「勝ってあいつら監獄にぶちこむ」 韓国大統領候補夫人「通話録音データ暴露」からまさかの「ファン激増」
韓国大統領選がまたしてもすっ飛んだ展開になっている。
2大候補に関しては「歴史的非好感度対決(要はどちらの候補もあまり好かれない)」と言われる今回の選挙。
苦し紛れ、とも見える革新系与党の李在明(イ・ジェミョン)候補による「かつら・植毛の保険適用公約」については日本の地上波でも多く報じられたところ。
しかし、じつのところ韓国でずっとお騒がせなのは「美魔女」のほうだ。
保守系野党候補尹錫悦(ユン・ソンニョル/日本メディアでは「ソギョル」とも)氏夫人の金健希(キム・ゴニ/同じくゴンヒとも)氏。昨年12月中旬以降、彼女の話題がポータルサイト「Daum」のデイリーアクセスランキングベスト10に入らない日はほとんどない。
12月26日の「キャリア虚偽」の釈明会見もまた日本の地上波で伝えられたが、その後、彼女を巡って驚くべき展開が繰り広げられている。
「ファンサイトの登録者数が爆増」
美貌で知られる彼女、もともと200人規模のファンが集まりサイトを運営していたが、この会員が25日時点で6万人規模にまで激増しているのだ。じつに300倍増だ。
一体何が起きているのか。
美魔女は「影のある女」
金氏は1972年9月2日生まれの49歳。現在は文化・芸術コンテンツを制作・投資する会社「コバナコンテンツ」の代表を務める。
2012年、同社の取締役を務めていた頃に検事として活躍していた尹錫悦氏と結婚した。本人は39歳、夫は51歳の年の差カップルだった。
結婚後は地方勤務だった夫とともにソウルを離れての生活も経験した。
2019年8月27日、韓国メディアでその存在が騒がれ初めた。当時検事総長だった尹錫悦氏の式典に同伴して以降、「今さらながらに最高級の美貌」「年齢が信じられない童顔」などと報じられてきた。
- 尹錫悦候補と金健希氏
その後、2021年6月末の夫の大統領選出馬にあたり注目が集まり始めるや、"影のある美女”だという点が明らかになっていく。
08年「ミョンシン」から「ゴニ」に改名。ちなみにもともとの名前のうち、「ミョン」はやや古い響きもあるもの。
2010年~13年には韓国のBMW輸入代理店「ドイッチェモータース」の株式不正操作の疑いで検察から捜査を受けた。
「ジュリ」という名で接待型の遊興飲食店で働いていた説。これは何ら罪のあることではないが、本人はこの噂について2021年12月から否定する発言を繰り返している。
母(つまり大統領候補の義母)の逮捕。不動産所有などの書類偽造など3件による。2021年7月2日に一審で有罪判決を受けた。
尹錫悦候補との出会いのきっかけが諸説ある。
「ソウル大大学院時代(2010年3月~2012年2月)に親しかった土建会社社長による紹介説」
「本人による『あるお坊さんから紹介された』説」
「検事時代の尹錫悦氏のシングル生活を嘆く知り合いが開催した食事会で出会った説」など。
「経歴詐称」が発覚 謝罪会見が裏目に
そんな彼女への「疑いの目」が一気に爆発したのが、2021年12月だった。
「経歴詐称」の疑い。
同月15日に「YTN」が07年~08に水原女子大の非常勤教授として勤務した際に提出した「韓国ゲーム産業協会企画チーム理事」の履歴に誤りがあることを指摘。活動時期や領域が事実とは異なったのだ。
これと前後して、以下のような疑惑が噴出した。
- 疑いを報じる「JTBC」
「美術世界大賞典」入賞実績→虚偽
国民大学博士課程在籍時の政府系プロジェクト参加→その事実なし
ソウルの小学校での勤務歴なし
ソウルの中学校での教育実習を「勤務歴」と詐称
ハンリム大学での臨時講師の活動歴が系列の別大学だった
サムスン美術館企画参与→名簿に名前なし
ソウル市内の高校での美術教師→非常勤講師だった
Hカルチャーテクノロジー社企画部問理事→勤務時期を虚偽
韓国ゲーム産業協会企画チーム理事→勤務時期を虚偽
ソンミョン大、ダンクク大で講師→勤務時期を虚偽
ソウル国際アニメーションフェスティバル優秀賞受賞→名簿に名前なし
大韓民国アニメーション大賞→受賞作には参加していなかった
ソウル大学経営学科博士課程→ソウル大学の社会人大学院の経営学コース
アートから現代コンテンツまでを知り、教職経験もある経営者。そんな華麗なイメージがぶち壊されたのだ。疑惑を探られるなかで、「博士論文でのスペルミス」までも暴かれた。
12月17日には党側から「釈明は早ければ早いほどいい」と勧告が入った。大統領候補に近い人物に関するスキャンダルは選挙結果に悪影響を及ぼしかねない。「ウソをついてのし上がり、特権を得る」という構図は、韓国で今、最悪の地雷である「社会での公正性」を踏みかねないのだ。
これを受け、12月26日に党本部で記者会見を開催。しかしここでの”仕掛け”はやや失敗に終わった。
「対国民謝罪会見」として党の名前の下に行われた会見。そこで「少しでもよく見せようと偽った」と間違いを認め、侘びた。
しかし冒頭部分で「旦那との出会い」を「検事の要職にあったが、思った以上に優しくしてくれた」などと延々と話したのがマズかった。結果、「国民に謝っているのか、旦那に謝っているのか」と猛批判を浴びたのだ。
- 記者会見時の様子
記者との「ぶっちゃけトーク」が暴露される
その後、より過酷な出来事が起きた。そしてここからの出来事が「ファン激増」につながっていく。
彼女と電話取材を通じ親しくなった記者がこう宣言したのだ。
「これまでの彼女との通話録音内容7時間分を他媒体に提供し、公開する。ただし、プライベートな内容を除いて」
左派系(つまり”敵陣”)の「ソウルの声」という小さな媒体(YouTubeチャンネル)だった。昨年7月、入手した金健希氏の電話番号にコールし、取材を申し出た。金氏は「私が取材を受けたらダメだから」と断ったが、電話を切ることはしなかった。夫が検事時代に「ソウルの声」の報道に助けられた面があったからだ。
しかし「ソウルの声」の記者は、5ヶ月に及ぶ約20回、時間にして7時間45分の音声を「より公共性の高い地上波MBCに提供し、公開する」とした。”ぶっちゃけ発言”が多く、「尹錫悦陣営を決定的に叩ける」と踏んだのだ。
いわば「オフレコ部分」を出す点は、韓国法に触れる可能性があった。もちろんこの記者が5ヶ月にわたり、20回以上マメに電話をし、金健希氏と親しくなったのは「努力の結果」だ。しかし、雑談部分まで公開するのは騙しも同然。「会話を始める前に取材と断っていない」「公的な関心に応える」という理由から、勝負に出たのだった。
金健希氏側は放送差し止めのための法的処置に打って出た。しかし裁判所側は「金氏は公人。プライベートな部分や政治的に強すぎる発言を除き、放送できる」との判断。16日の放映が決まった。
- 「放送許可」を報じるJTBC
「朴槿恵をクビにしたのは身内」右も左もぶった斬り
16日のMBCでのオンエアに際し、「エグい内容が出てくるのではないか」「尹錫悦政権、終わる」と”期待”が集まった。
視聴率17%のなか、出てきた内容は――。
夫の大統領選出馬はまったく望んでいなかった。現文在寅政権が「玉ねぎ男」ことチョ・グクを法務大臣に起用して、検察の権力削減を図ろうとしたから起きた現象だと。文在寅への当てつけで人気を得た夫は、党側からあまりよくは思われていないというニュアンスも口にした。
さらにこの革新系の「ソウルの声」の記者を自らの陣営に誘う話もしていた。
- 「MBC」での放送内容。YouTube公開版でも164万回再生となっている
さらに、同じ女性が多く関わる韓国の「#Me Too」への批判へも話が及んだ。
まだまだ際どい発言は続いた。”身内批判”も。
16日の放送では裁判所の判決により、一部過激な内容や政治に深く言及する内容は削除された。しかし後日、「ソウルの声」などがYouTubeでカット部分も全て公開している。こんな発言もあった。
謝罪会見での小さくささやくような声から一転、堂々と自分の意見を主張したのだ。
これに対し”敵陣営”たる革新系野党側は、当然のごとくここぞとばかりに噛み付いた。
「大統領候補夫人の立場で介入しすぎ。朴槿恵政権時代の”予備軍”のような雰囲気を感じる」
前大統領の罷免の原因となった「専門家以外の身内の決定への介入」を匂わせ、叩いたのだ。保守系のやることは変わっていないのだと。相手の首根っこを掴む格好の材料だった。
これに対し、旦那たる尹錫悦氏も言い返した。「夫婦は一体。私が選挙運動現場に行けない時には、代わりに彼女が助けてくれることもあるのに」と。
「主張する姿がカッコいい」ファンクラブ会員激増
ここからが「まさか」の展開だ。
なんとこの「通話内容暴露」後、NAVER上にあるファンが作った「ファンカフェ」で人気が急上昇しているのだ。
6万人近くなった会員からはこんなメッセージが寄せられている。
「誇らしいし、愛してる」
「言葉に詰まる(対立候補の)令夫人とは格が違う」
「必ず政権交代を成し遂げましょう」
東亜日報系のニュース番組「Aチャンネル」は「尹錫悦候補の熱烈な支持者の動きでしょう」とし、こんな分析を続けた。
「彼女も記者たちを利用したのではないか。記者との電話取材の内容はある程度公表されうると読んでいたのではないか?」
「ソウルの声」ほか、「録音内容暴露」に関わった「オーマイニュース」などは革新系の媒体であり、いわば「敵」だ。その記者との電話にがっつりと応じ、雑談までする関係を作る。いわば「太陽政策」。なんでも書け、とばかりに昨年12月には「オーマイニュース」に対し「整形疑惑」に答える「お土産」まで渡している。
「目を整形したのよ。もともと二重だったんだけど不揃いで。大学時代に親戚の友人の病院で再建手術をした。『高校の卒業写真と違う』なんて言われてるけど、まああのときは眩しくて目をちょっとつぶってしまったというところね」
しっかり主張することが嫌がられるのではなく、逆に評価される。この点は日本の文化とは違いがある点か。
ファンサイトのイメージ写真には「全てが驚いたガールクラッシュ」とある。これは「しっかりと主張ができて、女性が憧れる存在の女性」といったニュアンスだ。もともと日本よりも自己主張が重んじられる社会ではあるが、ここ数年のトレンドでも「意見を言える女性がかっこいい」という風潮があるのだ。
選挙の大勢に影響、とまではいかないものの…
韓国では過去に、02年末の大統領選でネット上での「ファンクラブ運動」が大きな追い風となり、劣勢が予想された盧武鉉候補が当選した事例がある。
今回の金健希の「ファン激増現象」はこれよりも「遊び心」が大いに反映されている印象だ。ごく平たくいうと、「2ちゃんねるノリ」。
参考までに2012年、朴槿恵・文在寅の左右陣営が争い、歴史的な僅差勝負となった大統領選の得票数差は「108万票」だった(得票率差は3.6%)。
彼女の”ファン”層たる「6万人規模」は夫の尹錫悦候補への追い風としては「決定的」な数字までには至らないだろう。ただある点だけはより明確になった。
「選挙戦に影響を及ぼしうるキャラ確立」
これがプラスに作用し「美魔女に惑わされる」状況となるか、はたまたその存在が単なるリスクで終わるのか。
夫たる尹錫悦氏は選挙運動中に失言を繰り返し「やはり検事出身で政治経験がないのは厳しい」と候補交代も囁かれてきた。彼女は自分の「立ち位置」についても「録音データ」上でこうもぶっちゃけている。
「夫にただ飾りとしてついていくのは嫌。自分は国民に奉仕したいだけ」
「ファーストレディーになったら何をしたい、とは聞かれたくない。自分はただ実践あるのみ、と考える方だから」
強く言う、彼女のスタイルはどう作用するだろうか。
1月25日の時点で、3月9日の韓国大統領選投票日まで43日となっている。