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米戦略爆撃機「Bー1B」の精密誘導弾投下訓練への北朝鮮の対抗カードは何か?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国の演習場に精密誘導弾の投下訓練を実施した「B-1B」(韓国国防部配信)

 米戦略爆撃機「Bー1B」が6月5日、朝鮮半島上空に飛来し、韓国空軍戦闘機と合同訓練を行い、韓国内の射撃場に精密誘導爆弾(JDAM)を投下した。

 「Bー1B」は核兵器は搭載していないが、「GBU-31」と「GBU-38」など合同直撃弾、長距離空対地巡航ミサイル「JASSM」など在来式兵器で930km離れた場所から北朝鮮の核心施設を半径2~3km内での精密打撃が可能である。有事時の「爆弾の母」と言われている「GBU-43」や地下60メートル攻撃可能な「GBU-57」など最大で61トンの爆弾を搭載できる。最大速度がマッハ2と戦略爆撃機の中では最も早く、グアムから2時間で飛んで来れる。

 「Bー1B」は昨年、2月に2回(1日、19日)、3月に2回(3日、19日)、8月に1回(30日)、12月に1回(20日)の計6回、グアム基地から出撃し、韓国の戦闘機と合同演習を行っていたが、これまではデモンストレーション飛行するだけで、実際に爆弾を投下することはなかった。韓国国防部の発表によれば、一触即発の状態にあったトランプ政権下の2017年以来、7年ぶりのことのようだ。

 確かに「Bー1B」は2017年に3月15日、軍事境界線に近い江原道寧越郡にある通称「必勝射撃場」と呼称されている上東邑射撃場で1時間にわたって爆弾投下訓練を非公開で実施していた。この年は9月にも2機飛んできた。

 当時は、北朝鮮ががレーダーでキャッチし、国営通信「朝鮮中央通信」が「(米軍機が)我々の対象物を先制打撃するための核爆弾投下訓練を行った」と報道したことで明るみに出たが、米韓軍当局は肯定も否定もせず口をつぐんでいた。しかし、今回は米韓軍当局共に「BーIB」の爆弾投下訓練を堂々と公表し、写真まで公開している。

 偵察衛星の打ち上げ、延べ18発の短距離弾道ミサイルの連射、韓国への「汚物風船」散布、さらにはGPS攻撃などを繰り広げる北朝鮮への牽制、威嚇警告であることは間違いないが、北朝鮮は許しがたい「挑発行為」と受け止めるであろう。

 「B-1B」は北朝鮮が最も恐れている戦略爆撃の一つである。2017年3月当時は北朝鮮には迎撃能力はなかった。それにもかかわず対南宣伝媒体であった「我が民族同士」が「B-1B」を撃墜する仮想映像を公開し、米国を威嚇していた。

 また9月の時は国連総会に出席していた李容浩(イ・ヨンホ)外相が「これからは米国の戦略爆撃機が例え我々の領空境界線を越えていないといっても任意の時に撃ち落とす権利を含めすべての自衛的対応の権利を保有することになるだろう」と強気なコメントを発表していたが、いずれも妄想、空想に過ぎなかった。

 しかし、今年は「Bー1B」と並ぶ地下200mの地下バンカーを焦土化するバンカーバスターだけでなく、核爆弾も搭載可能な戦略爆撃機「Bー52H」も4月に済州島沖の日韓の防空指揮別区域(ADIZ)が重なる地域で日韓と合同空中訓練を実施していたことや今月実施される日米韓海上合同訓練に原子力空母「ロナルド・レーガン」の参加が予定されていることから北朝鮮としては何らかの対抗措置を取らざるを得ないであろう。

 原子力空母については昨年11月に「カールビンソン」が2017年以来、6年ぶりに韓国に入港していたが、「ロナルド・レーガン」が韓国に入港すれば、米空母としては7か月ぶりということになる。

 北朝鮮が2017年当時、啖呵を切っていてやらなかった対抗措置が2つあった。

 一つは中距離弾道ミサイル「火星12号」4発による「グアム包囲射撃」である。

 北朝鮮はこの年の8月8日、「核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧、牽制し、米国に重大な警告シグナルを送るため、中長距離戦略弾道ロケット『火星12』(4発)によるグアム周辺包囲射撃を断行する作戦案を慎重に検討している」との戦略軍報道官声明を出していたが、強行しなかった。

 もう一つは、太平洋での水爆実験である。

 この年の9月に金総書記は国連総会でのトランプ大統領(当時)の「北朝鮮を完全破壊する」の発言に激怒し、「我々もそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」との声明を出したことがあった。

 「史上最高の超強硬対応措置」について国連総会に出席していた李容浩外相が個人的な感想として「おそらく歴代最大級の水素爆弾の地上実験を太平洋上でやるのでは」と発言したことから水爆実験の可能性が取り沙汰されたが、現実的には不可能である。

 太平洋上の核実験は米国のレッドラインを超えるだけでなく、北朝鮮国内での核実験や弾道ミサイルの発射実験とは異なり全世界を敵に回すことになる。大気圏の核実験は1980年の中国を最後に実施されてない。それを強行すれば、北朝鮮はまさに「人類共通の敵」として指弾されからである。

 そうなると、現実的な対抗策として考えられるのは大気圏再突入の実験と称し、ICBM「火星17」や新型固体燃料ICBM「火星18」をロフテッド(高角度方式)ではなく、正常角度で太平洋に向け発射することである。

 実際に金総書記の代理人である妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長は昨年2月20日、米韓合同軍事演習を非難する談話の中で「太平洋を我々の射撃場に活用する頻度は米軍の行動の性格にかかっている。情勢を激化させる狂信者らにその代償を払わせる意志に変わりがないことを再度確言する」と、不気味な発言を行っていた。

 6月6日午後1時現在、北朝鮮からの反応はない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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