今後のPS5は優位が危うい?本体の品不足や新サブスクの魅力のなさ
ソニーのPS5は、マイクロソフトのXbox Series X|Sに対してかなり有利に戦ってきました。少なくとも、これまでは。しかし、ここに来て雲行きが怪しくなり、すぐにとは言わないまでも、数年後に優位が危ういのでは?という状況が生じてきています。
1つは「PS5本体の供給不足が長引きそう」ということ。ソニーのゲームビジネスは、「遊ぶハードを選ばない」ストリーミングサービスのPS Nowがパッとしなかったこともあり(PS3/Vita対応がいつの間にか消えていたり、当初は月額2500円と高価だったり)基本的に「自社ゲームハード」ありきとなっています。ゲーム本体が売れなければ自社ゲームもサードパーティゲームも売れずライセンス料も入らない、昔ながらのゲームプラットフォーム屋さんですね。
PS5の人気は非常に高いものがあり、店頭に並んだ瞬間に蒸発する事態が続いています。それも2020年末から1年以上も。しかもユーザーからは「いまだに買えない」という苦情が絶えないありさま。
暗躍している転売屋のひどさはヤフオクやメルカリでの「定価は7万7000円なのか?」(標準モデルは約5万5000円(税込)です)という惨状を見れば明らかではありますが、吸収しきれないぐらい出荷していれば、いずれは解消したはず。やはり、ソニーの供給が足りないことが元凶でしょう。
それを自覚しているためか、ソニーは生産が順調であることを強調し、「半導体不足で減産の見通し」などの報道をすぐさま否定してきました。発売前の2020年9月から「チップ不足のため生産台数を400万台削減」と冷や水を掛けた(まだ転売屋は影も形もなかったですが)Bloombergに対して「生産台数を変更したことはない」と直ちに反応。その後もBloombergとソニーのやり取りは続きますが、途中はバッサリ省略します。
そんな粘り強いBloombergが報われる(PS5買いたいユーザーには悪夢ですが)時がやって来ます。2021年末に「PS5の生産目標を従来の1600万台から1500万台に引き下げた」と報じてから数ヶ月後、ソニーが半導体不足で年間のPS5販売台数予測を下方修正したのでした。2021年3月期に十時裕樹CFが予告していた「PS4の2年目を超えるような出荷」は実現しなかったのです。
発売から数カ月~1年のローンチ期間中にハードウェアを十分な数だけ用意できなかったメーカーは、セガのドリームキャストやセガサターン(主に米国)をはじめ、どれもその後は苦戦を強いられており、場合によってはそのまま失速していきました。ハード人気が高いからこそ転売屋が暗躍し、品不足が目立ち、「欲しいけど買えないならいいや」という負けパターンが見えてきた感があるのです。
もう1つは、ゲームサブスクリプション(定額サービス)のしょぼさです。半導体不足でゲームハードが思うように生産できないのはマイクロソフトのXboxもそう変わらないはずですが、あちらの陣営にはさほどヒドい品不足(ヒドくない程度では存在するにせよ)が聞こえてきません。おそらく、Xbox Game Passという優れたサブスクがあるからでしょう。
MSは2021年初めにZeniMax、つまり『Fall Out』や『The Elder Scrolls』『Doom』など人気シリーズで知られるベセスダ・ソフトワークスの親会社を買収。さらに約7.8兆円という超巨額でアクティビジョン・ブリザードを買収する計画を発表しています(米議会などで反対の動きもあるため、まだ未確定)。
ただ大金持ち企業が札束で大手パブリッシャーを傘下に収めただけなら、ゲームの販売元が変わったり、クレジットが少し付け足されるだけです。しかしXbox Game Passは「自社の保有しているゲームスタジオのゲームは、発売初日から提供」という反則級の切り札を持っています。しかもクラウドゲーミングサービスXbox Cloud Gamingにより、PCやスマートフォンやタブレット、古いXbox Oneでも遊べてしまう。Xbox Series X|S本体が品薄でも、サブスクで金が回収できるわけです。
そこで先日ソニーが発表したのが、PS Plusのリニューアルプランと見られています。その社内コード名は「スパルタカス(Spartacus)」(ローマ帝国に反乱を起こした奴隷の名前)と以前から噂されていたこと。3つのプランEssentialやExtra、Premiumの名前や月額料金の情報もほぼ正しかったので、そちらも真実と思われます。
その内容は、ざっくり言えば既存のPS PlusにPS Nowを統合したもの。そのうちExtraはPS4 / PS5ソフト数百本をダウンロード可能、Premiumはそれプラス初代PS・PS2・PS3およびPSPのゲーム最大240本をストリーミングとダウンロードで遊べると発表されています。
まだ発表されたばかりで、これ以上の詳細は明かされず。またリニューアルは6月に実施されるとあり、現時点では分からないことだらけです。が、「現状で分かっていること」から、あまり期待できないとの声が上がっています。
まずPS3がストリーミングのみ、ということ。これまでPS Nowでのダウンロード対応タイトルはPS4のみで、新たにダウンロード可能とされる初代PS、PS2およびPSPはPS5用のエミュレータが準備中と推測されます。
しかし、PS3はストリーミングだけ。インターネット接続が不安定なら、プレイも不安定にならざるを得ません。非公認のフリーウェアとしてPC用PS3エミュレータもあるというのに、なぜソニー自らが自社ハードを現代のハード上で再現できないのか?と不満が噴出しているわけです。
またPS Vitaもハブられていますが、ソニーはそちらには言及さえしていません。
さらに、Xbox Game Passの最大の強みである「巨額の予算がかかったAAAタイトルを、発売初日から遊べる」ことは、ソニー版サブスクでは限りなく望み薄です。かつてPS部門のトップであるジム・ライアン氏は、ファーストパーティのゲームは莫大な開発費が掛かっているため、(MSがXbox Game Passでやっているように)新作を定額ゲームサービスに含めることはできないと語っていたからです。
そうしたソニーとPS5をめぐる状況の不透明性もあり、信頼性の高いテレビゲーム市場調査会社DFC Intelligenceは、2026年のゲームソフトウェア市場ではMSが27%、ソニーが39%、任天堂が34%のシェアを占めるとの予想を発表しています。いまだソニーの優位はあるとはいえ、2021年よりもMSは7%のシェアを増やし、ソニーは4%を失うというわけです。
これらは「現状のデータ」を元にした憶測に過ぎず、単なる可能性の域を出ません。ソニーが急転直下PS5の生産台数を急激に増やして転売屋が吸収できないほどの供給を注ぎ込み、PS Plus Premiumで発売初日から「ゴッド・オブ・ウォー」最新作などが遊べれば、Xboxを地平の彼方におきざりにするかもしれません。ぜひ、そうなるよう祈りたいところです。