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Dorothy Little Happyが笑顔で乗り越えた白戸佳奈卒業ライヴ

宗像明将音楽評論家
Dorothy Little Happyの白戸佳奈(右)と高橋麻里(左)

白戸佳奈23歳の「人生で最後のライヴ」

 2017年7月23日、Dorothy Little Happy(ドロシーリトルハッピー)のワンマンライヴ「Dorothy Little Happy forever ~the last stage we’ll do~」が渋谷Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催された。それは、2010年の結成以来のオリジナル・メンバーである白戸佳奈の卒業ライヴだった。

 白戸佳奈いわく、まだ23歳にして「人生で最後のライヴ」。しかし、白戸佳奈と高橋麻里によるステージを見ていると、歌もダンスも完璧すぎて、なぜ今日、白戸佳奈が卒業するのかまったくわからなくなるほどのライヴだった。

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(写真:海老澤芳辰)

「まだドロシーは続きます」

 「ドロシーの世界一周夏物語」で「人間国宝 白戸佳奈!」とコールできたのは幸運だった。これをコールできるのもこの日が最後だ。そして、高橋麻里だけが歌う「見ていてエンジェル」での白戸佳奈のダンスは、「喜怒哀楽」の四文字ではおさまりきらない7年分の想いが込められているかのような、美しくせつないものだった。

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(写真:海老澤芳辰)

 後半は、「諦めないで」など盛りあがる楽曲を中心とした構成。特に「nerve」から一気に体感温度が上がった。Dorothy Little Happyの代表曲「デモサヨナラ」や「恋は走りだした」も、白戸佳奈の歌とともに聴くのはこれが最後だ。

 アンコール1曲目の「Dorothy Train」の間奏では、白戸佳奈は言葉が溢れだすかのようにこう語った。

「私はDorothy Little Happyを辞めてしまいますが、まだドロシーは続きます。皆さん、これからもDorothy Little Happyをよろしくお願いします!」

 アンコールの最後では「Over There」が歌われた。東日本大震災後に作られた楽曲だ。ダブルアンコールで「未来へ」が歌われた後もアンコールの声はおさまらず、再登場した白戸佳奈と高橋麻里がマイクを使わずに肉声で「ありがとうございました!」と挨拶をして「Dorothy Little Happy forever ~the last stage we’ll do~」は幕を閉じた。

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(写真:海老澤芳辰)

2015年の中野サンプラザを見事に上書きしたDorothy Little Happy

 私たちは過去について「あのときああだったならば」と常に頭に「if」を置いている。白戸佳奈もまた、「なぜこうなったのだろう」という想いを抱えつつも、その「if」を忘れようとしていたのだろう。そうした葛藤がこそが、この日の白戸佳奈の実存を形成していた。だからこそ、この日の表現者としての白戸佳奈の存在感は圧倒的だったのだ。白戸佳奈と高橋麻里によるDorothy Little Happyが最後に見せたのは、悲しみや苦しみを抱きつつも、しかし明るく美しいステージだった。

 結成当初5人だったDorothy Little Happyは2015年に2人になり、2017年にひとりになる。しかし、この日のライヴは悲愴さを一切感じさせないまま終わった。メンバー3人が卒業した2015年7月12日の中野サンプラザを見事に上書きしたライヴだったのだ。今後、高橋麻里ひとりとなるDorothy Little Happyも見守っていきたい。

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(写真:海老澤芳辰)

 最後にひとつだけ心配事がある。この日の白戸佳奈はあまりにも完璧で、ステージに一抹の未練も残さなかったかもしれないということだ。しかし、またいつか気が向いたら、もう一度彼女に歌ってほしい。白戸佳奈と高橋麻里は素晴らしい歌手だと改めて実感したのが「Dorothy Little Happy forever ~the last stage we’ll do~」だったのだから。

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(写真:海老澤芳辰)

セットリスト

(提供:よーすい)

1. バイカラーの恋心

2. Tell me tell me!!

3. Breaking through

MC

4. sky traveler

5. ドロシーの世界一周夏物語

6. 恋の花火

MC

7. 見ていてエンジェル

8. STARTING OVER

9. set yourself free

MC

10. keep on tryin'

11. 青い夕暮れ

休憩

12. Restart

13. 諦めないで

14. シークレット

MC

15. どこか連れていって

16. nerve

17. 2 the sky

18. デモサヨナラ

19. 恋は走りだした

MC

20. 14回目のありがとう

21. 明日は晴れるよ

MC

22. ストーリー

Enc.1

23. Dorothy Train

24. ジャンプ!

25. Over There

Enc.2

26. 未来へ

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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