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極右のカリスマに心酔するドイツの高校生 旧東独州議会選で「ドイツのための選択肢」首位うかがう

木村正人在英国際ジャーナリスト
ドイツの極右のカリスマ、ビョルン・ヘッケ氏(筆者撮影)

「われわれは歴史をつくる」

[独ケーニヒス・ヴスターハウゼン発]「われわれは歴史をつくることができる。今こそ行動を起こそう」――極右の新興政党「ドイツのための選択肢」の中でも最右翼のビョルン・ヘッケ・テューリンゲン州党代表が応援演説に立ちました。

旧東ドイツのブランデンブルク州とザクセン州で9月1日に投開票が行われる州議会選。ベルリンから列車で30分弱のブランデンブルク州ケーニヒス・ヴスターハウゼンの小さな広場に約500人が集まり、「選択肢」の選挙集会が開かれました。

「選択肢」の州議会選集会(筆者撮影)
「選択肢」の州議会選集会(筆者撮影)

「ビョルン・ヘッケは『選択肢』の中でも最高だよ」。地元の高校からやって来た14~15歳のフローリアン、ティモ、ルイス君の3人は目を輝かせました。「学校の先生たちはSPDを支持しているので、『選択肢』の集会に参加すると言ったら反対された」と言います。

学校で生徒たちのアンケートを実施したところ「選択肢」が首位で26.2%、90年連合・緑の党(以下、緑の党)が20.6%、社会民主党(SPD)が10.6%、左派党が9.2%、キリスト教民主同盟(CDU)が9%だったそうです。

フローリアン君たちの高校では「選択肢」と緑の党がすでに二大政党になり、主要政党のSPDとCDUは大きく後退しています。「世間では極右と呼ばれる『選択肢』をどうして支持しているの」と3人に尋ねてみました。

「ドイツを良くしたいからだよ。自分たちの世代に降りかかることは自分たちで決めたい。『選択肢』は過激ではない。2015年の欧州難民危機で不法移民が随分増えた。ナイフを使った犯罪が目立ち、安全ではなくなった。学校の先生も少ないし、アンゲラ・メルケル(首相)は完全に敗北している」

「『選択肢』こそ私の政党だ」

3人のうち1人は物理が得意なのでそれを生かした仕事に就きたいと夢を語り、残り2人は軍人になると話しました。旧東ドイツの共産主義体制を経験した両親は学校の先生と同じで「選択肢」は悪い政党だといい顔をしないそうです。

「でも『選択肢』を応援している親もいるよ」

1999年に生まれた20歳の女子学生は会場の設営を手伝いながら、「『選択肢』を応援しているのは、やはり不法移民が増えたから。住宅費や生活費など支援を続けるのは大変よ。困るのは私たちの世代だから」と話しました。

99年に両親とともにベラルーシからドイツに移住したオフィスワーカーのセルゲイ・スプリンガーさん(25)は「選択肢」の青年組織に所属しています。「『選択肢』こそ私の政党だ。旧東ドイツのドイツ社会主義統一党(SED)からSPDになってバス一つとってみても良くなっていない」

「私たち家族は苦労してドイツ人になった。しかしイスラム系の不法移民はドイツ語をはなさず、ドイツ文化にも馴染もうとしない。『選択肢』のメンバーになると勤め先をクビになる人もいる。そうしたリスクを冒して活動するのは、ドイツのためだからだ」

SPDの党首代行らが参加して近くで開いた反「選択肢」連合集会には約700人が参加しましたが、警察が厳重な警戒態勢を敷いたため、「選択肢」支持者との衝突はありませんでした。

東西の分断に付け入る

ベルリンの壁崩壊から30年。ドイツでは経済格差など東と西の分断が浮き彫りになっています。

ブランデンブルク州では現在第1党のSPDと「選択肢」が互角の争いを展開し、ザクセン州は第1党のCDUが「選択肢」に激しく追い上げられて苦戦を強いられています。

選挙集会に集まったのは高齢者が中心です。ベルリンにあるナチスに虐殺されたユダヤ人犠牲者を追悼する「ホロコースト記念碑」を「首都中心部に設置された恥ずべき記念碑」と批判したヘッケ氏の演説に支持者はドイツ国旗を振って応えました。

ベルリンの壁崩壊につながった旧東ドイツの民主化運動では「われわれこそが人民だ!」という掛け声が使われました。今、「選択肢」は東と西の分断に付け入り、「選択肢」こそが旧東ドイツの人民の声を代表していると宣伝しています。

共産主義から資本主義への急激な変化に置いてけぼりにされた旧東ドイツ住民の不満を煽っているのがヘッケ氏です。ザクセン州の州都ドレスデンは「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国主義者」(ペギーダ)の拠点としても有名です。

ブランデンブルク州、ザクセン州のいずれかでも「選択肢」が第一党になると、メルケル首相の求心力はますます下がるのは避けられそうにありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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