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「煽り運転」にドラレコで仕返し 過熱するネットリンチに警鐘

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

悪質な「煽り運転」に取締りを強化

今、社会問題になっている「煽り運転」。連日のようにニュースでも取り上げられ、人々の関心の高さを物語っている。先日も大型バイクに乗る若者がクルマから執拗な煽り運転を受けた末に追突され、帰らぬ人となった。

煽り運転はクルマやバイクを使った路上での暴力であり、ともすれば人の命を強引に奪う殺人行為になり得る。これは道徳的にはもちろんのこと、法治国家の中ではどう考えても容認できるものではない。

近年の悪質な「煽り運転」の表面化を受けて、警察庁も今年1月に新たな対策を打ち出してきた。悪質で危険な運転に対する取締りの強化に加え、これに起因した暴行や傷害、脅迫などが伴う場合は、免許停止などの適切な行政処分を積極的に行うこととしている。これを受けて6月には全国で「煽り運転」の一斉取締りが行われ、1,000台以上が検挙されるという事態にもなっている。

仕返しに個人情報をネットで拡散

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こうした状況の中、最近新たな動きが出てきている。「煽り運転」への仕返しだ。ネット上を探っていると、自分のクルマやバイクに取り付けたドライブレコーダーに記録された「煽り運転」の証拠映像を、YouTubeなどの動画共有サイトへ投稿している例が急速に増えている気がする。また、煽られたとする映像をSNSなどへ投稿する例も目立ってきた。

ドライブレコーダーの映像は事故の際に動かぬ証拠となり、また「煽り運転」の抑止効果も期待できるものとして急速に普及している。ただ、中には相手の車両ナンバーが鮮明に分かるような映像もあり、個人情報の露出やプライバシーの侵害と取れるものも多く含まれている。

「煽り運転」はそれを行った当事者が悪いのはもちろんだし、断じて許しがたい行為であることは前述のとおりだ。ただ、その怒りにまかせて個人を特定できる情報を公にさらすことで、社会的制裁を煽ろうとするのはいかがなものか。動画をアップした本人は「煽り運転による被害を減らすため」と正義感に燃えてやっていることかもしれない。ただ、中には怒りのはけ口としての復讐にしか見えないものや面白半分の投稿、動画の再生件数を増やすための手段と見受けられるものもある。

ネットリンチにエスカレートする危険

法の手続きを踏まずに自分の判断基準で相手を懲らしめるという自警団的な発想は、知らぬ間にエスカレートしていきがちだ。そのうちに「煽るヤツが悪いのだから天罰が下って当然だ」という危険な思想とともに私刑(リンチ)へと発展していく可能性もある。昨今の動画投稿を見ていると、そんな不気味さを感じてしまうのだ。

仕返しという言葉は好きではない。それは憎しみの連鎖につながるからだ。ただ、本当に危険で許しがたい「煽り運転」の被害に遭ったのであれば、ドライブレコーダーの映像を証拠として被害届とともに警察に提出して、厳正に調査してもらうことだ。怒りに任せて煽り返したり、ネットリンチに持ち込むことは、同類になり下がるのと同じでは。

余談だが、私の海外の友人が言うには、日本人の美徳は「大目に見る」という精神的な文化だそうだ。互いに譲り合う心、カチンときても大目に見てやる余裕が欲しい。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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