小学6年生発明の特許を解説する
「小6が異例の特許 手伝い中に考案"洗濯バサミ収納具"」というニュースがありました。その内容を簡単に見てみましょう。ところで、記事中には「市によると、小学生の取得はとても珍しいという。」と書かれていますが、今年の7月には、小学校5年生が「ペットボトル分別装置」の特許を取得しています(参照記事)(こちらも時間があったら内容を解説します)。
さて、今回の特許は、6614690号です。発明の名称は「洗濯バサミ収納具」です。出願日は今年(2019年)の3月29日ですが早期審査を請求することで迅速(11月15日)に特許登録できています。出願人が未成年なので、ご両親が法定代理人となり、当然ながら弁理士がその代理人となっています。
このアイデアは、2018年10月に行なわれた「平塚市児童生徒創意くふう展」での発表がベースになっています。過去においては、出願前に発明者本人が発表してしまうと(特定の学会等での発表でない限り)それにより新規性がなくなって特許取得ができなくなってしまったのですが、今では発明者自身の公表から1年以内であれば救済措置があり特許化可能です。すなわち、発表してみて評価が高ければそこで初めて特許出願を検討するというプロセスが可能になりました(ただし、海外での権利化を考えると発表前に出願できるならしておくべきなのは変わりありません)。
この発明の目的は、洗濯バサミを容易に収納でき、取り出しやすい収納具を提供することです。明細書では、この問題に対応した過去の特許文献が2件紹介され、その課題(収納手順が煩雑等)が指摘されています。このように過去の類似発明を調査して、その課題を抽出し、出願の発明でその課題を解決できるという構成にすることが特許化を狙う上ではきわめて重要です。
発明はとてもシンプルです。タイトル画像の図面で説明すると、箱状の本体(11)の内部に棒(3)が付いており、洗濯バサミの穴の部分がこの棒を通るように上から入れます。箱のサイズを適切に(大きすぎず小さすぎず)設計することで、洗濯バサミがくるくる回転することなく、開口部(6a)から取り出しやすい向きに落下します。洗濯バサミの向きを揃えるために補助的なガイド(13)を使ってもよいとされています。また、下図のようなバリエーションも記載されています。
特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりです。
上記で簡単に説明したことを、正確に、かつ、権利範囲ができるだけ広くなるように抽象化して、文章で再現するとこんな感じになるわけです。一般に物の構造に関する発明を正確、かつ、権利が広くなるようにクレーム作成するのは難しいですが、とても上手なクレームドラフティングだと思います。ベテランの弁理士先生と見受けられますが、明細書全体にていねいな記載ぶりで勉強になります。