金融政策は98%がトークとバーナンキ前FRB議長
回顧録の執筆を予定しているとされるバーナンキ前FRB議長が、10月8日に「Nikkei Asian Review」がニューヨークで協賛したシンポジウムで講演したそうである。千人単位の聴衆の前で話すのは今年1月の議長退任後はじめてとなるとか(9日の日経新聞電子版より)。
この講演のなかで、バーナンキ前議長は後任のイエレン議長の対応について、直近の出口戦略の技術的な対応をめぐり手法の一部に疑問を呈した。さらに、中央銀行は「2%が行動(アクション)、98%が言葉(トーク)だと考えている」とも明らかにした。
2%がアクション、98%がトークとの表現は自らの体験に基づくものであろうか。イエレン議長の直近の出口戦略の技術的な対応については何かしら意見があるようだが、自らが議長時代にその出口政策へのトークの難しさは痛感していたのではなかろうか。
2013年5月22日にバーナンキ議長(当時)は、上下両院合同経済委員会の証言後の質疑応答で、景気指標の改善が続けば債券購入のペースを減速させる可能性があると指摘した。FRBの出口に向けた姿勢への変化は市場に動揺を与えた。
5月23日の東京市場では債券先物はサーキット・ブレーカー発動し、現物10年債利回りは2012年4月5日以来の1%台乗せとなった。円安ドル高が進み103円台に。この円安もあって23日の東京株式市場は一時前日比300円を超す上昇となり、日経平均は16000円手前まで上昇した。ところが、債券は売り一巡後は買い戻され、日経平均は16000円手前で買いが止まった。そして、債先売り・株先買いのポジションがひっくり返され、日経平均先物は震災後の2011年3月15日以来のサーキッド・ブレーカーが発動し、日経平均は前日比1143円安と2000年4月以来の大きな下げ幅となったのである。
このバーナンキ発言は、新興国市場に大きな影響を与え株や債券、通貨の下落を招いた。米債も下落し10年債利回りは2%台に乗せて、3%台に向かうこととなった。
しかし、それ以降のかじ取りはうまくいった。2013年12月のFOMCではテーパリングの開始を決定したが、それによる市場の動揺は抑えられた。米長期金利は再び3%台を12月末につけたがそれ以降はむしろ低下しており、ここにきて2.3%近辺にいる。このあたりは後任のイエレン議長の功績のようにも思うが、バーナンキ前議長は米長期金利が低下したことに、むしろ警戒をしているのであろうか。
中央銀行が特に市場と向き合う際には、確かにトークが非常に重要となる。特に金融引き締めの方向の際には、政策変更をどのように市場に動揺をあまり与えずに織り込ませることができるのかが重要である。まさに98%がトークというのはこのことであろう。
バーナンキ前議長は今回の講演後の質疑応答で、米国は長期の経済停滞に陥っているとするサマーズ説には賛同できないとした。「雇用は完全雇用へと近づいている」と反論したそうである。
世界的ベストセラーになった「21世紀の資本論」のピケティ氏の見方に対しても、ピケティ氏の分析が主に富の格差を取り上げていることに対し、「米国ではむしろ所得の格差が大きな問題だ」と述べたそうである。
サマーズ氏とピケティ氏は米国経済の行方についは悲観的ながら、バーナンキ前議長は自らの議長時代の功績も意識してか、強気の見方は崩していない。しかし、ここにきて欧州や中国、さらに新興国の景気悪化が意識され、米国株式市場も大きな調整を迎えている。これが一時的なものであるのかどうか。ここで米国経済まで悪化するとなると、世界経済の先行きがかなり不透明となり、FRBも利上げどころではなくなる恐れもある。このあたり、98%のトークの部分ではなく、2%の本音の部分として、どのようにバーナンキ前議長は見ているのかも知りたいところである。