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2019年、中国ファーウェー叩きで、はじまった新たな『テクノロジー冷戦』時代と『エレファントカーブ』

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
写真:ロイター/アフロ

KNNポール神田です。

2018年が終わる…そして、新たにこのファーウェイに関する問題は2019年に引き継がれることになった…。

やはり、ファーウェイショックの要因は、米中の経済間における新たなる『テクノロジー冷戦』だと思う。

「孟晩舟(もうばんしゅう)の逮捕とその報復とみられるカナダ人の勾留。そして、トランプ大統領の常套手段化するバッシングしつつ譲歩をせまる交渉術の弊害によるものではないだろうか?2019年に引き継がれるこの問題を考えてみたい。

米国の要請を受けたカナダが、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の副会長兼最高財務責任者(CFO)、孟晩舟(もう・ばんしゅう)容疑者を逮捕(その後保釈)し、一方で中国当局がカナダ人男性を相次ぎ拘束した事件。米中欧メディアはいずれも次世代移動通信システム(5G)をめぐる「覇権戦争」が根底にあると分析。米中の対立は今後、世界が再び分断される“第2次冷戦”に発展する懸念も強まっている。

出典:ファーウェイ事件と“米中冷戦” 環球時報(中国)「5Gの野望は妨げられない」

すでに、ファーウェイ(華為技術)はスマートフォンでは世界第2位、回線通信機器では世界第一位のメーカーとなっているだけにこのファーウェイのCFO孟晩舟(もう・ばんしゅう)の逮捕は、日中の問題だけではなく、世界的な波紋となっている。米国Appleの『iPhone』の不買運動から、カナダのアパレルメーカーの『カナダグース』の開店延期なども起きているという。

売上10兆円のファーウェイの首を占めると自らの首も閉まるファーウェイ包囲網

比亜迪(BYD)など中国企業に交じり、ブロードコムやジャパンディスプレイ(JDI)、SKハイニックスなど米日韓の企業がずらりと並ぶ。「10兆円の売上高を持つファーウェイの影響範囲を見極めなければ」。

2017年のファーウェイの調達額は半導体だけで140億ドル(約1兆6千億円)に達する。中国メディアによるとクアルコムからの調達が年18億ドル、インテルが7億ドルと、多くを米企業などから調達している。

出典:ファーウェイ包囲狭まる 10兆円経済圏、供給網に影

もはや『ファーウェイ=中国企業』 だからアウトという単純な発想だけではすまされない。ファーウェイそのものは、中国企業であることに変わりはないが、ファーウェイの調達先は、グローバル化している。売上10兆円ともなると、その原価の中に含まれる外国製品への影響も多大だ。ファーウェイを締め出すことによって、半導体であるクアルコムやインテルらも損害を被る事となる。むしろ、グローバル時代の経済的制裁は、自らの首を締めていることにもなりかねない。

「責め立てて、ゆるめる」トランプ流の交渉スタイル

トランプの国際交渉スタイルは実は常に一貫している。まずは、責め立て、そこから対話に持ちこむという交渉のパターンだ。北朝鮮への交渉スタイルもロケットマンからのバッシングで始まり、握手による会談に至るまで。成果の打ち出し方にはこのパターンが多い。実際に、米国は、ファーウェイ幹部の逮捕から米国輸入車における報復関税を3ヶ月停止の利益を挙げている。特に中国の民間企業のファーウェイとは、今後の5G回線市場での利権問題に大きく絡んでくるからだ。バッシングし責め立てて、5G回線では有利な条件を引き出すという戦術が見え隠れしている。

中国では、『中国製造2025』を2015年5月から掲げている。

次世代通信規格「5G」のカギを握る移動通信システム設備では25年に中国市場で80%、世界市場で40%という高い目標を掲げた。

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO38656320X01C18A2EA2000/

この目標に向かい、大きな5G市場にむけての牽制とも捉えることができるだろう。

ソフトバンクと中国との立場

また、米国のファーウェイ製品の締め出しに続き、日本の政府もファーウェイ製品を示唆した。余計な物が入っていたという。余計な物は見つかってはいない。まるで、ブッシュ政権時の『大量破壊兵器』を保持している指摘し、結局は見つからないという同じケースでもある。ファーウェイは新聞広告まで打ち、名誉挽回に務めた。また、ファーウェイ機器を使用するソフトバンクは4G回線の利用の通信機器を北欧製品にスイッチするという。しかし、ソフトバンクがたとえファーウェイ製品を交換したとしても、中国企業との立場は変わらない。

アリババ、ARM、サウジアラビアとのビジョンファンドというグローバルな組織体

すでにグローバルな企業にとって『国籍』とは、税を納める『納税国』を意味するところへとシフトしているのではないだろうか?国が『国益』と『国民』を守ろうとしても、経済的なより強固なつながりで国家を超え経済同盟を資本関係でつながりをもちはじめている。より、課税されない有利な国へ移動したり、自由なビジネスが保たれる場所へとシフトする。そして、何よりも、中国やインドという圧倒的な国民数で経済発展する国においての経済は、大きなパラダイム・シフトを生み出す。

特に『ソフトバンクグループ』のように、アリババとの資本関係のともなう『同志的的結合』を展開で中国経済にかかわったり、ARMという半導体の上流デザインを牛耳るイギリス企業を傘下に持ち、絶対君主国家のサウジアラビアと共に投資活動をおこなう『ソフトバンクビジョンファンド』などの複合的なグローバル企業群となると、米国のアップルや台湾の鴻海(ホンハイ)、UAEのムダバラ開発公社などと経済的なグローバル多国籍軍の投資が集まる。もはや、国家の枠組を超えても、経済的な連携が結ばれようとしている。

『エレファントカーブ』を生んだ『極端』と『テクノロジー冷戦』のはじまり

『エレファントカーブ』出典:日経ビジネスONLINE
『エレファントカーブ』出典:日経ビジネスONLINE

「エレファントカーブ」と呼ばれるグラフは、世界の富裕層が所得を伸ばす一方で、先進国の中間層だけが伸び悩んでいることを示している。まさにこの現象が、「反グローバリズム」を掲げ米国民の支持を集めた、トランプ現象を生んだと言える。

出典:「エレファントカーブ」がトランプ現象を生んだ

エレファントカーブ』とは、象の鼻先と背中が物語る、経済構造のカーブだ。何よりも象の背中の部分は後進国の中間層が飛躍的に伸びて象の背中を構成する。そして、先進国の中間層は伸び悩み象の口元で落ち込む。そして、極一部の世界の富裕層が圧倒的な象の鼻先を牽引するという構造である。

かつての『冷戦』とは『資本主義VS共産主義』と誤解されているとみずほ証券の北野一氏は指摘する。氏は、冷戦とは、『バランスVS極端』であったと分析する。それを『資本主義』が勝ったと総括したアメリカは、『極端』な資本主義へと走る。

そして、今さらにトランプ政権は、『極端』な資本主義を加速化し、習近平政権は、資本主義そのものを否定しての毛沢東時代の『極端』な独裁を目指そうとしている。まさに、テクノロジーの進化による『極端な資本主義』はテクノロジー時代の冷戦を引き起こそうとうしているといっても過言ではない。リーマンショックは、資本主義の問題ではなく、極端な資本主義が、生んだ結果がもたらした問題である。

今度の主役はデジタルな『テクノロジー冷戦』

エレファントカーブの鼻先は、GAFA企業に代表されるIT産業であり、スタートアップの一部の経営層が富の大部分を搾取する。そしてエレファントカーブの背中は、コモディティ化したスマートフォンによる革命で伸びてきた新産業やサービスの恩恵を得た後進国の人々が一気に中間層となった結果だ。

エレファントカーブの『極端』の原因は、資本主義や共産主義ではなく、スマートフォンに代表されるデジタルツールがもたらしたテクノロジー層と変化しない先進国の中間層だ。新たな『テクノロジー冷戦』は、国対国の冷戦ではなく、極端対極端の熱い、冷戦へと進化している。エレファントカーブの鼻の付け根が拡大化すればするほど、このデジタル冷戦をきっかけに新たな戦争を生み出しそうだ。

2019年、新たな経済テクノロジー冷戦にどう対応するか?米国の顔や市場を見ているだけでなく、グローバル企業のあり方と日本のような先進国中間層への利益分配が大きなテーマとなることだろう。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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