可能性の大きさを感じさせるNexus10。しかし、表示品位は第四世代iPadに及ばず
米グーグルが発売した10インチタブレット「Nexus10」のファーストインプレッションをお届けしよう。Nexusという名称は、グーグルが携帯端末用基本ソフト「Android」の開発用標準ハードウェアに与えているもの。Nexus 10は10インチディスプレイを持つタブレット型端末であることを表している。
今回評価した16Gバイト版Nexus10も、399ドルと同容量のiPadに比べて100ドル安い設定となっている。日本でも3万6800円で販売される見込みだが、具体的な販売開始時期は決まっていない(11月中には開始できる予定と言われている)。
なお、発売が予告されていた他国では予定通り受付開始、即時出荷が始まっており、日本向けのみが延期された。詳しい事情は分かっていないが、早々に売り切れた北米版が週明けに在庫を回復していることなどを考えると、ソフトウェアあるいはサービスで出荷延期の要因となるトラブル(開発やサービス開始の遅れなど)でなければ、まもなく注文受付が始まるはずだ。
ハイエンドスペックながら低価格な開発用Androidタブレット
筆者の手元にあるNexus10は、北米版を日本に持ち込んだものだ。起動時に言語選択を行う設定となっており、そこで日本語を選択すると、表示、入力とも日本語対応となった。
基本スペックは、Nexus 10のWebページに記載されているとおりだが、Coretex A15デュアルコアを1.7GHzで動かす、サムスンExynosプロセッサ。Coretex A15 は、これまで主流だったCoretex A9に比べて約2倍の処理能力を持つとされるCPU設計。これに2Gバイトのメインメモリを搭載する。
500万画素カメラやGPS搭載など、モバイル通信機能が搭載されないことやSDカードスロットがないことを除けば、かなりのハイスペックだ。開発用に最新OSが搭載されておりAndroid 4.2がプリロードされている。メーカーによるユーザーインターフェイスのカスタマイズや、プリインストールされたタブレット用アプリケーションは入っていない。
タブレット画面に適したレイアウトのアプリケーションの充実度でiPadの後塵を拝しているAndroidタブレットだが、4.0以降のAndroidは標準アプリケーションの機能と操作性が向上しており、基本的な部分での不満はないはずだ。
もっとも、最新のAndoridが使えるというだけが、本機の価値ではない。なにより本機を印象づけているのが高解像度のディスプレイだ。2560×1600画素の高精細ディスプレイはサムスン製で、約300ppiという高い画素密度を持つ。これは、高精細で知られるアップルのiPad with Retina Displayよりも、さらに10%以上も画素密度が高い。
12インチクラスのパソコンで一般的だった1280×800画素、16:10のディスプレイパネルを4枚並べただけの画素が、10インチに凝縮されたと言えばわかりやすいだろうか(一部に表記されてるWQXGAとは、Wide Quadrable XGAの略)。画素が増加した分を、最新GPU Mali-T604を搭載することでカバーする。
高精細さはのアドバンテージは明らかだが、表示品位はiPadに及ばない
さて、この解像度を実際に第4世代iPadと比べてみたが、眼を近づけて凝視しなくとも、iPadとの解像度差はわかる。もちろん、どちらも”画素がハッキリ見えないぐらい”には高精細で、まるでアナログのように滑らかな表現ではあるが、それでもNexus10の方が印刷物に近い滑らかな表現だ。(ただし、並べて比較するからこそ解るのであって、決定的な差ではない)。
しかし、トータルの表示品質では第4世代iPadが上回る。カラーチャートを比較するまでもなく、パッと見ただけでも発色が浅いことに気付くはずだ。特に不得手な色があるわけではなく、赤、青、緑、RGBの全方位に対して色純度が低い。
明暗の表現も暗部とハイライト、両方がやや潰れ気味のトーンを描く。暗部の細かな表現は見通しが悪く、ハイライトは発色の淡さもあってハイキーな表示となった。Android 4.2では簡易フォトレタッチ機能が付加され、高精細なディスプレイと相まって期待も大きかったのだが、ディスプレイの質でアップルを追い抜くには至っていない。
画面表示やChromeブラウザで指定されているフォントも、いつものものと変わりなく、せっかく高精細なディスプレイが与えられているのに、その魅力を十分引き出せていない。電子書籍リーダなどで高品位なフォントを使っているものを動かすと、その実力は十分に感じられるだけに残念だ。もっとも、このあたりは日本市場向けにメーカーが”カスタマイズする余地”、と言えるかもしれない。
一方でバッテリ駆動時間は、発色の淡さがプラスに働いている可能性がある。300ppiの高精細ディスプレイ搭載しながらiPadよりも72グラム軽いボディ、ほぼ同等の10時間バッテリ駆動というスペックを実現できたのは、iPadが採用するディスプレイよりも低消費電力だからと推察される。液晶の生産プロセスが進み、開口率も向上してきていると考えられるが、カラーフィルターの透過率を上げる(色純度は下がる)ことでも消費電力を下げることは可能だ。
このあたりは、採用するディスプレイ次第なので、Androidタブレットメーカーの今後に期待したい。一方、グーグルは高精細ディスプレイの可能性を活かすためにも、Google Play Bookのビューアに手持ちのPDFやePubをアップロードする手段を提供したり、標準搭載フォントの質を上げるなど、今後当たり前になっていくだろう高精細ディスプレイを活すアップデートを期待したい。
まだシステムのチューニングは道半ばか?
なお、ベンチマークもいくつか実施してみたが、まだチューニングが不足しているのだろうか。3Dグラフィックスのパフォーマンスは高く、画素数の多さにもかかわらず、多くの3Dグラフィックテストは毎秒60フレームの上限を叩く。プロセッサのパフォーマンスも、ザックリ言ってCoretex A9デュアルコアの2倍ぐらいはあるようだ。
しかし、Sun SpiderやフューチャーマークのPEACEKEEPERでは、第4世代iPadの約2/3程度のスコアしか出せなかった。もちろん、実際に使っている中で、これほど遅く感じることはないのだが、何かしらのボトルネックがあって、性能が十分に出ていない状況なのだろう。特定のスクリプト処理などで、十分なパフォーマンス検証がなされていない可能性がある。次のアップデートで改善する可能性もあるので、ここでは確たる評価を見送りたい。
出来たてほやほやのAndroid 4.2上で動作しているだけに、まだ評価が難しいNexus10だが、しかし、筆者は意外にポジティブな印象を受けている。日本での利用となると、Google Playを取り巻くコンテンツ供給の充実度が低く、まだまだこれからという印象だが、北米のように音楽、映像、書籍、雑誌、写真などメディアサービスが充実してくれば、Androidタブレットへの見方も変わってくるだろう。
またネットワークサービスと端末、トータルの組み合わせでユーザー体験を作り上げているスマートデバイスの場合、Googleの方が明らかに優れたサービスを提供している部分もある。言うまでもなく地図はそのひとつ。WiFiタブレットながらGPSを搭載している点も使いやすい。さらに、メールの検索性やテキスト入力モジュールの拡張性もここに加えることができるだろう。
実用系のサービスからエンターテイメント、そして個人情報管理、SNSなどに至るまでグーグルのサービスで統合できてくれば、Google Playが活性化するだけでなく、Google Nowなどのコンセプトも活きてくるだろう。”タブレットの分野でiPadの背中が見える”ところに至るには、まだいくつもの進歩が必要だと思う。しかし、それは意外に遠い日のことではないのかもしれない。