【東京】池尻大橋駅近くに焼鳥通もうなる穴場!季節感ある20品越えのコースは納得のボリューム!
今回冒険するのは、東京都世田谷区の焼鳥屋「㐂た(きた)」。最寄りは池尻大橋駅。住所でいえば三宿にあたり、食やファッション、インテリアの感度が高い店がひしめく。焼鳥屋なら、ここ「㐂た(きた)」は間違いなく外せない。
三宿界隈のグルメや焼鳥好きが通う店
池尻大橋駅から三軒茶屋方面に歩くこと約10分。お目当ての「㐂た(きた)」は雑居ビルの3階にある。エレベーターが付いていない不便さはあるものの、それでも三宿界隈のグルメや焼鳥好きで賑わう実力店として知られている。
店内はカウンター10席に個室が一つ。居酒屋の居抜きで入ったようで、その名残がちらりほらり。焼き場に立つのは通称・キタロウさん。荻窪の名店「酉の」で研鑽を積み、40代半ばで暖簾を掲げた。キタロウさんが手がける焼鳥はコースのみで、長野県の地鶏「信州黄金しゃも」を軸とした焼鳥に旬菜を織り交ぜた一品の数々を存分に楽しめる。
焼鳥の前に季節を取り入れた前菜を
まずは、前菜3種からだ。訪ねたのが初夏とあってこの日は新ごぼうと酒粕のピューレ、石川県産のわらび、鶏だんごの柏餅。この3品だけでも、ここが一切の手抜きをしない焼鳥屋だということがひしひしと伝わってくるよう。
すがすがしい新ごぼうの香り。わらびの生命力溢れる風味、柏餅のふくよかなうまみ。キタロウさんがいかに季節感を大事にしているか見て取れる。派手さはないけれど、ぐっとくるなぁ、こういう前菜。
信州黄金しゃもの抱き身(むね肉)から
さぁ、期待の1本目は信州黄金しゃもの抱き身(むね肉)。間に挟まれているのはねぎではなくズッキーニというのがなんとも個性的で、これはキタロウさんの修業先「酉の」のお家芸ともいえるネタだ。
「信州黄金しゃもの雌は、しっかり脂がのっているんですが、しつこくない。軍鶏だけど肉質も繊細ですよね。自分のめざす『優しい味』にぴったりな地鶏だと思います」とキタロウさん。
なるほど。しみじみうまいなぁ……。脂が肉にまわるように返しながら焼き上げ、ズッキーニもその脂を吸うことでジューシーに。ねぎにはねぎの良さがあるけれど、ズッキーニも負けていない。1本目からぐっ! と心を掴まれてしまった。
「白レバーです。今日は脂がのっていますよ」とキタロウさん。おお、見るからにそそる色つや。歯がいらないくらいにやわらかく、とろりと消えていく。これはなんて罪な味わい……。
やっぱりこのコク深さは地鶏の白レバーならではの味わいだ。さすがにどの鶏もレバーに脂がのるわけじゃないから、これは希少。ジューシーな抱き身から濃い白レバー、うーん、最高な出だしじゃないか。
串も一品もひと工夫で魅せる
そして、緩急を付けるように出されたのはアスパラ。焼鳥のネタとしてアスパラは定番だけど、さらにひと工夫を加え、卵黄とチーズをからめてコク深く。それがアスパラの甘みやみずみずしさとよく合うんだ。
続くハツも地鶏のハツらしく弾力がありながら、味も濃い。これで地鶏の心臓2羽分かと思うと、ハツも間違いなく希少部位。もう1貫欲するくらいの満足感もきっといいスパイス。
「雄鶏のむね肉のたたきです」とキタロウさん。お、コース中盤でたたきはちょっと意外。雄鶏のむね肉は噛むほどにうまみに溢れ、さらに新玉ねぎの燻製ソースをからめるといっそう味わい深くなる。
いやぁ、これはズルいくらいにうまいなぁ。たたきだからといって、醤油だけで食べるのが正解とはかぎらない。ハッとさせられる逸品だ。それに、この新玉ねぎのソースが肴になるのもいいところ。
つくね&うずらの玉子はインパクト大
つくねとうずらの玉子は2本出しで。うまみをギュッと閉じ込めた、もはや肉塊と思えるようなつくねと、とろっと半熟の仕上がりのうずら。そうそう。つくね、うずら、つくね、うずら……これを交互に食べるのがうまいんだ。
つくねは焼鳥屋にとっては「料理」ともいえるネタ。つくねに使う鶏が若鶏か地鶏か、もも肉だけなのか、むね肉なども使うのか。その組み合わせで無限のレシピが生まれるわけだ。地鶏主体で作ると肉肉しくなるものだけど、キタロウさんのつくねはふっくらとしてとにかく食べやすい。こういうところも、センスが問われるよなぁ。
ここで、大好物のふりそで。ふりそではむね肉と手羽元の間に位置する希少部位で、弾力もうまみもありながら、脂の甘みも充分。皮目をパリッと仕上げれば、もう最高のごちそうだ。
ただ1羽で1本しか取れない希少部位だけに、3人や4人の席だと出る可能性はかなり低くなってしまう。出合えれば、幸運の証。
訪ねたのが初夏ということもあり、ヤングコーンもお目見え。サクッと小気味よい歯ざわり、豊かな甘み。皮ごと炭火焼きにすることで、まるで蒸し焼きのようにほっくりと仕上がる。
ヤングコーンというと「ひげ根がおいしい」と言う人も多いだろうけど、一番うまい部分は"根元"だと思っている。歯ごたえがあり、とにかく甘い。野菜は根元の味が濃いというのは、ヤングコーンも一緒。
茶碗蒸しは、蕗味噌とモッツァレラチーズを使い和洋折衷で。高級焼鳥のコースで茶碗蒸しは定番の一品ではあるけれど、蕗味噌というのは予想もしなかった……。
ただ、ひと口食べてみれば蕗味噌の独特な苦みが広がり、うまいのなんの。まさに大人のための茶碗蒸しといったところで、日本酒が恋しくなる。なんという酒泥棒。
〆のごはんだけでなく、季節のデザートも
焼鳥も一品もしっかり食べて、あとは締めるだけ。「㐂た(きた)」の〆はごはんものから麺ものまで広く揃っているのがいい。悩みに悩んで選んだのは、きじそぼろ丼。肉もそぼろも一緒に味わえるお得感満載の丼だ。卵黄をからめれば、もう文句なしの味わい。
〆のごはんで終わりかといえばそうではなく、嬉しいことにデザートも待っている。ヨーグルトアイスにいちごのソースかければ、甘みと酸味が調和する……。ふつうにアイスを出すだけでも成り立つというのに、キタロウさん、抜かりないなぁ。
「いっぱい食べて満足してもらいたい」
「焼鳥コースは、毎月献立を変えています。なかには定番の肴もありますが、季節の食材を取り入れて旬を感じてほしいというのがテーマです」とキタロウさん。
効率的に儲けることよりも、仕込みに手間をかけてでも自身が納得できる焼鳥屋をつくっていきたいのだろうなぁ。キタロウさんのユニークで愛嬌のある人柄もあって、三宿界隈のグルメや焼鳥好きに深く愛されているのも納得というもの。
「焼鳥に寄り添うような料理をいろいろ考えるんですが、そうするとついつい出し過ぎちゃう。でも、うちに来たらお腹いっぱい食べて楽しく飲んで、満足して帰ってもらいたいですよね」
前菜3種に椀もの、地鶏を使った焼鳥。旬の野菜を使った一品料理の数々、〆のごはんにデザート。そのすべてがうまい!「コストパフォーマンスがいい」というのはこういう店のことをいうのだと思う。
そもそもコスパというのはただヤスウマ・大ボリュームのことを指すわけじゃない。大事なのは「その価格以上の満足感を得られるかどうか」だ。この20品を越える焼鳥コースが8,800円というのは、都内の高級焼鳥シーンにおいては「ハイコスパ」にふさわしい内容だった。そりゃあ、リピーターが多いわけだ。
▼冒険のおさらい
①信州黄金しゃもの焼鳥がうまい
②旬の野菜を使った一品料理もうまい
③〆やデザートまで付いて満腹確実
店舗情報
【店名】㐂た -KITA-
【最寄り駅】池尻大橋駅
【住所】東京都世田谷区三宿1-3-18
【予約】03-4400-8554
【定休日】不定休
【串のアラカルト】なし
【コース(セット)】8,800円~
【鶏メモ】信州黄金しゃも他