日本がW杯初戦で対戦するドイツ代表の気になる現状は? 着々と進むチーム戦術の浸透とオプションの構築
W杯本番に向けた準備が進むドイツ
森保ジャパンがパラグアイ、ブラジル、ガーナ、チュニジアと国内親善試合を戦っていた頃、カタールW杯グループリーグ初戦で対戦するドイツは、イタリア、イングランド、ハンガリーとUEFAネーションズリーグ計4試合を戦った。
結果は、3戦連続ドローのあとのイタリア戦で勝利し、4試合で獲得した勝ち点は6ポイント。2節を残した段階でグループ首位の座を伏兵ハンガリーに譲り、ドイツは勝ち点1ポイント差でグループ2位に落ち着いた。
たしかに結果自体は振るわなかったが、長いシーズンを終えた直後の4連戦は、どのチームも選手のコンディションやモチベーションのコントロールに苦しむといった、明確なエクスキューズがあった。
とりわけ、トップクラスのクラブチームに所属する選手を多く抱える代表チームは、思うようなパフォーマンスを見せられなかった試合が各グループで続出。4試合で1試合も勝てなかったフランスやイングランドなどは、その典型例と言っていい。
それを考えれば、今回の4試合でドイツが見せたパフォーマンスは上々の内容だったと言えるのではないだろうか。
特に昨年8月にハンジ・フリック監督が就任して以来、格下相手の試合が続いたW杯予選と違い、今回はイングランド、イタリアといった強豪との公式戦を初めて経験できた。
そのなかで、チーム戦術の再確認とブラッシュアップができたこと、W杯本番に向けたスタメン編成に見通しが立ったこと、そして新戦術のテストによってオプションに目途が立ったことは、カタールW杯本番を見据えた場合、チームを率いるフリック監督にとっては実り多き4連戦になったと思われる。
フリック監督が目指すサッカーが浸透
「4試合目にあのようなパフォーマンスを見せてくれた選手たちに敬意を表する」とは、5−2で大勝したイタリア戦後のフリック監督のコメントだが、実際この試合のドイツは、フリック監督が標榜するサッカーを見事に実践。代表経験の浅い選手を中心に世代交代を進めるイタリアを圧倒して見せた。
フリック体制になってからのドイツは、ハイプレスを基本に、ボールを奪ってから縦に速い攻撃を見せる一方、敵陣でボールを保持する時は幅を広くとって遅攻からゴールを攻略。わかりやすく言えば、フリック監督がバイエルンを率いていた時代のサッカーだ。
第4節イタリア戦では、敵陣でのポゼッションからCBニコラス・ズーレのフィードをきっかけに、最後はSBダヴィド・ラウムのクロスをゴール前に飛び込んだMFヨシュア・キミッヒがフィニッシュ。そのほか、自陣でボールを奪ってからの速攻で好機を作れば、高い位置でボールを奪ってからの鋭いショートカウンターありと、多彩な攻撃で前半からゲームを支配した。
また、4−0でリードしていた69分には、相手GKにFWティモ・ヴェルナーが猛烈なプレスを仕掛けると、焦ったジャンルイジ・ドンナルンマがミスパス。それに反応したFWセルジュ・ニャブリのインターセプトからヴェルナーが5点目を奪うなど、ことごとく自分たちの目指すスタイルがハマってゴールネットを揺らすことに成功している。
「今日はとても高い位置で守備ができ、セカンドボールを多く獲得したことで試合が楽に進められた。ボールを失うリスクを受け入れ、いいプレッシングから意図的にチャンスを作り出すこともできた。まだ課題があるのは確かだが、それらを克服することができれば、誰も我々を倒すことはできないだろう」
イタリア戦を勝利で終えたFWトーマス・ミュラーがそう振り返ったように、この試合のドイツはW杯優勝候補に名乗りをあげてもおかしくないレベルのパフォーマンスだった。たしかに2失点はいただけないが、5−0とリードしたあとに主力をベンチに下げた時間帯の出来事だっただけに、それほど大きな問題にはならないだろう。
W杯用ベストメンバーも見えてきた
W杯本番に向けたスタメン編成という点でも、大きな収穫があった。
これまで懸案事項となっていた最終ラインで、左のラウムと右のルーカス・クロスターマンが上々のパフォーマンスを継続。これにより、基本布陣の4−2−3−1の場合は、CBアントニオ・リュディガーを大黒柱にズーレがCBコンビを組み、右SBにクロスターマン、左SBにラウムという第4節イタリア戦の4人がファーストチョイスになりそうだ。
ダブルボランチは、守護神マヌエル・ノイアーとともに4試合連続先発を果たしたキミッヒを軸に、バイエルンのチームメイトのレオン・ゴレツカがコンビを組み、攻撃にアクセントを増やしたい場合はイルカイ・ギュンドアンとのセットもある。
攻撃陣は、1トップにヴェルナー、トップ下がミュラー、右ウイングはニャブリ、または右SBでもプレーするヨナス・ホフマン、左ウイングはレロイ・サネ。トップ下も可能なジャマル・ムシアラ、カイ・ハヴァーツ、ケヴィン・フォラントといった戦力も控えており、前線はあいかわらずの激戦区だ。
3バックシステムのテストも実施
そして、今回の4試合のなかで最もハイレベルかつハイインテンシティの試合となった第2節イングランド戦では、オプション戦術として3−4−2−1のテストも実施した。
フリック監督は、3バック左にレフティのニコ・シュロッターベック、中央にリュディガー、右にクロスターマン、右WBにはホフマン、左WBにラウム、ダブルボランチはキミッヒとギュンドアンを組ませ、前線は1トップにハヴァーツ、右シャドーにミュラー、左シャドーにムシアラを配置した。
この新布陣は、第3節のハンガリー戦でも継続。3バックは右からティロ・ケーラー、ズーレ、シュロッターベックに変更したが、両WBはホフマンとラウムが継続して先発し、ダブルボランチはキミッヒとゴレツカがコンビを組むなど、大幅なメンバー変更を行なわなかった。そのことで2試合を通じて、プランBの手応えを掴むこともできた。
もちろん、3−4−2−1の場合もハイプレスは変わらない。そもそもフリック監督の4−2−3−1は、左SBのラウムが頻繁に高い位置を取るため、可変式3バック的な要素もある。それだけに、3バックシステムで戦う時もスムースに対応できていた印象だ。
おそらくフリック監督は、短期決戦のW杯では相手の戦術や戦況によって、4−2−3−1と3−4−2−1を使い分けるつもりで、今回の2試合でプランBも使える目途が立ったことも収穫のひとつ。少なくとも、それだけのパフォーマンスを披露した。
ここまで13試合を戦って、9勝4分けの無敗を継続するフリック監督率いる新生ドイツ。W杯までに残された代表戦は9月に予定されるネーションズリーグのハンガリー戦とイングランド戦の2試合のみだが、その2試合は、本番に向けたチーム作りの総仕上げという段取りになるはずだ。
現段階において、すでにチームの骨格、選手起用法、基本戦術、オプションなどがほぼ定まってきている状況を見るにつけ、チーム作りは順調に進んでいると見ていいだろう。
一方、森保ジャパンのチーム作りの進行状況と比べてみると、そこには大きな開きがあると言わざるを得ない。現状、日本の行く末に不安がつのるばかりだ。
(集英社 Web Sportiva 6月29日掲載・加筆訂正)