GAFAの内2社は習近平のお膝元
GAFAが個人情報を抜き取っているなどの理由から若者離れが加速しているという。その内FacebookとAppleのCEOは習近平のお膝元にいる。スノーデン事件の直後からだ。
◆GAFAの若者離れ
GAFA(ガーファ)とはG(Google)、A(Apple)、F(Facebook)、A(Amazon)の頭文字を取ったもので、それぞれ検索エンジン、デジタルディバイス、SNSおよびネットショップと、市場を席巻しているアメリカのIT企業だ。しかし、たとえば今年3月にFacebookの個人情報が再び大量に流出した事件などを受けて、若いユーザーを中心としてGAFA離れが広がっているという。ユーザーの個人情報がいかなる目的で悪用されるか分からないからだ。
特にFacebookはGAFMA(Google、Amazon、Facebook、Microsoft、Apple)(ガフマ)にも、FANG(Facebook、Amazon、Netflix、Google)(ファング)にも、さらにはFAAA(Facebook、Alibaba、Amazon、Alphabet)にも、どこにでも顔を出しているヒット企業。
そのFacebookが大量の個人情報を流出させたとなれば、アメリカだけでなく、世界のGAFAに対する信用度はいきなり落ちていくだろう。
もちろんGAFAなどの大企業がアメリカのIT界を牛耳っていて、若い新しいベンチャー企業の誕生を阻害しているというさまざまな要因もアメリカにはあるだろうが、筆者が興味を持つのは、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOもAppleのティム・クックCEOも、習近平の母校である清華大学経済管理学院顧問委員会の委員であるという事実である。
◆スノーデン事件直後における習近平の素早い動き
それも2013年6月に起きたスノーデン事件直後のことだ。米中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏が「米国家安全保障局(NSA)が米電話会社の通話記録を毎日数百万件収集していた」ことが明らかになった。それは電話だけでなく、メールやチャット、ビデオ、保存データなど、すべての個人情報に及ぶという。
最初に報じたのは英紙ガーディアンとワシントンポストで、それによれば米大手IT企業がNSAによる個人情報収集に協力しており、日本を含む世界38の大使館や代表部、ドイツのメルケル首相、欧州連合や国連本部が盗聴・監視対象だった疑惑も浮上した。日本の政治家らも例外ではない。
協力した企業は上記にあるGAFAであり、GAFMAであり、Yahoo、AOLなども含まれている。それを可能ならしめたのは「PRISM(プリズム)」というNSAが2007年から運営する、極秘の通信監視(=盗聴)プログラムだ。プリズムを開発したのは「反テロ対策だ」とアメリカ政府はその存在を認め合法だと弁明した。つまり、スノーデンが言っていたことは事実だということになる。
スノーデンはアメリカに逮捕されたり、あるいは「消されてしまう」ことを恐れて、密かに香港へ飛び、そこでNSAの個人監視プログラムを暴露している。
すると、習近平国家主席はなんと、その年の10月にはAppleのクックCEOを、そして翌2014年10月にはFacebookのCEOザッカーバーグを、習近平の母校である清華大学経済管理学院にある数十名に及ぶ米大財閥を含む顧問委員会のメンバーに入れたではないか。中国も準備態勢を整えなければという声が聞こえるようだ。動きが早い。
2014年10月、清華大学における顧問委員会のレセプションでは、ザッカーバーグとクックおよびAlibabaのCEO馬雲が初めて一堂に集まったと、清華大学のホームページが報じた。3人の楽しげな写真が複数あるので、ご覧いただきたい。
この3人は、ビッグデータを扱うという共通項を持っているだけでなく、GAFAやFAAAなどのトップ企業であり、それはまた「莫大な個人情報」を持っていることを意味する。
Facebookユーザー8700万人分の個人情報がイギリスの選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ(CA)」に流出したのは、もちろんその後のことだ。CAから費用提供を受けたロシア系アメリカ人教授が独自開発したアプリが使用されたらしい。それがドナルド・トランプ氏が大統領に当選するときの選挙に使われていた可能性も否定できないと言われている。
◆2017年10月の顧問委員会における習近平とザッカーバーグ
2017年10月30日、習近平は人民大会堂で清華大学経済管理学院顧問委員会の委員たちと会談した。そのときの動画を新華網で観ることができる。2分過ぎと4分過ぎあたりの個所で、ザッカ‐バーグが出てくるので、興味のある方はご覧いただきたい。彼らの関係を目で確認することができる又とない動画だ。
中国語で読み上げているメンバーの名前は、拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』のp.177から179に、一覧表としてまとめてあるので、これも興味のある方はご覧いただきたい。p.175にはザッカーバーグのことに少しだけ触れた。
◆情報を抜いているのは誰か
今年12月18日、人民大会堂で改革開放40周年記念祝賀大会が開催され、習近平は1時間以上に及ぶ演説をした。この分析に関しては追って考察するつもりではいるが、とりあえず注目したいのは同大会で、改革開放に貢献したとして表彰された100人の中にAlibabaの馬雲やBaidu(百度)の李彦宏、あるいはテンセントの馬化騰やレノボの柳傳志・・・などの姿はあったが、Huaweiの創業者である任正非の姿がなかったことだ。任正非は招待されなかったのである。
いま習近平が国家運命の全てを注ぎ、それ故に米中対立の根幹になっている「中国製造2025」が目指す中国製半導体において、その最先端を行っているのはHuaweiの頭脳であるハイシリコン社だ。ハイシリコン製半導体がなければアメリカに勝てない。売れ行きにおいてもHuaweiが中国国内で断トツのトップを走っている。
だからこそトランプ大統領はHuaweiを攻撃している。その根拠としてHuaweiが情報を抜き取って中国政府に提供しているということだが、証拠は示されていない。証拠があるなら、プリズムのように証拠は出せる。おまけに証拠を出せば中国は完敗する。だというのに日本でも「噂」だけを頼りにトランプの攻撃を正当化して、Huaweiは中国政府と癒着して情報を抜き取り中国政府に提供しているという「噂」を流しているが、もし中国政府との関係が深いのなら、なぜこういうときにHuaweiのCEO任正非を表彰しないのか。もし噂が本当なら、彼こそは中国政府にとって最大の功労者ではないか。
そしてトランプはなぜ、中国政府そのものである国有企業ZTEやユニグループ(清華紫光集団)を攻撃しないのか?国有企業は中国政府そのものなので、癒着とか関係が深いどころではなく、情報を抜き取ればストレートに中国政府の手に渡る。そこを攻撃しないで、民間企業で中国政府と一定の距離を持っているHuaweiを攻撃するのは、その頭脳であるハイシリコンが怖いからだ。中国で唯一、アメリカ半導体の最高峰クァルコムと対等に競争できるのはハイシリコンだけだからである。日本の半導体もハイシリコンのレベルには及ばない。
12月24日のコラム「日本の半導体はなぜ沈んでしまったのか?」にも書いたように、1980年代、日本の半導体がアメリカ製を凌駕したために、アメリカ政府は日本の半導体を「アメリカのハイテク産業あるいは防衛産業の基礎を脅かすという安全保障上の問題がある」として攻撃し、高関税をかけ様々な制裁を設けて、立ち直れないまでに叩きつぶしてしまった。
今はHuaweiを同様の理由で攻撃しているが、それはHuaweiの売り上げがAppleを超えただけでなく、ハイシリコンの半導体技術がクァルコムと同様に高いからである。
次に叩くのは、おそらく韓国のサムスン電子だろう。だから「米韓同盟が長く続くとは思うなよ」という趣旨のことをアメリカは言い始めている。
アメリカが世界一を保つための、この常套手段は変わらないだろうが、問題なのは、このような民間企業であるHuaweiを攻撃のターゲットにしている間に、中国がもっと上のレベルの、そしてスケールの大きな情報の抜き取りを「しめしめ」とばかりにやれる環境を、日米が力を合わせて作ってあげていることだ。日本の「日の丸半導体」を沈没させた背景に対する反省もなく、「そうだ、そうだ」と、レベルの低いところで叫んで、実は中国を喜ばせていることに、日本はやはり気が付かない。
習近平は、民間企業Huaweiが国有企業ZTEと怨念の30年戦争を続けていることによって、実は窮地に追い込まれていた。しかし日米による「噂」に基づくHuawei攻撃は、ある意味、習近平に救いの手を差し伸べているのである。そんなところに世間の目が集中していれば、本当のサイバー攻撃をしている部署や巨大な情報抜き取りに特化している部署は、国際社会の目から覆われて見えなくて済む。日米は習近平に、ありがたい「煙幕」を提供しているのである。
GAFAの内の2社が、習近平に抱え込まれている事実に、日本人は気づくべきだろう。
いかなる恐るべき事態が動いているかに関しては『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』に詳述した。