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森保采配に悪い兆候。苦戦の原因を忘れて同じ轍を踏んではならない【サウジアラビア戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

再び硬直し始めたベンチワーク

 日本にとって、綱渡りの戦いが続いているW杯アジア最終予選。勝てば本大会出場が決まる首位サウジアラビアをホームに迎えた日本は、2-0で勝利した。これにより、日本は勝ち点1ポイント差で首位サウジアラビアに肉薄したうえ、2試合を残して2位の座を維持した。

 布陣を4-3-3に変更した第4節オーストラリア戦(〇2-1)以降、ベトナム戦(〇0-1)、オマーン戦(〇0-1)、中国戦(〇2-0)、サウジアラビア戦(〇2-0)と白星を重ね、しかも直接フリーキックによる1失点のみ。薄氷を踏むような試合が続いているが、直近5試合の結果については、申し分のないものと言えるだろう。

 次節アウェイでのオーストラリア戦で引き分け以上の結果を残せば、2位以上での本大会出場が確定するところまでは、何とか漕ぎつけることができた。

 しかしその一方で、現在の日本の戦いぶりからは極めて明確な傾向が浮き彫りになっていることは見落とせない。

 つまり、格下(グループBのポッド4以下のチーム)のオマーン、中国、ベトナムに対しては、ボールを握ることができるが、攻撃のバリエーションを欠いてなかなかゴールを決められない。

 逆に、サウジアラビア(ポッド3)やオーストラリア(ポッド2)に対しては、相手にボールを握られながら、守備重視の戦い方で少ないチャンスに勝機を見出す。そして、どちらのケースにも共通するのが、最終的に伊東(または三笘)の個人の打開力が唯一とも言える解決策になっているということである。

 だからこそ、どちらに転んでもおかしくないような試合が続く。結果的に2-0で勝利した今回のサウジアラビア戦も、0-0で終わっていても不思議ではない内容で、相手のイージーミス2つに救われた紙一重の勝負だった。

 ほぼパーフェクトとも言える結果を残し続けて5連勝を記録するチームでありながら、いまだに見る者に不安感を与え、なおかつチームに勢いを感じることができない理由はそこにある。

 そして、波に乗れないチーム状況に拍車をかけているのが、硬直し始めた指揮官のベンチワークである。

「勝っているときはいじるな」という定石通りのスタメン編成については妥当としても、試合中の選手交代を含めた采配ぶりは、勝てば勝つほど、かつてのように柔軟性、臨機応変さを失い、凝り固まってきた印象だ。

 たとえば、長友→中山、大迫→前田(以前なら古橋)、南野→浅野。これらは現在の定番とも言える選手交代策であり、つまり交代カードの切り方はほぼパターン化しつつあるというのが現状だ。

 さらに、第4節オーストラリア戦でかつて見られなかった大きな変化を見せた森保采配は、前節中国戦までは交代策が奏功していたが、今回のサウジアラビア戦では切ったカードのどれもが不発。しかもこの試合では、交代枠を1つ残したまま試合を終えた。

 それも、ベンチワークが硬直し始めた兆候と見ることもできる。

 そもそも、日本が今回のアジア最終予選で苦戦を強いられた最大の要因は、固定化された4-2-3-1という布陣と、凝り固まった戦術を相手に徹底研究されたことに端を発する。変化、柔軟性の欠如こそが、最大の原因だった。

 そんな硬直化したチームに刺激を与えて復調させたのが、森保監督自身の変化だったはず。そのことを忘れて再び采配が保守的になって硬直化すれば、また同じ過ちを繰り返す可能性を否定できなくなってしまう。

 次節は、いよいよオーストラリアとの大一番。相手にとっては、現在の4-3-3に変わった日本と2度目の対戦になる。

 前回対戦では日本の布陣変更に対して戸惑いを見せたが、今回は、スタメンも選手交代策もパターン化している現在の日本に対して入念な対策を練ったうえで、万全の準備をして挑むことができる。

 勝ち点差は3ポイントあるので日本優位は動かないが、もしオーストラリアが勝利すれば2位と3位が逆転するという状況に変わりはない。

 そんな大一番を、これまでのような保守的な采配で、攻めの姿勢が欠如したパターン化された選手交代策で、無事に乗り切ることができるか。

 博打のような戦いはまだ終わらない。いまはただ、現在の流れがもう1試合途切れることなく、無事本大会の切符をつかむことを願うのみである。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】権田修一=6.0点

蓋を開けてみればサウジアラビアのシュート本数も中国と同じ2本のみ。ただし、プレー機会が増えた中、クロス対応を含めてミスなく安定したパフォーマンスを継続してみせた。

【右SB】酒井宏樹=6.5点

立ち上がりにミスが目立ち低調に見えたが、次第に目を覚まして伊東へのミドルパスで先制点を演出。その後も得意のオーバーラップから抜群のクロス供給でチャンスを作った。

【右CB】板倉滉=6.0点

相手の1トップに対してタイトにマーク。クロスボールにも空中戦の強さを発揮し、谷口とのCBコンビで最終ラインを引き締めた。欲を言えば戦局を変えるフィードもほしかった。

【左CB】谷口彰悟=6.0点

板倉の立ち位置を確認しながらのカバーリングと安全第一のプレーで守備のタスクをまっとうした。1対1で突破された場面もあったが、総じて合格点のパフォーマンスを見せた。

【左SB】長友佑都(68分途中交代)=6.5点

ここ数試合の不甲斐ない内容から一転、鬼気迫るプレーの数々で名誉挽回。守備で大きなミスもなく、前半から積極的に攻撃参加し、伊東のゴールをアシスト。68分にお役御免。

【アンカー】遠藤航(90分途中交代)=6.5点

被カウンターを意識した立ち位置をとりながら、機をうかがって攻撃に参加してミドルを狙った他、先制点の起点にもなった。中国戦を含めてキャプテンの職務も無事遂行した。

【右インサイドハーフ】田中碧=6.5点

フルタイムにわたってピッチ全体を走り回り、守備では危険な場面で相手の攻撃の芽を摘み、攻撃ではボックス内にも侵入。試合を重ねるごとにスタミナと質がアップしている印象。

【左インサイドハーフ】守田英正=6.5点

田中同様にピッチ全域を動き回り、攻守両面で大きな役割を果たした。無尽蔵のスタミナは相変わらずで、1人で2~3人分の仕事をこなした。特にこの試合では守備面で際立った。

【右ウイング】伊東純也=7.0点

先制点の場面では自慢のスピードで相手2人を剥がしてアシストを記録し、追加点の場面では目の覚めるようなミドルを突き刺し4戦連続得点。日本の攻撃には絶対に欠かせない。

【左ウイング】南野拓実(78分途中交代)=6.0点

最終予選で沈黙していた日本の得点源が久しぶりにネットを揺らしてチームに安心感を与えた。ただし、後半早々の左ボレーはせめて枠に飛ばしたかった。得点を0.5点加算。

【CF】大迫勇也(68分途中交代)=6.0点

前線の広いエリアをよく走り、中央のみならず、サイドに流れてボールをうけるなど工夫が見られた。ただし、決定的な仕事ができず、全体的に不満も残るパフォーマンスだった。

【FW】前田大然(68分途中出場)=5.5点

大迫に代わって後半途中から1トップでプレー。中国戦同様、前線のチェイスで相手守備陣に圧力をかけたが、攻撃では効果的なプレーはできず。シュートを1本も撃てなかった。

【DF】中山雄太(68分途中出場)=5.5点

長友に代わって後半途中から左サイドバックでプレー。中国戦のような活躍が期待されたが、プレーが空回り。ボールロストや相手に続けて背後をとられるなど不出来に終わった。

【MF】浅野拓磨(78分途中出場)=5.5点

南野に代わって後半途中から左ウイングでプレー。82分に酒井からの絶好のピンポイントクロスを直接狙うも、バーの上に…。ボールロストもあり、低調なパフォーマンスだった。

【MF】原口元気(90分途中出場)=採点なし

遠藤に代わって後半途中から右インサイドハーフでプレー、代わりに守田がアンカーに移った。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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