【韓国サッカー】協会会長と代表監督が国会に「呼び出し」の壮絶 そもそもFIFAの規定違反では?
あさって10月2日、韓国政府文化体育観光部(省)による、大韓サッカー協会に対する国政監査の中間結果が発表になるという。
今年7月8日に就任したホン・ミョンボ監督の選考課程が正しかったのか。これを筆頭に、韓国国会によるいくつかの調査の結果が発表になる。
これに先立ち「前哨戦」として9月24日に韓国国会で行われた「2024年大韓サッカー協会などに対する懸案質疑」はなかなか壮絶な場面が繰り返された。
なにせ、かのホン・ミョンボ(現A代表監督)ら5人が証人として質疑応答に応じたのだ。
ホン・ミョンボ(大韓民国サッカーA代表チーム監督)
チョン・モンギュ(大韓サッカー協会会長)
イ・イムセン(大韓サッカー協会技術総括理事)
チョン・ヘソン(前大韓サッカー協会戦力強化委員会委員長)
パク・チュホ(前大韓サッカー協会戦力強化委員会委員)
午前の部、午後の部に分けて、国会内の委員会会場で与野党の議員からの質問が飛ぶ。時に怒号が飛び交うこともあった。
なぜ韓国では、国会がサッカー協会要職在位者を呼びつけるという事態になったのか。
ホン・ミョンボ監督の選定過程が「最大の問題」
7月15日に韓国政府文化体育観光部(省)の関係者がメディアを前にしてこんなコメントを残した。
「サッカー協会の自律性を尊重し、メディアに記事が出ても見守ってきたが、もう限界に達したと思う」
「監督任命過程に問題点がないか調べる」
政府レベルの調査を行う、という宣言だった。
大韓サッカー協会が「目をつけられる」要素なら、いくらでもあった。
・ユルゲン・クリンスマン監督の任命と解任事態(5か月間代表監督を決められず)
・40年ぶりのオリンピック本選進出失敗
・アーチェリーのオリンピック全種目制覇とサッカー協会の無能な行動の対比
・ホン・ミョンボ監督任命事件
・チョン・モンギュ会長の協会会長職再任への挑戦
・チョン・モンギュ会長の自叙伝出版について
・サッカー協会労組の反発声明
これらに対する厳しい指摘が、前述の9月24日の「懸案質疑」で行われた。最大の「懸案」は、今年7月に就任したホン・ミョンボのA代表監督選定だった。
今年2月にアジアカップでベスト4に終わったユルゲン・クリンスマン前監督を解任した。その後、実に5ヶ月間監督を決められない状況にあって、10度もの戦力強化委員会が行われた。外国人を候補としてきたが、条件が合わず。最終的にはデイビット・ワグナー(2023-24シーズンはノーリッジ監督)、グスタポ・ポジェ(元ギリシャ代表監督)と当時、Kリーグで先頭を走る蔚山HDの監督だったホン・ミョンボが候補に。
他の候補のうち、ワグナーはパワーポイント50枚分のシートを送ってくるなど就任に強い意欲を見せたが…11回めの強化委員会の会議を経て決まったのは「ホン・ミョンボ」だった。それも本来は面接→議決→就任という流れであるべきところ、協会技術総括理事のイ・イムセンがホン・ミョンボに対して「先に就任オファー」という本来の手続きを無視したやり方で仕事を進行した。
イ・イムセンは本来代表監督選任の責任者だった、チョン・ヘソン強化委員長が5月に辞任した後、権限が曖昧な形で代表監督人事の仕事を担っていた。監督選定が長引く焦りが招いた行動だとも見られている。
しかしこの流れは、強化委員ですら知るところではなかった。7月8日、強化委員の一人だったパク・チュホ(かつて磐田、鹿島などでプレー)がYouTubeで「全く知らなかった。おかしいこと」と異議を唱えるや、事態が明らかになった。
この過程が、韓国の社団法人としての公益性を損ないうる行為、と見なされているのだ。
大韓サッカー協会と政府の「強い関係」
では、なぜ韓国政府や国会にそこまで強く出る権限があるのか。
大韓サッカー協会は、韓国政府文化体育観光部の所管組織の社団法人であり、政府の公職有関団体でもあるからだ。
前者には2005年10月18日に転換。その前年に2002年W杯関連の財政処理で政府に「目をつけられた」。監査が入ったこともあり、協会の方から異例のスピードで政府とより結びつきの強い「所管組織」という道を選んだ。
また後者の政府公職有関団体へは今年加盟した。「公職有関係」とは何なのか。同団体連盟の公式サイトにこう定義されている。
「国家ならびに地方自治体などから財政支援もしくは、責任者選定などの承認を受けるなど、公共性のある機関・団体を公職有関団体という」
現地メディア「韓国スポーツ経済」のサッカー担当記者、キム・ソンジン氏がこう説明する。
「300億ウォン(約30億円)程度の予算が政府から降りてきているから、と見ています。これは大韓サッカー協会の予算とすれば大きいものではありませんが、税金がかかっている以上、政府がより関与できるようにしたのです」
つまりは構造上、政府としては監査ができる状態にあるのだ。特に後者の影響は大きい。現地メディアSBSはこう伝えている。
「サッカー協会側に問題が起きた際に、政府文化体育観光部が取る適切な措置として監査などが挙げられています。特に協会が今年から政府関連機関に含まれるようになり、担当省が一般監査を推進できるようになったと伝えられています。実際、サッカー協会は関連機関の中でも「政府または地方自治体の出資・出捐・補助を受ける機関(公職有関団体)」として登録されています」
ちなみに日本サッカー協会は2012年4月1日に公益社団法人化して、政府とは一歩遠い存在になった。この日を「記念」して、当時の小倉純二会長が協会サイトにこんな一文を寄せている。
「これまでのように文部科学省という監督官庁がなくなるため、我々自らが組織を健全に統治していかなければなりません」
まったく逆だ。もちろん日本とて、政府との関わりがないわけではないが、一歩離れていく選択を取ったのだ。
「FIFAが禁じる政治介入では?」の声はもちろんあるが…
とはいえ、FIFAは定款で各国協会への政治の介入を禁じている。
FIFA定款第14条1項:「FIFAの会員である協会は独立的に運営されなければならない。第三者の介入を受けてはならない」
第15条 「政治的中立 あらゆる政治的介入から独立的でなければならない」
また、各協会の独立性を規定する第19条を別途設けている。
実際にこれまでにも厳しい処置が下されてきた。
2015年にクウェート政府が自国のスポーツ団体の行政に介入できるようスポーツ関連法律。するとFIFAはクウェートサッカー協会の資格を停止し、国際大会出場権を回収しました。結果、同国は2018ロシアワールドカップと2019アラブ首長国連邦アジアカップ予選の残りの試合を没収負けとされてしまった。
2023年3月には、イスラム教圏であるインドネシアで国際大会の開催権剥奪という出来事があった。開催予定だったU-20ワールドカップが、イスラエル代表チームの入国問題で政治・宗教的な軋轢を引き起こしたためだ。
当然のごとく、大韓サッカー協会側は7月15日以降の政府側の動きに反発した。
「代表チームの監督任命まで管轄の省が関与するのは望ましくないというのが大韓サッカー協会の見方。行政的裁量まで政府機関に委任したわけではないと主張している。協会の高位関係者は16日、『会長や役員の資格を審査することはできても、スポーツや技術的な部分を(政府機関が)勝手にやれない。そんな国は世界中にない』と反論した」(SBS)
しかし、韓国の世論はサッカー協会を支持する雰囲気にはない。むしろ真逆で、「やれやれもっと」というところだ。
なぜか。チョン・モンギュ大韓サッカー協会会長がかなり強い批判に晒されているからだ。まるで「韓国サッカー界の斎藤知事」。HYUNDAIファミリーの御曹司は、3期10年に渡り協会会長職にある「独裁者」と見られている。今年9月のW杯予選ではサポーターに大ブーイングを浴びせられ、大韓サッカー協会の労組からは「満場一致の退任要求」を出されている。また政府の文化体育観光部(省)の担当者からは「例え4選となっても承認しない」とまで言い放たれる始末(もともと韓国のスポーツ協会会長は3選以上の場合、公正かどうか同省にチェックを受けるシステムがある)。
現地スポーツ紙のサッカー担当記者は「問題は挙げても挙げきれない」とぶった斬る。
「2023年に突然「過去の八百長事件の”犯人”を恩赦(2022年W杯ベスト16記念)」と宣言して総スカンを食らいました。ユルゲン・クリンスマン監督についても「自分の好みで選んだ」と疑惑をかけられ、結局解任にあたって100億ウォン(約10億円)とも言われる違約金での損失を出した。建設中のサッカーセンターに勝手に当時自らが会長を務めた企業の名前を入れようとした疑惑。パリ五輪最終予選を1ヶ月後に控えたファン・ソンホンU-23代表監督を監督不在のフル代表の臨時監督に据える「ミラクル采配」もあり、韓国男子サッカーは結局40年ぶりに五輪本選出場権を失うことになりました…」
政治介入か否か。現地メディアSBSとて「今後のFIFAの反応を見守る」と報じる。今はとにかく、この会長の糾弾を。そんな雰囲気にあるのだ。