交通事故の心理学:人はなぜミスを犯しルールを破り危険に近づくのか
■交通受刑者 反省と償いの日々
小さな判断ミスやルール違反が、大きな事故を生み、被害者加害者の人生を変えてしまいます。交通刑務所の受刑者のみなさんは、いわゆる犯罪者のイメージとは異なります。ごく普通の人生を歩み、車を運転していた人たちです。
■ヒューマンエラー
事故は様々な理由で起きますが、運転者の責任が問われるのは、運転者のミス(ヒューマンエラー)や、運転者のルール違反(不安全行動)です。
運転者のヒューマンエラーは、様々な形があります。
疲労、寝不足、焦り、飲酒などがあると、判断やとっさの行動が鈍ります。不注意や考え事、携帯電話の操作などをしていると、歩行者や信号を見逃すなどのミスを犯します。
運転が不慣れなために、ブレーキとアクセルの踏みまちがいなどの事故が起きることもあります。
一方、自信過剰な運転、乱暴な運転による事故もあります。野球部の後輩に良いところを見せよとして無茶な運転を行い、後輩の両足切断という事故もありました(交通事故の心理学:事故を起こしやすい人とは?:高校球児の事故報道を受けて)。運動神経が良い、運転が上手だと思っている人が、事故を起こすこともしばしばです。
■ルール違反、不安全行動
大きなスピード違反、飲酒運転、一時停止違反など、ルール違反、不安全行動が日常的に行われることもあります。エラーや、ミスは、意図しないことが起きてしまったわけですが、ルール違反、不安全行動は、意図的な行動です。
安全が脅かされるにもかかわらず、意図的なルール違反が行われるのは、次のような理由が考えられます。
- ルールに同意できない、意味がないと感じる。
- ルールを守るデメリットが大きい。ルール違反の結果得られるメリットが大きい。
- みんなが平気でルール違反をしている。
- 違反しても罰を受けないか罰が小さい。
- ルール違反が習慣化している。
- ルール違反をしても危険は少ないと感じている。
たしかに、ルール違反をすれば必ず事故が起きるわけではありません。しかし、日常的なルール違反は、事故の可能性を高めます。
交通心理学者の長塚康弘先生の研究よれば、
「一時停止をきちんとして、しっかり左右の安全確認を行う」
これだけで、事故が減っています。
■わざと危険をおかす心理
急いでいる、いいところを見せたい、スリルを味わいたい、そんな気持ちで、私達はあえて危険な運転をしてしまうこともあります。
車道を渡ろうとしている歩行者、右折しようとしている対向車。これらの存在をきちんと認知して、判断する必要があります。ところが、急いでいたり、かっこいいところを見せようとしたりする気持ちがあると、歩行者や右折車が発見できないことがあります。
発見できても、危険性を過小評価することもあります。スピードを落とさず、自分が先に行っても、上手く行ってしまいそうな気がしてしまうのです。
危険の発見、危険の評価、意志決定(スピードを落とすなど)がゆがんでしまうのです。
乱暴な運転をする人でも、わざと事故を起こす人はいません。ぎりぎりだけれども上手く行く、安全だと判断してしまうのです。
■車の進歩とドライバーの心理
自動車はどんどん進歩しています。ハイテク技術によって、スリップせず、スピンせず、曲がる、止まることが容易にできるようになりました。本来なら、安全性が増すはずです。
以前と同じように運転し、自動車の安全装置が進歩すれば、以前よりも安全になるはずです。ところが、人は便利な道具に頼ってしまいます。車が進歩した分、安全ではない運転をしがちなのが、一般のドライバーです。
それでは、車が進歩した意味がなくなってしまうのですが。
■交通安全のために
テレビゲームの自動車のゲームは、スピードを競ったり、障害物を巧みなハンドルさばきでよけるようなゲームです。これは、盛り上がります。面白いものです。でも、もちろん現実的ではありません。サーキットではなく、一般道路で、そんな運転はしません。
安全運転は、地味でおもしろみの少ないものかもしれません。しかしもっとも大切なことです。
交通安全のために、安全教育が必要です。子どものころからの歩行者としての安全教育、自転車の安全教育が、将来の安全運転につながります。大人の私達は、自分の心と体を見張る必要があります。
大切なのは、みんなで「安全文化」を作っていくことです。
そして、家族も、企業も、ドライバーの安全運転を支援していくことが、交通安全につながるでしょう。私達は、重さ1トンの鉄の塊を時速100キロで動かしています。
交通刑務所にいる人々の心からの後悔と交通事故犠牲者の尊い犠牲を、無駄にしたくないと思います。
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(交通事故の心理学:事故を起こしやすい人とは?:高校球児の事故報道を受けて):Yahoo!心理学でお散歩
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