「監獄みたいだ」夢の平壌で苦しむ北朝鮮の水害被災者たち
北朝鮮の金正恩総書記は、7月末の大水害で被害に遭った人々のうち、子ども、老人、病人、栄誉軍人(傷痍軍人)、乳児とその母親を平壌に連れていき、復旧工事が終わるまで面倒を見ると、大風呂敷を広げた。
先月15日、1万3000人の被災者が平壌に到着し、金正恩氏は歓迎演説で出迎えた。被災地に残された人々からは「平壌に行けて羨ましい」との声が上がっていたが、実際はそうでもないようだ。
米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、実際に平壌に行った伯父に会った平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋の話として、被災者は朝から夜までギチギチのスケジュールで縛り付けられ、とても苦しい思いをしていると伝えた。
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朝6時に起こされ、朝の体操、労働新聞を読む時間、最高尊厳(金正恩氏)の人民愛を学ぶ思想学習の時間などが夜の9時まで続くという。また、平壌の別の情報筋によると、革命史跡地や烈士陵などに頻繁に連れて行かれ、自由時間は全くないという。
「まるで平壌監獄にいるようだ」(ある被災者)
また、栄養状態にも問題があるようだ。
平壌のデイリーNK内部情報筋によると、朝鮮労働党中央委員会(中央党)は、平壌に滞在している被災者の大部分が健康状態が悪く、その原因は栄養失調にあるとして、朝鮮労働党平壌市委員会(市党)に対して先月末、「栄養失調を退治せよ」との指示を下した。
RFAの情報筋によると、宿舎で出される食事は白米、油の浮いている白菜のスープ、ナスなどだが、この食事そのものより、被災地にいたころの食事がよくなかったようだ。
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「現在、平壌に滞在している被災者のほとんどは、地方で苦しい生活を強いられ、まともな食事が取れていなかった。肉などのタンパク質や油を口にすることがほとんどなかったため、新しい環境(と食事)が問題を引き起こしているようだ」(情報筋)
油の浮いたスープを飲んでも消化できず、下痢やアレルギーの症状を起こしているという。なお、栄養失調を治療するには、数日間サプリや点滴を投与して、まずは必要最低限の栄養を与えてから、徐々に普通の食事に戻していく。急に栄養のあるものを食べさせると、リフィーディング症候群で最悪の場合は死に至る。
被災者の状況を把握した中央党は市党を通じて、市内の各区域の党委員会に対し、医療機関と協議して、栄養状態に合った薬品、健康食品、精のつく食べ物を与え、実の家族のように接し、平壌滞在中に何の不便もないようにせよと指示を下した。
また、病気や栄養失調になる人を一人も出してはならず、被災者の健康回復事業に最善を尽くせとも命じた。
中央党はさらに、被災者の出身地の党委員会に対して、「被災者が帰宅後に食べる食糧、燃料、キムジャン(越冬用のキムチを大量に漬けること)などの越冬準備を心配することのないように助けてやれ」との指示も下した。
担当者は被災者に対して、「帰宅しても必要なものは準備するよう政府が動いているから心配せずに健康管理に気を使って欲しい」と安心させている。
金正恩氏の名の下に行われているプロジェクトだけあって、被災者が住むところも食べるものもなく放り出されることはないだろう。しかし、被災者を栄養失調に追い込んだのは、経済政策や食糧政策など根本的な政策の間違いにある。
市場抑制策により、商売ができず現金収入が得られないため、食べ物を買えないという状況が解決されない限り、たとえしばらくの平壌暮らしで丸々と太ったとしても、しばらくすれば再び飢餓に苦しむことになるだろう。