イグナイターと共にドバイへ遠征中の笹川翼騎手、海外でGⅠに挑む心境を語る
何の伝手もないカタールに挑む
騎手・笹川翼(29歳)と久しぶりに会ったのが、この2月。場所は中東カタールだった。
「“翼”という名前でもあるので、もともとどこか遠い国へ飛んで行って競馬に乗りたいという気持ちがありました。そんな時、JRAの森秀行調教師にカタールのレースで、声をかけていただきました。結果的に森厩舎の遠征はなくなったけど、自分としてはやる気になっていたので、思い切って行く事にしました」
現地での短期免許こそ申請したものの、伝手は何もなかった。それでも、エージェントで英語が堪能な川島光司と共に、2月4日に日本を発った。現地入り後は朝の調教時間も分からなければ、厩舎も分からないまま、競馬場へ向かった。
「適当な時間に行って、見かけた人に次々と声をかけまくりました。最初の4~5日は調教さえ乗れませんでした」
こんなところまで何をしに来たのか?!という焦りが出始めた。川島と共に頭を下げ「とりあえず調教だけでも乗せてくれないか?」と頼み続けた。
「すると、日本に行った事があるというインド人の厩舎マネージャーに偶然、あたりました」
これが縁で2厩舎、乗せてくれる事になった。
「やっと乗れた時は、少しでも進んだかと思え、ひとまずほっとしました」
調教姿勢を見てもらい、同時に必死に売り込むと、ついにレースにも乗せてくれる約束を取り付けた。
「1から掴んだ騎乗馬で、デビューした当初の気持ちを思い出しました。やっぱり海外って良いですね」
失わなかった海外遠征への気持ち
思えば、彼と親しくなったのも、海外遠征がきっかけだった。話は2016年まで遡る。当時、デビュー4年目だった笹川は「以前から興味があった」という海外遠征を敢行。9月4日に機上の人となり、まるまる1カ月、フランスの馬の街で知られるシャンティイで生活をした。その出発の前に、共通の知人を介し、現地でのサポートを依頼され、私も現地へ飛んだのだ。
「勿論、大井の競馬も大切で、なかなか簡単に海外ばかりへは行けませんが、その後もずっと機会があれば行きたいという気持ちは持ち続けていました」
昨年は「必死になって競馬に集中し、周囲のサポートもあったお陰で」(笹川)リーディングを獲得した。
「リーディングはずっと意識していました。年末が押し迫ると強く思うようになって、それがあまり良くない方へ出て、苦しい時期もありました。でも、助けてくださる方も沢山いたので、自分としてはそういう方々の期待に応えるためにもやるべき事をやらないといけないという自覚が芽生え、それが結果的にリーディング獲得に繋がったと思います」
そこで更なる飛躍を考えた時、また海の向こうへ行くべきだと思い、飛んだ先がカタールだった。
「結局2週間の滞在中、5レースに乗せてもらえました。勝つ事が出来なかったのは残念でしたけど、良い経験になりました。1レースの出走頭数も多く、南関東とはまた違う流れの競馬を経験して、勉強になったので、これをまた今後に活かさなければいけないと心に決めました」
愛馬と共に今度はドバイへ
こうして帰国したわけだが、約1カ月後には再び中東の地に降り立った。今度はドバイ。お手馬のイグナイターと共に、ドバイワールドCデーに行われるドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ、ダート1200メートル)に挑むのだ。
「イグナイターにはこれまでも様々な見た事のない景色を見せてもらいました。感謝しかありません。前走のフェブラリーSはそれこそカタールにいたため乗る事が出来ず、後から見たのですが、負けたといっても見せ場のある走りで改めて力を示してくれたと思いました」
そこまで言うと、ひと呼吸置いて、更に続けた。
「個人的な事を言わせてもらうと、どのレースを勝ちたいとか、そういうのはなくて、競馬に乗るのが上手になりたいという気持ちだけですが、イグナイターと関係者の方に対しては、大きいレースを勝って恩返しをしたいという思いが少なからずあります」
現地時間27日の朝には、メイダン競馬場でイグナイターの最終追い切りに騎乗。感触を確かめると、言った。
「馬場に慣れて落ち着いていました。それでいて、闘志を秘めている感じの良い印象を受けました」
果たして現地時間30日に行われるドバイゴールデンシャヒーンで、恩返しが出来るのか。注目して、応援したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)