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統計問題をどのように捉えるべきか=「事務の正確さ」と「数値の精度」

窪園博俊時事通信社 解説委員
統計は正しく作っても結果は事後的に修正され、かい離が生じることも。(ペイレスイメージズ/アフロ)

 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(通称『毎勤統計』)の不正をきっかけに政府統計への不信が広がっている。国会では、野党が不正の背後に政権の圧力を疑い、安倍晋三首相は否定に躍起となっている。突如として世間を揺るがし始めた統計問題。いったいどのように捉えればよいのか。ここでは統計に初めて関心を持った方を念頭に簡単な解説を行いたい。

現在、問題となっているのは「事務の正確さ」

 経済統計は、まったく関心がない向きには「簡単な集計作業ではないのか」との印象が持たれやすい。実際には、いろいろな工夫を凝らしながら、素人目には、かなり複雑な計算・作業も取り入れて出来上がっている。専門の用語も多く、国会でのやり取りや関連報道で耳慣れない統計用語に接した読者もいらっしゃるのではないだろうか。

 統計問題を考える際、専門用語はとりあえず脇に置き、全体像としては、次のように区分すると整理しやすいように思う。統計を作る際の「事務の正確さ」と、結果として導かれた「数値の精度」である。現在、問題となっているのは前者で、事務作業があまりにもずさんであったことが判明し、政府統計の信頼性が揺らいでいる。

作業は正しくても、厄介なのは「数値の精度」

 言うまでもなく経済統計は簡単には作られていない。それぞれ綿密な作成プロセスが定められている。厚労省の「毎勤統計」でなぜずさんな作業が行われたのか。予算・人員が削られた弊害なら改めて手厚くし、厚労省のガバナンスに問題があったなら規律見直しに向けたテコ入れが必要だ。いずれにせよ、事務面の問題なら修復は可能である。

 厄介なのは「数値の精度」である。今回の不正発覚を受けて統計作業が見直され、不正の余地がなくなれば、統計は正しく策定される。ただし、その結果として導かれた「数値」は、正確な作業に導かれたものだが、実体経済を完璧に正しく反映するとは限らない。これは多くの経済統計の宿命であり、経済を正確に把握することの難しさを意味する。

米雇用統計の事後の修正が大きいのは…

 

 例えば、米国の雇用統計で考えてみよう。同統計は、米連邦準備制度理事会(FRB)が重視する代表的な指標だ。金融市場での注目度も高く、発表の瞬間を世界中のディーラーが待ち受ける。それだけ重要なら雇用情勢を正確に反映している、と思うかもしれない。ところが、同統計の重要項目「非農業部門就業者数」は事後の修正が大きく、数字の信ぴょう性が疑われるほど。

 昨年12月の「非農業部門就業者数」は当初、前月比31万人前後もの大幅増加と発表された。そして、先週1日に今年1月分が発表された際の改定値では22万人前後へと大幅に下方修正された。当初の好調な数字は何だったのか。これは、もちろんトランプ政権の経済政策が好調なことを示す粉飾行為ではなく、統計のクセで振れが大きいのだ。

大きな修正が生じる要因の一つは調査対象の偏り

 「非農業部門就業者数」は毎月、12日を含む週に調査され、翌月初めに速報が発表される。その後に大きな修正が生じやすい要因の一つは「調査期間に間に合わず、後から回答した先の雇用が強い、または弱い、という偏りがあるため」(大手証券エコノミスト)という。調査対象のうち、早めに回答した事業所が強めで、遅れた事業所が相対的に弱めだと大幅な下方修正となる。

 こうした偏りによる修正を解消するには調査期間を長めに取ればいいわけだが、それに伴って発表は後ずれし、「速報性」が失われる。これは米国に限らず、日本も含めた「各国の統計全般に共通する悩み」(日銀幹部)で、統計精度を高めようとするとコストと時間がかかる。統計の速報性が劣ると機動的な政策判断に役立たず、「正しいけれども使えない統計」となりかねない。

「費用」と「速報性」と「精度」のバランス

 毎勤統計の不正は、統計全般への信頼性を損なったが、これを契機にして統計業務が効率性を高め、正しく策定される体制になることが望まれる。そのうえで経済を正しく把握する「数値の精度」を高めなければならないが、あくまでも「費用」と「速報性」とのバランスであり、「精度」については、一定の幅を許容するのが現実的だ。

時事通信社 解説委員

1989年入社、外国経済部、ロンドン特派員、経済部などを経て現職。1997年から日銀記者クラブに所属して金融政策や市場動向、金融経済の動きを取材しています。金融政策、市場動向の背景などをなるべくわかりやすく解説していきます。言うまでもなく、こちらで書く内容は個人的な見解に基づくものです。よろしくお願いします。

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