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テイラー・スウィフトがハリス氏支持。有名人が選挙戦に及ぼす影響力は?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
歌手のテイラー・スウィフトさん。11日MTVビデオ・ミュージック・アワードにて。(写真:REX/アフロ)

若者に絶大な人気を誇る歌手のテイラー・スウィフトが、カマラ・ハリス副大統領を次期大統領として支持するとSNSで表明した。

発表したのは10日、大統領選に向けたハリス氏とトランプ氏のテレビ討論会があった直後のこと。

テイラーはこの討論会について、「今こそこの国が抱える問題や重要なトピックについて、候補者がどのような立場をとっているか調べる絶好の機会」とファンに呼びかけた。また、AIによってあたかも自分がトランプ氏を支持しているかのような偽の情報がSNS上に出回ったことに危機感を持ち、自分の意思を表明することの重要性を感じたと説明。2024年の大統領選挙で自身は「カマラ・ハリス氏とティム・ウォルツ氏に投票する」とし、ファンに対しても自分で調べて選挙で声を上げるよう呼びかけた。

テイラー・スウィフト。ハリス氏支持の理由は?

彼女は、今大統領選でハリス氏支持の理由について以下のように説明し、猫を抱いた自身の写真と共に投稿した。

she fights for the rights and causes[…]
(ハリス氏は権利大義のために戦っている[…])

she is a steady-handed, gifted leader and I believe we can accomplish so much more in this country if we are led by calm and not chaos.
(ハリス氏は安定感と才能のあるリーダーであり、混沌ではなく冷静さによって私たちが導かれるなら、この国ではもっと多くのことを成し遂げられると信じている)

I was so heartened and impressed by her selection of running mate @timwalz, who has been standing up for LGBTQ+ rights, IVF, and a woman’s right to her own body for decades.
(副大統領候補に、LGBTQ+ の権利、体外受精女性の体に対する権利について長年にわたって声を上げてきたウォルツ氏を選んだハリス氏の選択に私は勇気づけられ感銘を受けた)

Taylor Swift, Childless Cat Lady(子なしのキャットレディ、テイラー・スウィフトより)(編注:子どものいない猫好き女性を侮辱したともとらえられるJ・D・ヴァンス氏の2021年の発言を揶揄したもの)

@taylorswiftより抜粋)

10日のテレビ討論会は、筆者も生放送で観ていた。笑顔で登場したハリス氏は始めこそ緊張している様子だったが、特訓の成果が出たのか次第に自分のペースを掴み、所々で女性候補者としての立場を武器に、討論会の経験豊富なトランプ氏を相手に互角に闘っている印象を受けた。

例えば、テイラーも述べている「女性の体に対する権利」、つまりは中絶する権利や体外受精を受ける権利について、ハリス氏は自身の立場を表明する際、トランプ氏に対して時に「女性への侮辱だ」と語気を強め、優位に立った。イントネーションに抑揚をつけながらエモーショナルに訴えかけたのは印象的なシーンの一つだった。この場面で多くの女性有権者が心を動かされたことだろう。

(補足:トランプ氏は「自分は体外受精に関する政策をリードしてきた」と反論。また中絶禁止の立場も妊娠7〜9ヵ月についてであると反論している)

討論会後半でもハリス氏は手を緩めることなく、トランプ氏について、国家安全保障や選挙介入などの罪に加え「性的暴行の罪でも有罪評決を受けた人物」だと改めて強調した。これを女性候補者が言うのと男性候補者が言うのとでは、有権者に与える印象はまったく違う。トランプ氏は痛いところを突かれる形となった。

10日、大統領選に向けたテレビ討論会を映し出すスクリーン。
10日、大統領選に向けたテレビ討論会を映し出すスクリーン。写真:ロイター/アフロ

選挙において、セレブはどのくらいの影響力を持つのか

アメリカではセレブ、スポーツ選手、アーティストなど著名人が政治に関することを公の場で発言したり、自分の支持政党や候補者を表明することはよくある。

今夏行われた大統領選の党大会でも、両党共に数々の著名人が会場に現れ、それぞれの候補者の支持を表明した。

共和党大会ではハルク・ホーガン、リー・グリーンウッドなどに加え、ニッキー・ヘイリー氏やマイク・ポンペオ氏などの姿があった。

民主党大会ではオプラ・ウィンフリー、スティービー・ワンダーほか、オバマ元大統領夫妻やクリントン元大統領夫妻ら“超”がつくほどの有名人が顔を揃えた。

8月にシカゴで開催された民主党大会でパフォーマンスするスティービー・ワンダーさん。
8月にシカゴで開催された民主党大会でパフォーマンスするスティービー・ワンダーさん。写真:ロイター/アフロ

テイラー・スウィフトのようにインスタグラムのフォロワー数が2億8400万もいるような(しかも若い有権者に絶大なる人気の)セレブが、ハリス氏支持を表明したことが、大統領選にどのくらい影響があるだろうか。

政治におけるセレブの影響力については、さまざまなメディアが独自の見方を発表している。

テイラーがSNSで共有した有権者登録リンクについて、12日付のCBSニュースは、投稿前の1週間で1日平均約3万件のアクセスだったのが、彼女のハリス氏支持を表明してから24時間以内に40万5999人(12日現在)がアクセスしたと報じた。

ABCニュースはテイラーの支持が選挙にどのような影響を与えるかは「まだ分からない」としながら、前述のように彼女のメッセージがすでに大きな影響力になっていることから、「テイラーと同じような世界観を持っている人は『そうだ、私も同じように投票すべきかも』と思うかもしれない」と述べた。

テイラーのファン層の多くは若者、主にミレニアル世代とZ世代と言われている。この世代は上の世代に比べて投票率が常に低く、投票したことがない人も中にはいる。そのような人々が政治に関心を持ったり、投票所に足を運ぶモチベーションになったりするかもしれない。

テイラーファンのもう一つの大きな層は、選挙に重大な影響を及ぼすであろう「白人女性層」と言われている。ABCニュースによると「白人女性の有権者の半数以上が2016年と2020年、共に共和党に投票した」というから、テイラーの支持表明はトランプ氏にとって大きな脅威となっているだろう。

大統領選まであと2ヵ月を切った。しかしまだ2ヵ月もあり、これからオクトーバーサプライズ含めどんなサプライズが起こるかわからない。テイラーの大統領選に及ぼす影響力も含め、目が離せない2ヵ月になりそうだ。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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