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才木浩人投手と浜地真澄投手へ。お母さんからの言葉《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
プロ野球という新しい世界に“挑む”2人。その未来が明るいものでありますように―。

新緑が目にまぶしい季節ですね。虎風荘に入って4か月あまりが過ぎたルーキーたちも、青々とした芝の上を駆けながら成長を続けています。

4月後半にデビューしたばかりの藤谷洸介投手(21)、才木浩人投手(18)、浜地真澄投手(18)の3人は、初登板からここまで同じ試合で、同じイニングを投げてきました。最初は仲良く1イニング無失点という内容が少しずつ違ってきたものの、始まったばかりです。それを“差”とはまだ呼べませんね。前回、5月12日のソフトバンク戦(鳴尾浜)では揃って2イニングずつを投げ、次は3イニングずつになるとか。やがて先発も?と楽しみです。

その中で才木浩人投手浜地真澄投手は、同期8人のうち高校から入団したのが2人だけでしたし、指名順も3位と4位、背番号も35と36。本当に比較されやすい立場と言えるでしょう。ただし、本人たちはあまり気にしていないようですよ。まず、ここまでの2人の成績を書いておきます。

4月19日が“プロ初登板”。四国アイランドリーグplusの徳島インディゴソックスを迎えての練習試合でした。どちらも1イニングで直球のみ。才木投手は打者4人に29球を投げて安打0、三振2、四球1の無失点(最速148キロ)。浜地投手は打者3人に14球を投げて安打0、三振0、四球0の三者凡退(最速147キロ)。

公式戦は4月27日のオリックス戦(鳴尾浜)、5月5日のオリックス戦(神戸サブ)で1イニングずつ。4月27日に才木投手は150キロを出し、浜地投手が初勝利でした。そして5月12日のソフトバンク戦(鳴尾浜)で2イニングずつ。3試合のトータルは以下の通りです。

【才木】4回 (安打4、三振6、四球1) 0勝0敗 防御率0.00

【浜地】4回 (安打5、三振0、四球3) 1勝1敗 防御率6.75

育成の福原、藤井両コーチから

遠征中の本隊とは別に鳴尾浜で残留練習が行われていた、ある日。育成担当の福原コーチ、藤井コーチに2人のことを聞いてみました。

鳴尾浜の残留練習でノックを打つ福原コーチ(中)。左は藤井コーチ、右は浜中コーチ。
鳴尾浜の残留練習でノックを打つ福原コーチ(中)。左は藤井コーチ、右は浜中コーチ。

福原忍コーチ(40)は「藤谷も含め、3人とも真面目ですね。一生懸命やっていますよ。みんな実戦向きだけど、浜ちゃんは (注:福原コーチは浜地投手のことを、こう呼びます) ゲームになるとボールが変わる。ビックリしたくらいですよ。才木もいいボールを投げますね。やっていることが試合にどんどん出ている」と言います。

そして「実戦に投げてから、ちょっと本人たちの気持ちも変わってきましたね。いいピッチングをしたい、いいボールを投げたいでしょうし。いろんな経験をしてレベルアップしてくれたらいいなと思います」と楽しみな様子。ノックをする姿も、すっかり板についてきた福原コーチです。

次に藤井彰人コーチ(40)。「才木は長身から、いい真っすぐを投げますね。150キロ出るんでしょう?受けていても質のいい真っすぐですよ。性格は真面目。いろんなことを、もっとやらせてと言ってくる。浜地は高校生らしからぬ、というかコントロールも体のバランスもいい。投げおろすというより低いところから初速と終速が変わらないストレートですね。性格?おっとりかな」

目立ちたがり屋と恥ずかしがり屋

捕球に失敗した才木投手(右)、ガッツポーズをする浜地投手(左)。
捕球に失敗した才木投手(右)、ガッツポーズをする浜地投手(左)。

では本人に性格を自己分析してもらいます。才木投手は「ただの目立ちたがりです!なれこいですね」。なれこい?「なれなれしいというか…」。誰とでもすぐに親しくなれる、という意味でしょう。「いきなりいきませんよ。最初は探るんです。で、いけそうやなと思ったらグイグイ(笑)」。なるほど。確かに最初からすごく話しやすかったですね。なれなれしいってことはなかったですよ。

8人も一緒に入ったけど、同い年は2人だけ。やっぱり心強い?と聞いたら「浜地と最初は一緒にいたけど、もう今は自立しています」と言って、いきなり歌い出す才木投手。「大人の階段のぼる~♪」とH2Oの『思い出がいっぱい』を披露してくれました。懐かしい曲を知っていますねえ!生まれる前なのに。「カラオケ好きです!なんでも来いです。なんでも下手くそですけど」。会話は完全に才木投手のペースでした。

最後はみんなでトンボかけ。浜地投手が左端、才木投手は右端。
最後はみんなでトンボかけ。浜地投手が左端、才木投手は右端。

一方、浜地投手は「才木とですか?しゃべらないです、一言も。話はしません」と真顔で答えたのでビックリ。え?入団発表の時や安芸キャンプでも一緒にいたけど…と言ったら、ニヤニヤしていました。冗談かいっ(笑)。どんな話をするの?「野球について語り合うことはないですね」。自身の性格を「おとなしいです。前に出るのは好きじゃない」と言います。新入団発表会は?「あれは大丈夫でした。私生活じゃないので」

同期でも先輩がほとんどの中で「同級生がいるのはいいですね」と浜地投手。「でも才木の方が上なので、負けないように頑張らないと。いい刺激にはなります」。指名順位のことでしょうか。いい刺激を与え合って、お互いに進化していけたら一番。同じピッチャー、同い年で指名順位が上の歳内投手と入団した松田投手も「ライバル意識はありませんでした。西田もいたので心強かったです」と、当時を振り返っていました。

「人と場所、立ち位置をわきまえて」

ところで、5月14日は母の日でした。なので両選手のお母さんにお話を聞いています。

才木投手のお母さんは、才木投手そのまま…じゃなくて才木投手がお母さんそのままと言うべきですよね。まず本人が表現した『なれこい』は「何ですか~それ。ああ、たぶん人懐っこいってことでしょうね、きっと。人懐っこくて物おじしない、誰にでも話しかけられる子です。私がそうなんですよ。買い物に行ってレジで並んでいる時、隣の知らない人にも話しかけたりできる(笑)」と言われました。そのDNAですね!

心も体も大きな選手になって、タイガースを支えてください!
心も体も大きな選手になって、タイガースを支えてください!

「でも浩人はちゃんと、“わきまえている”ので安心しています。藤浪さんにも、ちょっと様子をうかがってから話しかけたみたいで」。おっしゃる通りです。そして「最近は、私が浩人に怒られることもあるんですよ。ほどほどにしろって」と苦笑い。その点について才木投手に確認してみたら「そうなんですよ。ある人に伝いたいことがあって連絡するタイミングを計っていたら『○○さんには言うといたよ』って。何で先に言うねん~でしょう?」と文句を言いながら、でも笑っていました。

それと、お母さんがこんなことを。「よく藤谷さんと一緒にいるのを見るんですけど、藤谷さんってカッコイイじゃないですか。だから隣に並ぶなって言ってるのに~」。いやいや、才木投手も負けずに背が高くてカッコイイと思いますけど。「そんなことないです!」。それを伝えたら藤谷投手は「高校の時から、お母さん方にはモテました(笑)」とのことです。

お母さん絶賛の藤谷投手(左)と並ぶ才木投手。鳴尾浜のツインタワーです。
お母さん絶賛の藤谷投手(左)と並ぶ才木投手。鳴尾浜のツインタワーです。

締めに、どんな選手になってほしいですか?という質問をさせていただいたところ、とても真剣に答えてくださったお母さん。

「人を、場所を、立ち位置をわきまえた人間になってほしい。それが野球人としても、人としてもベースの部分だと思います。そして、周りの方々から可愛がってもらってほしい。チームの皆さんや先輩、ファンの皆さんにも。『人から応援してもらえる子になれ。応援は力になるから。そのためには礼儀が大切』と常に言ってきました。言葉使い、挨拶など。中学、高校でもずっと」

「人間がきちんとできた野球人に」

次に浜地投手のお母さんです。「小さいころから極度の恥ずかしがり屋でした。人前だと泣いてしまうくらい。でも不思議なことに野球は大丈夫なんですよ。お遊戯とか音楽の時間とか、運動会で走るとか苦手で、野球で負けた時より落ち込んで帰ってきたことがあります」。なるほど、よくわかりました。野球は私生活じゃないってことですね。

練習を終えて引き揚げる浜地投手。ブルペンから声をかけられ笑顔で答えます。
練習を終えて引き揚げる浜地投手。ブルペンから声をかけられ笑顔で答えます。

初めて投げた4月19日の練習試合は鳴尾浜まで観戦に行かれました。直接会って話もできたのですが…。「久しぶりだったので、ちょっと期待というか、泣き言でも聞こうかなと思っていたんですよ。初めて自宅を離れたので少しはさびしいかも。そうしたら『さびしいって?そんなことでプロでやっていけるか~』なんて言ってやろうと思っていたのに『みんないい人ばっかりで、ここ(寮)が家みたい』と、予想外の言葉!」

高校は練習の見学ができなかったとお母さん。ぜひこんな表情も見にいらしてください。
高校は練習の見学ができなかったとお母さん。ぜひこんな表情も見にいらしてください。

その時を思い出しながら、お母さんは「ああ、ここにもう根っこを張っているんだなと安心した反面、それを見届けたいと思っていたくせに、あれ、そうなの?と唖然。ちょっと悔しかったりして」と少し笑ってらっしゃいました。とても複雑な心のうち、他のお母さんもお判りでしょうね。

どんな選手に?と問いかけたら「人間がきちんとできている野球人に、人間力のある選手になってほしい」と、やはり真剣に答えてくださいます。「野球を追求していく本物の人は、人間を追求している気がします。人間として同時に成長しないと本物になれないと思うんです。野球を人生の職業とするなら、人としてもちゃんと育ってほしい。そうすると自分の思い描く人間像に近づいていける」

そして「華々しくなくてもいいから、野球に人間がにじみ出るような選手に」と締めくくられました。お母さんだからこその、やさしくて深い言葉です。

『母の日』の2人も対照的でした

最後に、母の日のプレゼントについて過去に何度か聞いてみたところ、意外とマメに贈り物をしている選手が多くて関心させられたものです。18歳コンビも何か贈ったのでしょうか。

才木投手は「(実家へ) 花を送りましたよ!」とのこと。お母さんは喜んでおられた?「メール来ました」。というやり取りを、恥ずかしいから内緒にしたかったみたいですが、こっそり書くと言ったら「しらこくお願いします」と言われました。「なれこい」に続いて今度は「しらこく」…想像するに「しれっと」、もしくは「さらっと」って感じかな。母の日のプレゼントは初めてか聞いたところ「去年も渡した気がする」そうです。

カメラに気づいてVサインの才木投手(右)と、それで視線を向けた浜地投手(左)。
カメラに気づいてVサインの才木投手(右)と、それで視線を向けた浜地投手(左)。

浜地投手は、才木投手の取材によると「していないみたいです」とのことだったので、お母さんに確認したら「何も届いていません。っていうか、何か届いたら心配してしまいます(笑)」というお返事で爆笑!すみません。でも母の日のプレゼントは?と前もって尋ねた時に「今までしたことないですね。頑張ります」と言ってニヤッとしていたんですけど、お母さんいわく「ニヤニヤしている時はごまかしています」とさすがの分析。

そして「真澄に会ったら、お伝えください!一流選手になって一流の物をくださいって(笑)」とお母さん。しっかり伝言を承りました!

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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