電通や三菱電機だけ?蔓延する残業隠蔽は「犯罪行為」です!
電通に続き三菱電機も刑事手続きに!
昨年11月末、私が担当していた労災事件が大きく報じられました。
三菱電機で働いていた31歳男性が、入社1~2年目にかけて最長で月100時間を超える長時間労働を隠蔽して働かされ精神疾患を発症し、労災認定をされた事件です。
「三菱電機 31歳男性の労災認定 違法残業で適応障害に」(毎日新聞)
この件で、この男性に違法な残業をさせたとして、神奈川労働局は1月11日、三菱電機と当時の上司を労働基準法違反の疑いで書類送検しました。
三菱電機、違法残業疑い 厚労省が書類送検、上司も(共同通信)
昨年11月24日に労災認定されたケースについて、今年1月11日(約1ヶ月半後)に書類送検というのは、電通事件に続く迅速な書類送検といえます。
法人だけでなく上司が送検されている件、36協定の上限違反が容疑である点も重要です。
電通も三菱電機の件も、共通するのは、会社が社員に長時間労働をさせながら隠蔽していたこと(残業隠し)。
残業隠しは、立派な「犯罪行為」です。
「サービス残業」などと生ぬるい言葉で表現されると、労働者の善意で許される?かのように誤解されがちですが、全くの誤りです。
その気になれば、きちんと立件される立派な犯罪行為なのです。
結果として、電通や三菱電機のケースでは貴重な労働者の命や健康が害され、改めてこの問題がクローズアップされました。
ですが、まだまだ社会には違法残業が蔓延しているのが実態でしす。
何も、電通や三菱電機だけの問題ではないのです。
本件で三菱電機の対応は?
三菱電機の男性に対する対応は、(少なくとも現状では)最低だと言わざるを得ません。
男性が労災申請をした後、会社は労働者やユニオンの抗議を無視し、解雇を強行しました(労災認定前)。
労基法19条1項は、労災で休業中の労働者を解雇することを禁じていますから、会社の解雇は無効です。
使用者は、労働者が業務上負傷し・・・療養のために休業する期間・・・は、解雇してはならない。
ちなみに、三菱電機は、男性が労災認定されてから1ヶ月半以上経つ現在も、未だに男性に謝罪もしてなければ、正式な解雇撤回もしていません。
男性がユニオンを通じて解雇撤回を求めたところ、当初は会社から解雇撤回に向けて男性の現在の病状等や問いただす回答をし、地位回復を先延ばしにしています。
解雇撤回の方針はユニオンに伝えていますが、今でも男性は三菱電機社員の地位を回復できていません。
自ら労災を引き起こしてながら、解雇撤回を要求され1ヶ月半も手続きがなされないというのは、どうなんでしょう。
会社は、メディアに対してこんなコメントを出していますが、誤解させますね。
三菱電機が労働組合に「伝えた」という解雇撤回は、男性が平成27年11月10日以降も疾病が治癒していないことを前提とする条件付のものでした(ユニオンは、こんな解雇撤回の条件付けはおかしいと強く抗議しています)。
報道に寄せた三菱電機のコメントは、あたかも無条件に解雇を撤回しているかのような、社員の地位を回復させているかのような誤解を生むものです。私は不誠実だと思います。
繰り返しますが、今も男性は三菱電機社員の地位を回復していません(先ほど、ご本人に電話で確認したので確実)。
被災者であり大切な社員でもある男性に対して誠意を示すためにも、速やかに手続きをとるべきでしょう。
もっと驚いたのが、以下の三菱電機のコメント。
労災認定後、会社に対して、男性はユニオンを通じ解雇撤回や謝罪を求めています。
ですが、私の依頼者である男性は、未だに会社から一度も謝罪などされていません。
メディアに対して謝罪はしつつ、大切な社員である男性ご本人には直接謝罪の気持ちを伝えないのは、不誠実の極み。
本当に辛い思いをしているご本人(しかも将来を嘱望された大切な社員)の苦しみに、この事件を引き起こした意味に、本気で向き合っているのか、私は憤りを覚えます。
ご本人(とても穏やかな方です)も、会社のコメントをお伝えすると、本当に怒っていらっしゃいました。
まぁ、当然でしょう。
今すぐやるべき対策は?
電通や三菱電機などのような被害を生まないため、私たち社会は何をするべきでしょうか?
現在、政府が「働き方改革」として長時間労働是正に向けて取組を進めています。
労働側からも、この長時間労働是正に対しては、様々な意見がだされています。
有名な長時間是正策は、法律による労働時間の量的上限規制や勤務間インターバル規制。
これは、とても重要な対策です。
ですが、たとえ、労働時間の上限が法律で規制されたとしても、労働現場できちんと労働時間が管理されていなければ、意味がありません。
かえって、三菱電機や電通であったような、残業隠しが横行するのではないかとも危惧されています。
私が強調したい対策は、新たな労働時間記録義務制度の導入。これは、野党四党が提出した長時間労働規制法案に明記されていますので、ぜひ成立させて欲しいです。
労働時間記録が徹底されなければ、どんな厳しい労働時間規制も、脱法されてしまうでしょう。
他方で、政府が提出している労基法改正案(残業代ゼロ法案、定額働かせ放題法案)は、労働時間規制の大幅緩和。政府がアピールする長時間労働削減と真っ向から矛盾するのは明らかです。
詳しくは、この記事などをご覧下さい。
私が昨年の参議院選挙前に書いた記事ですが、与野党の実際に提出している法案の違いは良く分かります。
三菱電機の事件でも、男性は本来の労働時間を申告させてもらえず、長時間労働が隠蔽されていました。
男性の労働時間が判明したのは、幸いにも、施設入館時の警備記録が残っていたためです。
三菱電機も、団体交渉でユニオンから長時間労働について指摘されても、「自己啓発時間だ」などと主張して、労働時間だったとは認めませんでした。もちろん、労災手続きに一切協力もしません。
こういった経過も踏まえて、真摯に反省して欲しいものです。
三菱電機は変わるのか?
こんな三菱電機ですが、このコメントが真実であれば本当に素晴らしい。
実は、男性はユニオンを通じて、「全社員について、正確な労働時間記録・把握を徹底すること」を要求していました。
男性は自分のことだけでなく、二度とこの会社から、さらには社会から、自分と同じような辛い思いをする方がいないようにと、勇気を振り絞って記者会見に出席しました。
三菱電機が、メディアへのコメントにあるような誠意ある対応をすることを期待しています。
最後に
この男性の様な辛い状況にある方は、ぜひ弁護士(日本労働弁護団やブラック企業被害対策弁護団、過労死弁護団に所属する弁護士。労弁やブラ弁は無料電話相談もやっています。)や、労災問題にも取り組む労働組合などの専門家に、早めに相談をして欲しいと思います。
この男性は、こんなコメントを残しています。
法律改正や労使の努力によって、一刻も早く長時間労働で苦しむ方が一掃されますように。
そして、二度と男性のような辛い思いをする方がいなくなるように、日本の職場が変わっていくことを祈っていますし、私も微力を尽くします。