)の間隔を空けて2回接種します
初回の接種から3週間空けて2回目の接種を行います。
Q. ワクチンを打った人が新型コロナを発症した場合どうなる?
A. ワクチン接種者が発症した場合も重症化しにくくなります。
ワクチンの効果には発症を防ぐ効果とは別に「重症化を防ぐ効果」も期待されます。
発症を防ぐことはできなくても、ワクチンを接種することで重症化を防げるようになれば、それだけで非常に大きな価値があります。
例えば、インフルエンザワクチンは、接種してもインフルエンザに罹ることはありますが、重症化を防ぐ効果があるとされています。
今回のファイザー社の新型コロナワクチンでは、先にご紹介したランダム化比較試験において、重症化した10名のうち1例がワクチン接種群、9例がプラセボ群であったということで、発症したとしても重症化を防ぐ効果があると考えられます。
Q. 新型コロナワクチンの効果の持続期間は?今後、追加接種は必要になる?
A. まだ分かっていません。
新型コロナワクチンの臨床研究は2020年の夏以降に実施されているものですので、どれくらい効果が持続するのかについては情報がありません。
ファイザー社のものではありませんが、同じmRNAワクチンであるモデルナ社のワクチンの第1相試験のデータからは、中和抗体が4ヶ月間持続していますが、実際の予防効果については分かりません。
今後、追加接種が必要なのか、いつ打つべきかについても分かっていません。
これらについては、今後明らかになってくるでしょう。
Q. 副反応はどれくらいの頻度で起こるの?
A. 接種部位や全身のなんらかの副反応は半分以上の人にみられます
ファイザー社のmRNAワクチンは基本的には安全性に大きな問題はないと考えられています。
しかし、どんなワクチンであっても100%安全なものはありません。
アメリカ合衆国では2021年1月24日までに1200万人以上の人にファイザー社のワクチンが接種されています。
アメリカではv-safeというワクチン副反応トラッカーがありますが、ここに報告された副反応についてCDCから発表されています。
この報告によると、接種部位の痛みが最も頻度が高く(67.7〜74.8%)、だるさ、頭痛、筋肉痛、寒気、発熱、接種部位の腫れ、関節痛、吐き気などがみられるようです。
これはインフルエンザワクチンと比べてもかなり副反応の頻度が高いと言えます。
接種した翌日には体調不良で仕事を休まざるを得ない、という人も多く出そうです。
また1回目よりも2回目の方が、それぞれの副反応が起こる頻度は高くなるようです。
Q. アナフィラキシーが起こる頻度は?
A. 20万人に1人程度のようです。
最も懸念される副反応はアナフィラキシーなどのアレルギー反応です。
臨床研究ではワクチン接種群がプラセボ群と比べて特にアレルギー反応が多いというわけではありませんでしたが、アメリカやイギリスで接種が始まってからアナフィラキシーの事例が報告されています。
アナフィラキシーの原因と考えられているのは、両方のワクチンに含まれているポリエチレングリコール(PEG)と呼ばれる物質です。
アメリカ疾病管理予防センター(CDC)はPEGやポリソルベートなどのPEG誘導体にアレルギーのある人はmRNAワクチンの接種を控えるよう推奨しています。
実際にアナフィラキシー反応がどれくらいの頻度で起こるのかについてですが、アメリカで約1000万人に1回目の接種をしたところ50人にアナフィラキシー反応が起こった、とのことです。つまりおよそ20万人に1人にアナフィラキシー反応が起こる計算になります。
インフルエンザワクチンなど一般的なワクチンのアナフィラキシー反応の頻度は「100万人に1人」程度とされていますので、それと比べると頻度は高いと言えるでしょう。
しかし、例えばペニシリンという抗生物質では5000人に1人くらいの頻度で重度のアレルギー反応が起こるのと比べると、決して頻度が高いわけではありません。
ペニシリンのアレルギー反応はよく知られていることからニュースにはなりませんが、新型コロナワクチンは世界中で注目されているため、どうしても目立ってしまいますが、冷静にリスクを評価する必要があります。
なお、アナフィラキシー反応を起こす人ではサルファ剤や卵などなんらかのアレルギーがあったり、過去にアナフィラキシーを起こしたことがある人で多くみられることが分かっています。
前述のアナフィラキシーを起こした50人についての詳細を見てみると、
・女性が47人(94%)
・74%の人で接種後15分以内、90%の人で接種後30分以内にアナフィラキシーが出現
・40人(80%)は過去にアレルギーを指摘されていた
・12人(24%)は過去にアナフィラキシーを起こしたことがあった
とのことです。
何らかのアレルギーがある人はワクチン接種後30分程度は特に慎重に様子を見るようにしましょう。
なお、アナフィラキシーを起こした方々は皆さん退院されており、迅速に、適切に対応すれば命に関わることはほとんどありません。
Q. アレルギーがある人はワクチンを接種しない方がいい?
A. 何のアレルギーかによります。
CDCはPEGやポリソルベートなどのPEG誘導体にアレルギーのある人はmRNAワクチンの接種を控えるよう推奨しています。
それ以外のアレルギーを持つ人もワクチン接種後にアナフィラキシーを起こすことはありますが、接種をしてはいけないわけではありません。
アレルギーをお持ちの方は、接種するかどうか医師と相談して決めるようにしましょう。
Q. 長期間が経ってから明らかになる副反応が今後問題になる可能性は?
A. なくはありませんが、可能性は高くないでしょう。
現時点でワクチンの副反応の全てが分かっているわけではなく、特に長期間経過してから明らかになる副反応については今後明らかになる可能性もあります。
しかし、その他の予防接種では、重篤な副反応は通常投与後数日から数週間で起こるものであり、長期間経過してから現れる副反応は稀です。
Q. ワクチンを接種して亡くなった人がいるって聞いたけど?
A. ワクチン接種との因果関係はないと考えられているようです。
ワクチン接種が原因で亡くなった、と判断された方はまだいません。
例えばアメリカの高齢者施設では2021年1月18日までにワクチン接種後に129人の高齢者が亡くなられたと報告されています。
しかし、平時に高齢者施設で亡くなられる方と比べて多いわけではなく、この129人もワクチン接種との因果関係はないだろうと結論付けられています。
Q. 筋肉注射って受けたことないけど安全なの?
A. 海外では皮下注射よりも筋肉注射の方が一般的なワクチン接種法であり、安全性は確立されています。
海外ではワクチン接種の投与経路として筋肉注射が一般的です。
これは、筋注の方が
・抗体産生が良好であること
・副反応が少ないこと
が理由です。
皮下注射と筋肉注射との違いは例えばインフルエンザワクチンやB型肝炎ワクチンで確認されており、皮下注射の方が接種部位の痛みや腫れが強く、抗体産生が劣ることが分かっています。
日本では、薬剤筋注投与による大腿四頭筋短縮症が社会問題となった時代背景がありますが、これはワクチンの筋肉注射が問題になったわけではなく、ワクチンの筋肉注射は安全な接種経路と考えられています。
Q. 血をサラサラにする薬を飲んでいるけど接種できる?
A. 接種することはできますが、接種後の出血に注意が必要です。
飲んでいる薬によっては、出血すると止まりにくいことがあります。
表のような抗凝固薬を飲んでいる方は、ワクチン接種を受けることはできますが、接種後の出血に注意が必要です。
接種後2分間以上、接種部位をしっかりと押さえておくようにしましょう。
接種にあたって、お薬の休薬は必要ありません。
また、抗血小板薬などの血をサラサラにする薬もあります。
例えば、バイアスピリン、パナルジン、プラビックス、プレタール、バファリンなどです。
これらの薬剤を内服している方は通常通り接種を受けていただけます。
Q. 新型コロナワクチンを接種すれば周りの人にうつさなくなる?
A. おそらくそうと考えられますが、まだ分かっていません。
これまでに報告されているワクチン臨床試験の結果では、新型コロナの発症を防ぐ効果は示されていますが、無症候性感染(症状がないけど感染している状態)に関する情報については不足しています。
つまり、ワクチンを接種して防げるのは感染そのものではなく、症状が出ることを防げるだけで感染はしてしまうのではないかという懸念は残っています。
新型コロナウイルスに感染した人の最大40%程度は無症候性感染者とされており、この無症候性感染者からも周囲の人に感染が広がることがあります。
そういう意味では、ワクチンが無症候性感染をも防ぐことがはっきりと分かるまではマスクの着用、3密の回避、こまめな手洗いは継続する必要があります。
しかし、ファイザー社のワクチンの1回目を接種し、接種後12~28日後に感染した場合、接種後11日までに感染した場合よりも新型コロナウイルスの量が有意に減少していたという報告も出ており、ワクチン接種による感染拡大効果も期待できるのではないかと思われます。
Q. すでに新型コロナに罹ったことがある人はワクチンを打った方がいいの?
A. おそらく打った方が良いでしょう。しかし感染から数ヶ月程度は様子を見ても大丈夫です。
臨床試験のデータによると、mRNAワクチンは新型コロナに罹ったことがある人にも安全に接種できることが示されています。
罹ったときに症状があった人も、無症状だった人もワクチン接種が推奨されます。
過去の感染を確認するための抗体検査も特に必要ありません。
現在、新型コロナに感染している人は、今の症状が落ち着いて退院する、または自宅療養が解除されるまでは接種を控えましょう。
新型コロナに感染してからワクチン接種までどれくらい期間を空けるべきかは推奨がありませんが、新型コロナに感染した人は数カ月間は再感染のリスクが低いとされており、ワクチンの供給状況に合わせて接種を遅らせることを検討しても良いでしょう。
Q. イギリス、南アフリカ、ブラジルの変異株にもワクチンは有効?
A. イギリス変異株にはおそらく有効ですが、南アフリカ、ブラジル変異株に対しては有効性低下が懸念されています。
現在、主にイギリス変異株 VOC202012/01、南アフリカ変異株501Y.V2、ブラジル変異株 P.1の3つが世界的に拡大しています。
このうち南アフリカ変異株とブラジル変異株には逃避免疫と呼ばれる変異があり、ワクチンの有効性の低下が懸念されています。
しかし、現時点で日本国内でのこれらの変異株の広がりは限定的であり、ワクチン接種を控える理由にはならないでしょう。
Q. 妊婦さんや授乳している人は新型コロナワクチンを接種できる?
A. 妊婦さんは努力義務からは外れています。授乳中の方は安全に接種できると考えられます。
新型コロナワクチンの妊娠中の安全性に関するデータは現在のところほとんどありません。
これまでの知見からは、mRNAワクチンは生ワクチンではないため、妊娠中の人や胎児にリスクをもたらす可能性は低いと考えられていますが、妊婦を対象とした研究は行われていないため、mRNAワクチンが妊娠中の人や胎児に及ぼす潜在的なリスクは不明です。
このため、妊婦さんは新型コロナワクチン接種の努力義務からは外れています。
一方で、妊婦さんが新型コロナに感染すると重症化する可能性もあるため、今後海外から妊婦さんのワクチン接種の安全性のデータが確認できれば接種することが望ましいと考えられます。
授乳中の方は努力義務からは外れておらず、また母乳への影響についても想定されないため接種については問題ないと考えられます。
Q. 子どもはワクチンを接種できるの?
A. 現時点では小児に対するワクチン接種は推奨されません。
ファイザー/ビオンテック社のワクチンは16歳以上の患者を対象に臨床研究が行われており、国内での承認も16歳以上が対象となります。
Q.日本国内でのワクチンの優先接種対象者は?
A. 医療従事者、高齢者、基礎疾患を有する方などです
2月17日からは医療従事者への接種が始まりました。
また、厚生労働省ではワクチンの優先接種対象者を協議しており、医療従事者以外に、高齢者、基礎疾患を有する方を優先することを決定しています。
また高齢者等が入所・居住する社会福祉施設などの職員も高齢者に次ぐ接種順位となります。
また、ワクチン接種が優先される基礎疾患とは、現時点では、
・慢性の呼吸器の病気
・慢性の心臓病(高血圧を含む)
・慢性の腎臓病
・慢性の肝臓病(肝硬変等)
・インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病又は他の病気を併発している糖尿病
・血液の病気(ただし、鉄欠乏性貧血を除く)
・免疫の機能が低下する病気(治療中の悪性腫瘍を含む)
・ステロイドなど、免疫の機能を低下させる治療を受けている
・免疫の異常に伴う神経疾患や神経筋疾患
・神経疾患や神経筋疾患が原因で身体の機能が衰えた状態(呼吸障害等)
・染色体異常
・重症心身障害(重度の肢体不自由と重度の知的障害が重複した状態)
・睡眠時無呼吸症候群
・基準(BMI 30 以上)を満たす肥満の方
となっています。
Q. 日本国内での今後のワクチン接種の予定は?
ファイザー社のmRNAワクチンは2020年12月18日に承認申請が出されました。
2月14日に承認され、医療従事者については2月17日からワクチン接種が開始されました。
なお、高齢者への接種の開始は早くても4月1日以降になる見込みです。
Q. 結局、新型コロナワクチンは打った方がいいの?
A. 各自の判断に委ねられています。私は打ちます。
国は「推奨」は出しますが「義務」ではなく、必ず接種をしなければならないわけではありません。
ワクチン接種をするかどうかは個人個人の判断に委ねられることになります。
ご自身の年齢、基礎疾患から接種によるメリットとデメリットを天秤にかけ、メリットが上回ると判断したときに接種するようにしましょう。
ちなみに私は、医療従事者ですし、重症化リスクの高い「男性・高血圧・肥満」の三冠王ですので、たとえ泣くほど痛くても打ちますよ。
Q. 感染症の専門家はワクチンについてどう考えている?
A. 多くの感染症専門家はワクチンを接種することを希望しています。
参考までに感染症の専門家は新型コロナワクチンをどう捉えているのかご紹介します。
感染症の専門家、と一言で言っても様々であり、ウイルスの専門家、感染対策の専門家、臨床感染症の専門家などがいますが、情熱大陸に出演した3人の感染症専門家は以下の通り「ワクチンを打ちますか?」という質問に対し「私は接種します」即答しています。
また臨床感染症の専門家たちも「私たちは新型コロナワクチンの接種を受けます」と答えています。
新型コロナワクチンについては様々な情報が飛び交っていますが、科学的な知見を正しく吟味した上で、接種するかどうかを決めるようにしましょう。
【参考】
New England Journal of Medicine. Covid-19 Vaccine — Frequently Asked Questions
一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会 COVID-19 ワクチンに関する提言(第1版)