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イチロー "引退セレモニー" シアトルファンが受け取ったイチローの想い #dearICHIRO

山崎エマドキュメンタリー監督

2019年9月14日。シアトルで、「イチロー・セレブレーション・ナイト」が行われた。東京での電撃引退から半年、イチローが長年応援してくれたシアトルファンに感謝を伝える場だ。

「私はベースボールが大好き。3人の孫と11人のひ孫とそして野球。それが私の生きがい」。そう語るのはジェーンさん。ナイターの試合でも午前11時までには球場について開門を待つという、熱狂的な野球ファンだ。

毎日、マリナーズの選手の球場入りを待ち、サインをもらいながら交流を重ねるジェーンさん。長年多くの選手を見てきた中でも、イチローが1番大好きで、もらったサインの数は100以上。「選手たちは私を知らないけど、私にとって選手は息子みたいなもの」。ジェーンさんは、「息子」イチローの英語でのスピーチを楽しみにしていた。

「シアトル市民としては『待ってました』って感じです」と語るのは関口麻弥子さん。夫の仕事の都合で1997年からシアトルに移住。その後マリナーズに入団したイチロー。解き放たれる華麗な姿に虜になるのに時間はかからなかった。

イチローが引退会見で語った言葉がある。「アメリカでは僕は外国人ですから。このことは外国人になったことで人の心をおもんぱかったり、痛みが分かったり、今までなかった自分が現れたんですよね。体験しないと、自分の中からは生まれないので、孤独を感じて苦しんだことは多々ありました。その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだよと今は思います。」この言葉は、日本を飛び出し、異国の地で「外国人」となる経験をした人には、特に心に突き刺さったはずだ。

関口さんは言う。「移民の方は皆さんこっちで慣れていく間にいろんなあつれきがある。でもイチローさんみたいにこっちの環境の中であれだけの技量を見せてくれる。励みでしたよね。『こんなことに負けちゃいられないな』って」。アメリカの国歌斉唱に堂々と参加する関口さんは、移民としての孤独を乗り越えた姿に見えた。自身が孤独を感じながらも、アメリカで成功をしたイチローは他の移民の人たちに大きな勇気を与えていた。

そしていよいよイチローの英語のスピーチ。シアトルのファンの前で、心を込めて思いを伝える。「僕が東京で引退したあの夜、シアトルの素晴らしいファンたちがいなかったため不完全な気持ちでもありました。私を受け入れられない理由もたくさんあったと思いますが、皆さんは両手を広げて私を歓迎してくれました。」

「ワォ…」ジェーンさんから、思わず声が漏れた。今日は自分に直接話しかけてくれているようだ、と感じたことだろう。今日のために作った「All Time Best (歴代1番)」と入ったポスターを高々と掲げ、スピーチに聞き入った。

「私のキャリアの中に誇れることがあるとするなら、日々の挑戦を乗り越え毎日同じ情熱でプレイしたことです。毎日同じ情熱を持ち、自分のやるべきことをやることが必要です。それが自分自身とこの野球という特別なゲームを愛しているファンに与えられる最高の贈り物です。」

ベースボールファンたちに最高の贈り物を送り続けてくれたイチローの想いは、ジェーンさんがしっかりと受け取っていた。

「さぁ プレイボールです!」イチローのスピーチはこう終わり、試合が始まった。もちろん、もう、イチローは試合に出ない。

改めて思う。あれだけ長い期間、私たちを楽しませてくれたイチロー。彼と同じ時代に生きた私たちは、どれだけ幸せか。

イチローファン物語、次回に続きます。
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クレジット

監督・編集 山崎エマ
プロデューサー エリック・ニアリ
撮影 マイケル・クロメット
オンライン 佐藤文郎

制作 シネリック・クリエイティブ

ドキュメンタリー監督

日本人の母とイギリス人の父を持つ。19才で渡米しニューヨーク大学卒業後、エディターとしてキャリアを開始。長編初監督作品『モンキービジネス:おさるのジョージ著者の大冒険』ではクラウドファンディングで2000万円を集め、2017年に世界配給。夏の甲子園100回大会を迎えた高校野球を社会の縮図として捉えた『甲子園:フィールド・オブ・ドリームス』は、2020年米スポーツチャンネルESPNで放送し、日本でも劇場公開。最新作『小学校〜それは小さな社会〜』では都内の小学校の一年に密着。その他、NHKと多くの番組も制作。日本人の心を持ちながら外国人の視点が理解できる立場を活かす制作を心がけている。

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