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プレミアムフライデーの1年を経団連会長・副会長の言葉で振り返る 経団連・経産省は総括を

常見陽平千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家
記念すべき第1回目のプレミアムフライデーでネクタイを買う経団連会長(写真:つのだよしお/アフロ)

 今月も最終金曜日がやってきた。プレミアムフライデーである。今日で1周年だ。

 読者の皆さんの「プレミアムな週末」のご予定はいかがだろうか?私は午後から千葉県商工会議所のセミナーで地元中堅・中小企業向けに講演する。終了予定時刻は16時半だ。その後、東京に移動して18時半からメディア系労組の春闘に向けた集会で演説だ。私も、参加する方にもプレミアムな週末など存在しない(労組の集会はプレ金に合わせたのかもしれないが)。

 プレミアムフライデーの1年を振り返ることにしよう。結論から言うと、成功とは言い難いことは明々白々だ。ただ、これは国をあげた実験の一つだったといえる。この施策を推進する経団連・経産省は敬虔な反省を持つべきだが、具体的に何がいけなかったのかを振り返り、今後の教訓とするべきだ。

プレミアムフライデーの危険性

 私は、このプレミアムフライデーが始まった時から、この取り組みは普遍的・根本的問題を孕んでいると警鐘を乱打し続けてきた。改めて、私の批判のポイントを整理しよう。

 

 給料日の直後とはいえ、月末の忙しい時期に15時に仕事を切り上げるのは無理筋だ。その日に早く帰るということは、他の日の残業を誘発する。サービス残業を誘発する可能性だってある。そもそも、日本人が残業をするのは、顧客の都合で突発的な仕事が発生することや、仕事の絶対量が多いからであることは、厚生労働省の『平成28年版過労死等防止対策白書』などで明らかになっている。さらには、早く帰るということは取引先が忙しくなる可能性だってある。サービス業はかき入れ時とも言えるが、休めなくなる。一方、これにより、所得が減少する労働者も存在する。

 消費の文脈で言っても、企業の業績回復が所得に反映されていないのであれば、さらには社会に先行き不透明感がなければ消費しようという気にならない。そもそも、経団連企業も含め、消費を促進するための施策は十分だったか。

目新しさは見られない

 本日はプレミアムフライデーサミットなるイベントも開催されたようだ。リンク先をご覧頂きたい。

 2月の「プレミアムフライデー」情報

 https://premium-friday.com/activity/wp-content/uploads/2018/02/release20180222.pdf

 

 成果を誇張することなく、敬虔な反省を持つイベントにして頂きたい。なお、このリンク先にある取り組みをみても、飲食店のお得キャンペーンなどが中心で、目新しさがないのは明らかだ。そもそも、消費喚起策は乱発されており、プレミアムフライデーなるものに取り組んでも目新しさは皆無である。

 穿った見方をするならば、プレミアムフライデーの「プレミアム」とは、中堅・中小企業など取引先へのしわ寄せ覚悟で、「働き方改革」なるものが上手くいっている風に装う大企業中心の文化にすぎないことが露呈したのではないか。この「プレミアム」なるものは格差によって成り立っているのではないか。

 経団連会長榊原氏にも引退に向けた花道の中で、このキャンペーンを総括していただきたい。彼の発言を振り返ってみても、無責任なのは明らかだ。

 2017年2月2日の記者会見では、彼はこのように語っていた。

 消費マインドを活性化させるためには、根本的な要因であるデフレマインドや将来不安の払拭などに引き続き取り組むとともに、消費者がワクワクした気持ちになり、買い物や旅行がしたくなるように創意工夫することが重要である。今週金曜日の2月24日に始まるプレミアムフライデーは、消費喚起と働き方改革の両方の観点から、毎月の月末金曜日に早めに仕事を終えて、いつもより少し豊かな時間を過ごすという新たなライフスタイルを提案するものであり、官民をあげて推進している。

出典:経団連HP

 「買い物や旅行がしたくなるように創意工夫」「官民をあげて推進」という言葉が並んでいる。しかし、その後、上手くいっていない空気が明らかになると、彼は9月11日の会見では「開始から半年が経過したので、一度、総括する必要がある。」「今後、見直すとすれば、月末というタイミングもその対象になるだろう。」とコメント。10月23日には継続すること、企業によって柔軟に運用することという趣旨のコメントをしている。

 極めつけは2018年2月13日の記者会見のコメントだ。

 毎月月末金曜日がプレミアムフライデーであることは認知されつつあり、浸透は進んでいる。所期の目的はライフスタイルや働き方を変え、消費活性化につなげることであった。一部の大都市でプレミアムフライデー当日は消費が上向いているが、全国レベルではまだ効果は限定的である。開始から一年が経過するのを機に、より活動を強化しなければならない。経産省にしっかり旗振り役を担ってもらうとともに、経済界もさらに積極的に参画していきたい。月末の金曜日は休みにくいという声は根強くあるが、小売、百貨店などサービスの提供者は、給料日後の方が消費に直結するとして、月末金曜日の実施を希望している。開始から一年が経過するのを機に、この点についても議論する必要があるだろう。

出典:経団連HP

 「認知されつつある」とあるが、その論拠はなんだろうか。しかも、それはポジティブな文脈だろうか。毎年月末の金曜日はたしかに、Twitterのトレンドに「プレミアムフライデー」が入る。今日も入っている。ただ、それは、ネガティブな文脈で、である。

 また「経産省にしっかり旗振り役を担ってもらうとともに、経済界もさらに積極的に参画していきたい。」というコメントは無責任そのものである。これは官民をあげた企画ではなかったか。もっとも、ここには穿った見方をするならば、経産省の取り組み不足に対する想いも行間から読み取れる。「経済界もさらに積極的に参画していきたい」とあるが、具体的にどれだけリソースを投入するのか。

 前述したとおり、これは官民をあげた取り組みである。それぞれの旗振り役が腰砕けになってしまったことこそ問題である。

 なお、昨年、「ユーキャン新語・流行語大賞」で「プレミアムフライデー」がベストテンに入った際の、受賞式での経団連副会長石塚邦雄氏のコメント書き起こしを再掲しよう。筆者がその場で録画し、書き起こしたものである。

石塚邦雄氏(以下、石塚):えぇ、ありがとうございます。あの、「プレミアムフライデー」に対しては結構、きついお言葉でですね、受賞理由等をお話しになりました。また、やく(みつる)さんからもですね、さきほどは「批判的に選んだんだ」というようなお話がありました。

「プレミアムフライデー」この2月から官民のプロジェクトとして、まあ、個人消費をなんとか盛り上げたいということで、キャンペーンが始まったわけでございます。で、そのひとつのなかの意義としてですね、小売サービス事業者側がお客様のニーズに合うような商品、プレミアムな商品をもっともっと開発しなければいけない、提供しなければいけない、サービス、イベント、ライフスタイルをもっともっと考えて提供していかなければいけないというところにこの意義があったわけでございますけれど、まあ、そういう努力がたんなかったがゆえに、まだまだ定着していない、浮いていると、いうような受賞理由であったかという風に思います。

ただ、こういう風に、こう新語として、あるいは流行語として、まああの、今日こう受賞させて頂きましたので、この受賞をバネにですね、さらに我々が努力をしてこの「プレミアムフライデー」を定着させていくということをぜひ、あの、頑張って行きたいというふうに思います。ありがとうございました。

司会(男):ありがとうございます(拍手)。石塚さん、この「プレミアムフライデー」ますます定着させるために、色々と努力なさるのでしょうけれども、この具体的な活動はどうなさいますか。

石塚:あの、具体的な活動としてはですね、やっぱり新しいライフスタイルの提案を毎月毎月プレミアムフライデーにやっていくということだと思いますが、もっともっとやらなければいけないのは、小売サービス事業者側が本当にお客様のニーズに合うような商品を開発・提案・提供していく、というようなことではないかなと思います。

司会(男):一体となっていく、と。ありがとうございました。日本経済団体連合会副会長石塚邦雄様でした。

出典:プレミアムフライデーの流行語大賞受賞は褒め殺し 受賞式にやってきた経団連副会長はあっぱれだ(常見陽平)

 開始して約1年なのにも関わらず、「小売サービス事業者側が本当にお客様のニーズに合うような商品を開発・提案・提供していく、というようなことではないかなと思います。」というコメントは牧歌的すぎないか。そもそも、日本の大企業の取り組みが現在の市場や消費者とずれていることが可視化されている。

 このプレミアムフライデーは、働き方改革、消費喚起に対して、この時代にやってはいけないこと、根本的に取り組まなくてはならないことを明らかにしたという意味では意義があるだろう。経団連と経産省は真摯に省み、解決策を提示して頂きたい。

千葉商科大学国際教養学部准教授/働き方評論家/社会格闘家

1974年生まれ。身長175センチ、体重85キロ。札幌市出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。 リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。2020年4月より准教授。長時間の残業、休日出勤、接待、宴会芸、異動、出向、転勤、過労・メンヘルなど真性「社畜」経験の持ち主。「働き方」をテーマに執筆、研究に没頭中。著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。

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