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中国、西日本豪雨災害と赤坂自民亭を大きく報道

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
西日本で記録的豪雨(写真:ロイター/アフロ)

 中国の微博(ウェイボー)はいち早く災害の動画をネットに上げ、日本の惨状に驚くとともに、5日夜の赤坂自民亭の宴会にも失望の声を上げた。中央テレビ局CCTVと中国大陸のネットにおける報道を見てみよう。

◆最初に動画を流したのは微博

 筆者が最初に今般の西日本豪雨災害に関する動画を見たのは、中国のネットユーザーが「微博(ウェイボー)」にアップした被災者の映像だった。一面の泥水の中に一軒の家の屋根だけがポツンと見え、その屋根の上に数名の人がのっかって助けを求める場面だ。おそらく近隣に住んでいる中国人が撮影したものだろう。

 そこには中国語で「えっ!これが日本?日本って先進的で技術の高い国じゃなかったの?」というコメントがあった。日本の報道では、まだここまでの状況を映し出してなかった時のことである。

 つぎに注意を引いたのは、やはり微博にアップされた「豪雨災害の中、自民党は党幹部らが宴会を開いていたんだってよ!人民の命より自分たちの政権の方が大事なのは、どの国も同じなんだ!がっかり!」というコメントだ。

 しばらくすると、「人の命よりカジノの方が大事なんだ」というコメントも現れてきた。

 ハッとして、中央テレビ局CCTVを観てみた。

◆CCTVでは

 CCTVの国際関連では、タイのプーケット沖における、中国人観光客を乗せた船が転覆した事故が中心だった。船には中国人観光客120人余りが乗っており、7月5日に暴風雨に遭って転覆した。40人以上が死亡し、行方不明者がまだ見つかっていないが、タイの洞窟に閉じ込められたサッカー少年たちの救助に優秀な潜水員たちが回されてしまって、転覆した船の行方不明者を捜索する人員が足りない。タイ政府側は、「われわれの警告を無視した中国のツアー業者側に責任がある」と突っぱねたものだから、CCTVの報道は、被害者親族らの怒りといら立ちに満ちていた。

 そのような中でも、西日本の豪雨災害に関する報道にそれなりの時間を割き、災害がここまで広がった原因の一つに「中央行政と地方行政の連携のまずさがあり、特に気象庁の予報と日本政府の呼応が十分でなかった」という趣旨の解説をした。

 何を言おうとしているのか、瞬時には理解できない解説だ。

◆ネットで大きく扱った豪雨災害と赤坂自民亭

 そこで中国大陸のネット空間を調べてみた。

 すると、西日本豪雨災害に関する情報のほとんどが、赤坂自民亭での酒宴の話と結び付けて報道されているのを知った。

 たとえば、「日本暴雨130人死亡なのに、防衛相は宴に顔を出すことを忘れていない」とか「日本は大雨で130人死亡、防衛相はそれでも宴に参加し“救助に差し障りはない”と表明」などがある。同じものをあちこちが転載して広がっているようで、災害の悲惨さとともに、災害が進行しているのに安倍首相は自民党が主宰する酒宴で気勢をあげていた、というのが主たる内容だ。

 リンクしたページの小野寺防衛相の写真の少し上に書いてある「7月5日」という文字の付近を見て頂きたい。そこには「7月5日の昼間(白天)、気象庁が今回の暴雨は尋常ではない激しさで、記録的な大雨となり得るので、厳重な警戒が必要だという警報を出しているのに、安倍内閣の陣営はなぜ(同じ日の夜の)宴に駆け付けたのか?」「果たして危機管理意識はあるのか?」などとある。

 また中国政府の通信社である新華社は「日本西部の暴雨により176人死亡――地方は災害に遭っているのに、酒宴は逃さない、日本政府に批判」というタイトルの記事を載せた(リンク先は華西都市報が転載したもの。文末に「新華社による」とある)。

 これを読むと、ようやくCCTVが何を言っているのかがわかってくる。

 そこには「日本の気象庁は(7月)5日の明け方に大阪府北部地震災害地域に災害警報を発布し、午後(2時)には東京と大阪で緊急発表を行ない、各方面に警戒を呼び掛けた」と書いてある。

 そして安積明子氏が東洋経済で書いている<豪雨でも「宴会自慢」をやらかす"想像力欠如" 安倍政権の売りは危機管理能力だったのに…>という論考が引用されている。

 つまり、CCTVの解説も含めて、中国の報道が言いたいことは「中央政府と地方行政が緊密に連携していない」ということと「気象庁がこれだけ警戒情報を発布しているのに、日本政府はそれに緊急に呼応できず対応が遅れて、被害が広がった」と言いたいのだということが見えてくる。

 いや、あなたの国に、そのようなことを言われる覚えはないが……と反論を書きたいところだが、中国が日本の情勢分析をして対日戦略を練ろうとしていることは分かっているので、一応、中国がこのたびの災害と日本政府の対応を、どのように分析しているのかを知っておくことは、日本の対中戦略を考える上で、無駄ではないだろう。彼らは安倍政権のどこに弱点があるのか、日本の国力のどこに構造的脆弱性があるかを必死で見つけようとしている。そこには尖閣を狙う中国の姿さえある。その中国をくまなく分析しておいた方が、こちらの研究には役立つ。

◆日本の報道

 念のため。

 順番が逆になったが、日本がどのように報道しているのかが気になったので、ネットで調べたところ、TBSのNスタの報道をかなり詳細に紹介してあるページを見つけた。日本の方々には紹介するまでもないことだろうから、詳細は省く。

 ただ、どうやら5日の夜に赤坂自民亭の楽しげな様子をツイートした西村官房副長官は、その謝罪と弁明により、5日には早くから警戒情報が出されていたことを認識していたことを明確にする結果を招いている。5日の昼間から知っていたのであれば、緊急にその事態を安倍首相に報告し、国土交通相や防衛相などを中心に災害対策本部を立ち上げて地方政府と緊密に連携し合うべきだっただろう。

 緊急避難情報を地域住民に伝える方法などに関しても迅速にして適切な指揮を徹底させることができたかもしれない。気象庁は早くから数十年に一度の記録的豪雨になる可能性があることを警告していたのだから。

 そのリスク管理が迅速でなかったために、より多くの命を奪った結果を招いたことは否めない。緊急避難情報が出されるのが遅かったり、それが届かなくて逃げ遅れたために命を失った住民の方もおられる。そのことが悔やまれる。

 

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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