Yahoo!ニュース

衝撃発言をしたデニス・サファテの真意と投手リーダーとしての矜持

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
チームのために投げ続けるという姿勢に変わりはないデニス・サファテ投手

 14日の日本ハム戦前、デニス・サファテ投手はいつも通り笑顔で迎え入れてくれ、快くインタビューに応じてくれた。

 脇腹に奥さん、右腕に3人の娘の名前をタトゥーにして刻み込んでいるサファテ投手。もうすぐアメリカから家族が来日するようで、それも上機嫌の理由の1つだったのかもしれない。早速各メディアから“キレた”とまで表現された、1日のオリックス戦後に彼がした発言について質問したところ、笑顔の表情を変えることなく包み隠さず話してくれた。

 「あの発言は試合が終わってから3分後ぐらいに行ったものだ。サヨナラ本塁打を打たれ試合に負けたばかりなので、間違いなくフラストレーションを感じていた。確かに中継ぎ陣は皆疲れていると言ったし、野球は先発投手と中継ぎ投手が互いに助け合いながらやっていくもので、時には先発陣も奮起する必要があるとも言っている。

 ただ(記者からの)質問で今の気持ちを聞かれたから、ここ3試合先発投手が4回、5回、4回で降板している状態だったから、自分だけでなく、モリ(森唯斗投手)も、ショー(岩嵜翔投手)も皆疲れていると答えた。だからと言って自分は『先発投手がもっといい仕事をするべきだ』なんてつもりは毛頭なかった。

 実際リック(・バンデンハーク投手)とヒガシハマ(東浜巨投手)は毎試合7回まで投げてくれるので、中継ぎ陣は大いに助かっているし、あの時の3試合のうち本来先発ではないテラハラ(寺原隼人投手)が先発していたという事情もあった。多少誤解の部分があったかもしれないが、先発陣は自分が彼らに対しリスペクトしているのを理解してくれているし、また先発陣も自分たち中継ぎ陣をリスペクトしてくれているのを知っている。

 そもそも自分が他の選手に不満を感じているなら新聞記者ではなく彼らに直接伝えるよ。例えばゴロを全力で追わなかったり、一生懸命さが見受けられない選手がいたら、彼のところにいって『我々は一緒に戦っているんだ。もっとガッツを見せて欲しい』と声をかけるようにする。新聞を使ってトラッシュトークを仕掛けるつもりは更々ないよ」

 サヨナラ本塁打を打たれた直後に受けたインタビューということもあり、興奮状態にあったのは本人も認める通りだ。その中で吐き出された言葉は、通訳がどんなに正確に訳そうともサファテ投手の真意すべてを伝えることはなかなか難しかっただろう。しかも新聞の短い記事の中では、なかなか説明しきれない部分もあっただろう。

 これまで長年MLBの取材を続けてきた中で、シーズン中に発する選手たちの不用意な発言がチーム内に不協和音をもたらし、チームが崩壊していくケースを何度となく目撃してきた。今回のサファテ投手の発言を報じた記事を目にした時、同様の危険性を孕んでいるのではないかと危惧した。しかも外国人選手ともなれば尚更誤解を受けやすいからだ。しかし彼の説明を聞いているうちに、自分の疑問は簡単に氷解していった。

 実際サファテ選手の発言以降も、ソフトバンクは問題視することもなければ、現在も好調を維持しながら楽天と熾烈な首位争いを演じている。それもこれも、前述のサファテ投手の説明からも垣間見られるように、彼がチームから信頼される存在だからに他ならないだろう。むしろ五十嵐亮太投手が戦線離脱し、中継ぎ陣の最年長になっているサファテ投手がリーダー、精神的支柱になっているようにも思えて仕方がない。今回の発言も中継ぎ陣の代弁者的な部分もあったように思える。

 本人はチーム内の自分の役割をどう感じているのだろうか。

 「自分もそう(チームリーダーになれていること)願っているよ。自分も今年でプロ18年目のシーズンを迎えている。悩んでいる選手や苦しんでいる選手がいたら、常に激励し、助けるように心がけている。ショーやモリたちにも場面場面でどんな組み立てをしたらいいか、アドバイスもしたりしているよ。

 自分自身も今でも毎日新しいことを学び続けているし、これまで長年培ってきた知識をより多くの選手たちとシェアしていきたいと思っている。確かに自分が現在投手陣で最年長だよね。もちろん自分が常に正しいとは思っていないが、最年長選手としてするべきことをやっていきたい」

 インタビュー中現在の体調についても聞いたところ、「今も疲れてるよ。でもシーズン終盤は毎年そうだからね」と笑顔で話してくれたサファテ投手。今シーズンも最後の試合まで全身全霊で投げ続ける覚悟だ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事